2022/12/31
2022年度没ネタ整理10
戦が始まる。遠くで叫び声や雄叫びが聞こえる。投石車が岩を投げ飛ばしているのも見える。隣に並んだ荀攸殿が、怖くはありませんか、と尋ねた。
「怖いですが、今は目の前で誰かが殺されるわけではないので」
「貴方が道中弱音を吐かず、野党の襲撃にも平静でいてくれて助かりました」
「……ここだけの話、血縁者の関係で私は昔から時折襲撃を受けることがあります。命を狙われるということに、他の方より少しだけなれています」
困ったようにそう告げる。初耳ですね、とこちらを少し見下ろしながら告げた彼に私は前を見る。
「この世界において、私の血縁など何も意味をなさないので」
それもそうです、と彼もまた前を向いた。
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ナマエちゃんは顔に出ないからなぁ、とは、彼女が事前に将兵らに行ったことらしい。テキパキと運び込まれた怪我人の手当てをしていても、死人が運ばれてきても、パニックになった人がいても、淡々としていればなんとかなるものだ。それでも、縋って死ぬ姿であったり、死にたくないのだと嘆く姿は見ていて辛いものがある。
「……貴方達の旅路が良きものでありますように」
そう縋りついてきた彼に目に手で蓋をする。掴んでいた手が緩やかに力を失くし、そうして落ちる。たくさんの屍の上に私達が生きる時代がある、とは叔父や叔父の知人から聞く言葉ではあるが。
「ありがとう、貴方達のおかげで私たちが生きる世界がある」
そうそっと彼を下に下ろす。周りにいた兵が少し驚いたように私を見たようだった。
妖魔との戦は勝利に終わり、援軍に来た孫呉との祝宴が開かれた。そこに連なっていた彼らに生きていたらしいとホッとする。まぁ、怠け者の方がナマエじゃねぇか、と隣にやってきて座ったのだが。
「久しぶりだ」
「あぁ、久しぶりだな。しっかし、かんっぜんに相方貧乏くじ引いたぜ。俺はアンタといりゃ安泰だと思ってたのに、あの女が我先にアンタに行くんだもんな」
そう言って苦々しい顔をした彼に首をかしげる。私はあの子に声をかけられただけなのだが。彼は愚痴を言いたいだけなのか、アイツいうこときかねぇしだとかぐだぐだと文句を言う。
「聞こえてんぞ、てめぇ!」
「あぁ?馬鹿に馬鹿っつって何が悪いんだよこの馬鹿。死にに行く奴がいるか馬鹿!」
「ああ!?」
席の離れた二人のやりとりに視線が向く。髭を生やした将が仲裁に立ちあがろうとしたので口を挟む。
「二人とも元気なのはいいことだが、目上の方の前でそれは良くないと思う」
そう言えば素行不良の彼は口をへの字にしてだまる。怠け者の彼は、私を見た。
「アンタあいつになんかしたのか」
「喧嘩を買ったことは昔にある」
「あちゃー、ただの素行不良が芸として極めてる勝てるわけねぇか」
「極めているわけではないし、あの時は偶々私が運が良かっただけだよ」
「そういうことにしとくぜ」
彼はそう言って息を吐いた。私が膳に箸をつければ、向いていた視線は違う場所へ向かった。席が離れている片割れは隣にいる男性に揶揄われているのがわかる。周りが段々賑やかになっていく。ひらりひらりと舞われる舞を見ながら隣に座った彼は口を開いた。
「……アンタは前線にすぐ出てくるか、一生戦術に出てこないかのどっちかと思ってたが、読みが外れた。その服を見るに軍師枠か?」
「いや……師事している方達が軍師もされているというだけだ。今回はこの世界で生きるのであれば、戦を見ておいた方がいいという曹操様の計らいの元本陣にいた」
「いいなそれ、俺らすぐ兵士だったぜ」
「彼はともかく、君は実戦に向かないだろう?」
「あくまであいつとセットなんでね」
そう言って苦々しくつげた彼はこちらを見た。私も彼を見る。
「それに、戦場にいればいつかはアンタに会えるとは思った」
「私に会っても何も変わらないだろうに」
「よくいうぜ」
彼はそう言って私から視線をはずし、盃に注がれた酒を飲む。騒ぎなる周りを見た彼に私は同じくそちらを見る。片割れが(恐らくは鈴をつけているので)甘寧殿と騒いでいるのが見える。恐らくは波長が合うのだろう。騒ぎは段々どんちゃん騒ぎになってきていた。
「アンタはこの世界から戻れると思うか」
「それは今の時点ではわかりかねる。恐らく私たちが戻る時はどの国も全ての人が元に帰る時だろう。周りが戻れていないのであれば、戻れない可能性の方が高いと私は思っている。あの子には黙っているが」
「俺もそう思う。どうあがいてもここで生きるには今の状況を理解してこの時代の価値観に俺たちがうまく合わせていきるしかない」
そう言って彼は盃を煽った。
