2022/12/31

2022年度没ネタ整理11




「あたし、あの子に会ったら絶対喧嘩になります」
李典殿にきてほしいと呼び出されたと思ったら、衣舞が曹操様達にそうはっきりと宣言していた。その傍らには先程あった徐庶という男性もいる。確か最初劉備軍にいて、曹操軍の策略にはまり諸葛亮を紹介してから魏に入った人である。そして、確か撃剣の使い手だ。あちゃー、と李典さんが頭を抱える。私はそれをみてから彼女に声をかけた。
「衣舞?」
「ナマエちゃん」
「李典さんに呼び出されたのだけれど何かあった?」
「蜀にいる子が我儘ばっかりで、このままじゃ立場が危ういからあたしに仲介してほしいって」
「蜀にいる子」
「背の高いガリ勉君じゃない方」
「あぁ、あのおとなしそうな」
「あの子おとなしくないよ。ナマエちゃんにはへこへこしてるかもしれないけど、あたしを見下してくるし、あたし絶ったい仲介どころじゃなくて、あたしとあの子が喧嘩することになるし余計に酷くなると思う」
苦々しい顔をした彼女に、ああ彼女がこんな顔をするとは結構本気で嫌なのだと理解する。徐庶と呼ばれた彼が完璧に苦笑いだ。曹操様が彼女を見下ろした。
「珍しいな、衣舞がそこまで嫌うとは」
「喧嘩になっては意味がありませんね」
荀攸殿が頷きながらそうつげる。徐庶殿ははぁとため息をついて見せた。しょんぼりしている犬に見える気がする。
「……曹操様、衣舞は中々に兵達や女官達とも仲が良いため、衣舞が長期間いなくなれば彼彼女らの士気にも関わりましょう。私でよければ赴きますが」
「そうか、ナマエよ、すまんな」
「ごめん、ナマエちゃん、あたしが我儘言っちゃった」
しょげた彼女の頭をぽんぽんしておく。
「衣舞は私ができないことをいつもしているから、気にしなくていい」
「……気にする!から、あたしも甄姫様達にも聞いて何か出来ること増やす!」
そう意気込んだ彼女に曹操様が、では蔡文姫の元に行けばいい、と満足そうに告げる。はい!と元気よく告げた彼女に私はとりあえず徐庶殿に一礼をしておく。
「異邦から参ったナマエと申します。先程は名乗らず失礼を」
「いや……徐元直だ。よろしく、えっと、ナマエ殿?」
困ったように首を傾げた彼に、敬称はいりません、と言えばさらに困った顔をされた。なんでだ。


「ナマエなら大丈夫だと思いますが、蜀では無礼のないように……」
からはじまり、誰に近づかない方がいいやら、徐庶殿はああ見えて軍師だとか色々言われる。よく喋るね、といった賈詡殿に心配しているんだよ、と郭嘉殿が茶々を入れた。その言葉に一瞬荀攸殿は黙ったが、最後に一つだけ、と私をみた。
「あとは、最初の約束は守ったほうが良いでしょう」
「わかりました」
婆娑羅を使うなということだろう。まぁ周りは最初の約束?と食いついたが。


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「ナマエじゃねぇか」
「翔太」
そう呼びかければ、あいも変わらず赤いふくを着た彼は頭をかいた。なんかめんどくせぇ話になったな、と告げる彼に私は肩を竦める。恐らく彼も別の人に仲介を頼まれたのだろう。
「最初は衣舞に頼もうとしたが、衣舞が絶対にウマが合わないと」
「あぁー、だろうな。俺んとこもそんな感じで俺に振られたわ」
頭をかいた彼と共に徐庶殿に続く。ワァワァと騒ぐような声が聞こえ、宥めるような声が聞こえる。真ん中を歩く徐庶殿に、通りにいた将兵文官の視線が向く。
「劉備殿、お連れしました」
そう告げた徐庶殿に、最後の視線がむいた。ふむ、曹操様のような凛々しい目というよりは優しげな目である。おお、徐庶、馬岱、すまなかったな、とまずは部下を労った彼は私たちに視線をむけた。私は一礼をする。翔太もまたそれに続いた。
「魏より馳せ参じました、ナマエと申します」
「同じく呉より馳せ参じました、翔太と申します」
「同郷の同輩がご迷惑をおかけしております。代わりに私が謝罪申し上げます。誠に申し訳ございません」
そう言って頭を深々と下げて止める。合わせた翔太に、顔を上げてくれ、と彼がいうのを待つ。まぁ、それより先に「なんですか、それ」と告げられたが。
「まるで私が……!」
「顔を上げてくれ。謝りにきてもらったわけではないのだ」
そういった彼に二人で顔を上げる。劉備様は困った顔をしている。一人には困惑を、くだんの子にはめちゃくちゃ睨まれているが。ふむ、ここでできるのは、と考える。翔太が頭をかいた。
「私は当たり前のことを言ってるだけです!」
「馬鹿、俺たちの時代の当たり前はこの時代の当たり前じゃねぇんだよ。いい加減理解しろ」
翔太の言葉は恐らくは火に油だろう。目を見開いた彼女が、あり得ない!と告げる。
「この時代の生活に合わせろっていうの!?」
「当たり前だろ、面倒見てもらってんだから。我儘言うんじゃねぇよ」
翔太の言葉は正しい。正しいのだが、恐らく彼女が求めているのはそうじゃない。次第にエスカレートしていく会話に、息を吐いて、手を大きく打ち鳴らす。
「喧嘩はやめろ。劉備様や他の方々の前だ」
「……呉から来たのが俺でよかったな、橘。もう一人ならお前ぶん殴られてんぞ」
「翔太、そんなことを言うな」
「へいへい」
翔太に釘を刺してから、彼女を見る。何、と、たじろいだ彼女に、私は口を開く。怯えている。怖がっている。だから、落ち着かせるように口を開く。
「怯えてくれるな、私は君と話しに来ただけだ。元の場所に戻る方法について、貴方の考えをききたくて」
「わかったんですか!?」
「いいや。生憎私はこちらに来た時の意識が朦朧としていてね、何があったかあまり覚えていないんだ。だから、貴方の話を聞きに来たのだけれど」
少しだけ時間をもらえるかな?
そうできるだけ郭嘉殿のような柔らかな物腰を意識する。彼女は渋々と頷いたので、私は劉備殿をみる。頷いた彼は近くにいた男性ーー恐らく諸葛亮孔明をみ、彼は「積もる話もあるでしょう」と言って、私と彼女、翔太ともう一人を別室に通した。

別室の見張りは徐庶殿と男性、後は女性が二人というところだろうか。そんな場所で座って彼女の話を聞く。
「あの時、黒い何かに包まれました。他の人はわからないけれど」
「停電などではなく?」
「はい。真っ黒な何かです。近くに友達がいたのに、友達も見えないくらい」
そう言った彼女に、もう一人も頷いた。翔太が口をへの字にしている。
「僕も見ました。黒い霞のようでしたが、初めて見たので黒い何かとしか……一瞬光ったと思ったらあの場所でした」
「科学的ではないよな」
三人の言葉に眉を顰める。黒い霞、一般人が見たことのない何か。一瞬光った。そもそも、なんで私だけがめまいのような症状があったのか。黒、霞、と、光。こちらに来たときに私が光の婆娑羅を咄嗟に使った形跡はあった。それらをつなぎ合わせる。恐らくはーー闇の婆娑羅だろう。
「えっと、」
「いや……戦国側に話を聞くしかないかな。彼らは話を聞くに、確か大人が中心だったな」
「まだ帰れませんか?」
そう尋ねた彼女に、まだかかりそうだな、と返す。頭にあること、と、その条件。それらを織り交ぜて検証するしかないが、私にそれがない以上、もう1人以上は誰かがいるはずだ。
「まだこんな場所に……」
「お前な、それやめろって」
翔太が呆れたように口を開く。
「俺たちは面倒見てもらってるんだよ。向こうがその気なら害獣や野盗がいる外に放り出されてもおかしくはないんだぞ」
「私は当たり前を言ってるだけで……!」
「だから俺たちの当たり前はこの時代の当たり前じゃねぇんだよ。この国の君主である劉備様が、俺たちの歴史とおなじような感じで、優しい方だから追い出されてないだけで。お前、殺されてもしらねぇぞ」
はっきり言ったな、と思う。息を詰めた彼女に、周りにいる見張りが何も言わないあたり、そういう話も出始めているのだろう。
「いいか、この時代、俺たちの倫理観とは違う。俺たちに死なない約束はないし、子供だから学生だから守られて当然だから死なないという約束もない」
翔太の言葉に私は頷く。
「あくまでこの時代や戦国の時代は、戦や飢餓、病で人がたくさん死ぬ時代だ。それに合わせて謀事で死ぬ善良な人間もいる。悪逆も死ぬが、善良だからといって長く生きられる保証ははっきり言ってない」
「……改めて思うと怖い世界だね」
ぼそりと告げたもう一人に、私は「そうだな」と頷いた。そうして彼女を見た。
「元の世界に帰りたいのであれば、私たちはどうあがいてもこの時代に馴染まなければならないよ」
「言葉の意味はわかるだろ」
「っ、私は!私は!貴方みたいに!何でもできるわけじゃない!!」
そう立ち上がった彼女は私たちを睨みつける。
「我儘ばっかいってねぇで、溶け込む努力をしろっつってんだよ」
こうなっては最後売り言葉に買い言葉だろう。衣舞がいれば確かに彼女を放っておこうという話になる。はぁ、とため息をつく。しばらく言い合いをさせておくか、と二人から目を離し、なにやら考えているもう一人をみる。
「僕は、勉強ぐらいしか取り柄がないから」
「勉強ができるということは集中力があるということだし、向上心があることだと思うが……君はそれを生かしてはどうだろう」
そう言えば彼は生かす?と首をかしげる。
「君の持ってる知識を……」
そこで言葉を止める。ふむ、と考えて、私は徐庶殿をみた。困った顔で喧嘩を止めようとおろおろとされているけれど。
「徐庶殿、蜀には月英殿という色々なものを作られる方がいらっしゃると聞いたのですが」
そう尋ねれば、彼は「えっ?」と声を上げた。まぁ、近くにいた女性が月英は私ですがと手をあげて見せたが。私はとりあえず彼の腕をひき、彼女に近く。
「月英殿、押し付けるような真似になるのですが、彼は私たちの時代の知識が人一倍あります」
「そうだったのですか」
「と、言っても、私のように詩歌、翔太のように政や軍略ではなく、化学的……貴方が作るようなものや生活の為になるようなものを作るための知識があるのです」
「まぁ、なんと!」
「しかし、彼自身はその知識の使い方を理解していません。貴方の元でそれを学ばせてはいただけないでしょうか」
そう一礼すれば彼女は考える。ただ、彼が戸惑ったように私を見たが。
「ナマエさん、僕はそんなことを言ったって……何も浮かばないし」
そう言った彼に私は彼を見上げる。何も浮かばないのであれば、こちらから示せば良いのではないか。
「……では私は貴方に石鹸を作って欲しい」
「石鹸?」
「感染対策上、石鹸は欠かせないだろう?化学式はわかるだろうか」
「わかるけど」
「何をどうすれば原材料になるのかは?」
「わかる……」
「作り方は?」
「だいたいは……」
「じゃあ作れるんじゃないか?」
そう尋ねれば彼は少し考え、「できるかも」と答える。
「ただ、耐熱容器とか色々考えなきゃいけないけれど」
私たちの話を聞いていたんだろう。もう一人の女性が首を傾げた。
「あの、石鹸、とは?」
「私たちの世界で普及しているものです。石鹸と清潔な水を使い手や身体を洗うことで、ある程度、流行り病の類の元をたつことができるため私たちの世界では重要だと言われています。また、衣服の洗濯にも使います」
「なるほど。手伝いの件も含め、私から孔明様にお話をしてみましょう。あなた方の世界にあるものが作れれば、きっと大きな力になります」
「ありがとうございます、月英殿。厚がましいことに、もう一つお願いがあります」
「なんでしょう」
「彼女にも貴方の手伝いを。話はこちらでつけます。何もないから彼女は余計に思い詰めてしまうのでしょう。何かしていたほうが彼女にはいいと思えます」
そう説明すれば、勝手に決めないでよ!と彼女は怒ったが。私は彼女を真っ直ぐにみる。彼女は少したじろいだ。
「帰りたい。それはわかる。私も帰りたい。しかし、それは劉備様達だって同じだ。はっきり言って、君だけが騒ぐことではないし、騒いだって事態は好転しない。むしろ、君の振る舞いは悪化の道を辿るだろう。私は全員で帰りたいんだ」
「でも!!私は何もできない!」
「何もできないじゃない。自分が出来ることを探すんだ。君はこの時代の文字を書けるのか?」
「書けるわけない!」
「武器を振るい、戦場を駆けるか?」
「そんなことできるわけないよ!!なんにも、何にもできない!!私は貴方みたいに上流家庭で育ったわけでも、勉強や、運動ができるわけでもない!!貴方と一緒にしないで!」
ぼろぼろと泣いた彼女に、私は目を伏せる。ため息をついてはいけない。
「……君は手先が器用だと私は記憶しているが」
そう言って腕を組む。彼女はこちらをみた。
「学校の展示台にあった馬は君が彫刻刀で削ったものだろう。君の手先が器用なのを見込んで私は月英殿に頼んでいるんだ」
「それに、竹浦はさっき何を作ればいいか思いつかねーっつってただろ。適当にお前が欲しいもんを具体的に言っときゃいいんだよ。似たようなものを作れるかもしれねぇだろ。だいたいはこの時代でも生活には役立つだろうよ」
翔太が投げやりにそう告げれば、月英殿が、まぁ、と手を合わせた。
「そう言えば、貴方からはこの時代の不満はきけど、貴方達の世界の生活がどのようなものがあったかはお聞きしたことはありませんでしたね。確かに先の時代の生活は興味があります」
お茶でも飲みながら詳しいお話を、と月英殿はそう言って同じ卓に腰をかける。それに彼女は余計に泣いてしまうのだけれど。とりあえず私はぽんぽんと背中を叩いておく。もう一人の女性が、彼女を覗き込んで「大丈夫ですよ、」とあやしたが。


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目の前で行われる鍛錬をみつめる。撃剣というのはあまりよくわからない動きをするな、という印象だ。紐の先にある小さな鉤のような刃物を引っ掛けてそれを軸に回ったりするのだろう。
「朝早くから熱心だねぇ」
そう声がかかり見上げる。そこにいたのは傘を被った男性である。恐らくは軍師だろう。慌てて立ち上がり一礼すれば、彼は「あんたは礼儀正しいね」と朗らかに告げた。
「元直が気になるかい?」
「彼の持つ武器を初めて見ました。撃剣というんですよね?」
「あぁ、そうさ。元直は撃剣の使い手でね。見たことはないかい?」
「槍や薙などは武芸として見たことはあれど、元の世界であれは見たことはありません。とても興味深いです」
そう言えば彼は「驚いた」と目を瞬く。
「昨日の行動や所作からてっきり軍師みたいな子かと思いきや、武人みたいな子だったのかい」
「礼節や文字の読み書きなどは軍師の方々に教えていただきました。その為でしょうか。魏では時々所作が武人だと……」
困った顔をしてそう言えば、彼は少し笑ったのだが。なんだろうか?と首を傾げる。いいや?と告げた彼に、元直さんがやってくるのだが。
「士元?ナマエ殿?」
「おはよう、元直」
「おはようございます、徐元直殿」
「どうしたんだい?」
「あぁ、ナマエ殿が元直を熱心に見ているものだから何かあるのかと思ってねぇ」
「えっ、」
「撃剣を初めて見たというお話をさせていただいていました。元直殿の撃剣の扱いが興味深くて……不躾で申し訳ございません」
そう謝れば彼は「ああそういう」と眉尻を下げた。彼の持っているのは撃剣だろう。
「ナマエ殿達の世界は穏やかならば、撃剣も必要ない、か」
「いえ、先人の智が学として残るように、先人の武は洗練されて武芸として残っています。恐らく撃剣も私たちの世界の貴方達の国に似た場所では残っているかもしれません」
説明すれば、彼は「へぇ」と目を瞬いた。
「できるのであれば、手合わせなどをして撃剣がどう立ち回るのかを間近で見せてもらいたいところですが、徐元直殿も忙しいでしょうし、私も二人に付き添わねばなりませんし……」
「おや、ナマエ殿はやっぱり武人かい?」
「武人といっても、人に真剣は振るいかねます。私が知る武芸です。あくまで芸であり、誰かを傷つけることはあまり好みません。武芸者同士で模擬戦をしてもそれには防具もあれば、竹や木でできた模造を扱います。……今はまだ人に振るう覚悟もありませんし」
私も眉尻を下げる。今はまだ覚悟ができていない。張遼殿がいうように、いつかは覚悟しなければならない時はくるだろう。乱世と乱世、そして妖魔という存在がいるのだ。徐元直さんは、うん、そうだね、と頷いた。
「そんな覚悟はしない方がいい。人を斬らないでこしたことはないよ」
「うん、そうだねぇ、元直の言う通りだよ。平和な世界から来たのならそれにこしたことはないね」
うむうむと頷いた士元と呼ばれた男性に、ああやはり国柄が出るんだな、と思う。あくまでこの差は魏と蜀の君主の差だろう。
「木の模造ならちょうどあるし、手合わせしてみるかい?朝餉までは時間があるし」
その言葉に、目を瞬く。まさかお許しが出るとは思わなかった。


なるほどなぁ、と思う。引っ掛けてしまえばそれを軸にして攻撃することもできれば、引っ張ったりしてバランスを潰すこともできる。そもそも撃と呼ばれる小さな刃もクナイのように殺傷力はある。いかに剣と撃を繋ぐ紐のようなものを切ったり牽制するかと言う話にはなるが、徐元直さんがその対応に慣れている為にそれが難しい。素早いし。持っていた武器を飛ばされ、バランスを崩してしまえば、もう向こうが上だ。首元に向けられた刃に参りました、と言えば彼はゆっくりと退いた。
「やはり、立ち回りがすごい面白いですね。撃と剣を繋ぐ紐が弱点かと思ってみたのですが、徐元直殿の対応が素晴らしく手も足もでませんでした」
「ありがとう。でも、手も足も……?」
「手も足も出てたとあっしは思うよ」
彼らに首を傾げる。触ってもいいですか?と木製の撃剣を指差せば彼は「ああ、うん」と私にそれを渡してくれる。試しに徐元直さんのように投げてみたが勢いが足りずに紐が伸び切る前に先の部分が失速して落ちた。む。
「やっぱり難しい……」
新しい武芸を覚えれば叔父さんも喜ぶのではないかと思ったが、これは難しそうである。
「クナイや手裏剣のような投げ方をすれば或いは……」
ふむ、と考えていれば、徐元直さんがこう持ってこう投げるんだ、と実演してくれた。なるほど、この持ち方でこの速度、と試そうとすれば、あれ?徐庶殿と龐統殿?と言う声が聞こえる。現れたのはまた違う男性である。
「馬岱殿」
「打ち合いの音がしたから見に来たんだけど……二人だけ?」
そう告げた彼になるほど死角にはいっているらしいと判断する。とりあえず一歩横にずれて一礼した。
「おはようございます」
「あぁ!魏から応援できた子だ!おはよう」
そうにこやかに笑った彼に、とっつきやすい人だな、と思う。彼は少し考えて、もしかして?と首を傾げる。徐庶殿が頷く。
「なかなか動きが良くって、つい」
「徐元直殿の扱う撃剣に興味があり、立ち回りを拝見しておりました」
「なるほどねぇ」
「あっしも驚いたよ、平和な場所からきて、元直とあそこまでやりあうとは思っていなかったからねぇ」
「叔父が武芸に秀でた人でして、叔父に色々と教えてもらっています。まぁ、真剣は資格なく所持するのは犯罪ですし、もちろんそれで斬りかかってしまえば犯罪ですから先程のように木や竹でできたもので手合わせするくらいです」
「身を守る武器を持ってるだけで犯罪、か」
「え、どうやって身を守るの?」
「私の国では特に、ですが。身を守ってもらって当然と思っている人が多いのです。自衛はあまりしません。犯罪を取り締まる役人が自分達を守ってくれるという前提がありますので。戦に巻き込まれることもありません。多くの人にとって明日があって当たり前なんです」
そう説明すれば、彼らは目を瞬いた。何か変なことを言っただろうか?と首を傾げる。
「明日があって当たり前、かぁ。いい世界だね」

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