「その点、噂を聞くに蜀にいる奴がやばい気はするよな」
「やばい?」
「片方はともかく片方はあんまりいい噂をきかねぇよ。あまりのわがままっぷりにお手上げっていう噂だ。この世界で生きるなら問題はないが、帰るってことになったら一大事になる気はするぜ。同い年ぐらいの俺たちは揃って帰れるかわかんねぇ。いくら仁を掲げていても限度がある」
「仁だからか」
「そうだな」
そんな会話をしていれば、後ろから賈詡さんに二人で肩を掴まれたのだが。ほうわっ!?と変な声を出した彼に私は「賈詡殿」と苦笑いをする。
「あっははー、若い男女がもっと青々しい会話をしていると思ってたんだがねぇ。まぁ、いい、ナマエ、殿達がお呼びだ」
そう言った彼に箸を置き、立ち上がる。頑張れよ、と言った彼だが恐らくは彼も行くことになるだろう。
「おっと、悪いね、君もだ」
「は?」
「私が君が頭がいいことと私たちの世界の政の推移に詳しいことを曹操様にバラしてしまった」
「俺が頭いい、ねぇ。蜀にいる奴の方が頭がいいだろ」
「彼は勉学に励むのが好き、君は勉学を使うのが好きだと私は思っているんだけれど」
困ったようにそう言えば、彼ーー翔太は目を瞬いて頭をかいた。
「アンタにゃ叶わねぇな」
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「どうすりゃおまえにおいつける」
酔っているな、と思う。おい、と呼びかけられた声に振り返ればいた彼は恐らく酔っている。目が据わっているからだ。喧嘩を売ると思ったのか、呉の一部が慌てたようだが彼の口から出たのがそんな言葉だった為肩透かしを食らっていた。
「戦に出てたらおまえにおいつけるとおもった。でも、ちがった。どうすればおまえにおいつけんだよ」
その言葉に少し考える。
「私は君を置いて行ったつもりなど微塵はないが……そうだな、私も人のことを言えたものではないが、学問や礼節を学んでみてはどうだろうか」
「あぁ?」
「三日あれば人は変わる、とは私たちのいたあの世界で、これぐらいの時代にできた言葉だが、その手本となるような人物が呉にもたくさんいるだろう」
私の言葉に呂蒙殿が両手で顔を覆って魚粛殿や他古参が笑っている。
「大輝、呂蒙に教えてもらったらどうだ?恐らくその者がいった言葉は呂蒙のことだろうからな!」
「おっさんがぁ?」
「お互い頑張ろう」
「お前はがんばんな」
むっとしたまま告げた彼の肩をぽんぽんと叩く。彼は口をへの字にしたままどしどしと呂蒙殿の方へ向かっていった。
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無駄のない綺麗な型だと思う。二双の槍を持ったことはあれど、二双の鉞は持ったことはない。振るわれるその動きに、なるほどああ重心を置けば軸がブレずに思い鉞を二双も振るうことができるのかと思う。相手のあの大きな斧は流石に扱えなさそうだが、そちらの動きも無駄がなく美しいと思う。
「やぁ、ナマエ、何を食い入るように見てるんだい?」
ひょこり、と目の前に満寵殿の顔が現れ、流石にわっと声を上げてしまった。動きを見るのに集中しすぎていたらしい。
「お、珍しい、ナマエが驚いた」
「私だって驚きますよ」
そう言えばそうかい?と満寵殿は首を傾げる。
「君、今まで私たちに驚いた姿を見せてないから、よほど肝が据わっているんだという話をしていたんだけど……それで何を?」
「あのお二人が手合わせをされているのを眺めていただけです」
そう言って視線をまた先程の二人に向ける。打ち合いが丁度終わったのか、礼をしていた。
「徐晃殿と張遼殿だね。どちらも生粋の武人で……」
そこで彼は少しいたずらっ子のように笑って私を見下ろす。
「惚れちゃった?」
「いえ、武具を振るう動きに無駄がなく美しかったのでつい見つめてしまいました」
苦笑いしてそう告げる。満寵殿は目を瞬いて、意外だなぁ、と笑った。
「君、人をよくじっと見てるのは人をよく観察してるのかと思っていたんだけど、人の動作を見てるのかい?」
「いやいつもはぼうっとしてるだけです。いつもそういう時はあまり深く考えていません」
苦笑いしながら言えば、彼は「へぇ」と面白そうに告げた。
「ナマエがじっと見てると見透かされそうだって特に将兵は言ってたけど、ふぅん、そうだったのか」
なるほどなぁ、見せかけということか、と告げて何かを考え出した彼に満寵殿?と声をかける。自分の世界に入ってしまった気がする。こうなっては最後、周りの音が入ってこないとは学んだことである。
「満寵殿と、ナマエ殿」
そう言ってやってきたのは徐晃殿と張遼殿である。私は一礼をする。
「一体何を?」
「満寵殿が何か思い浮かんだらしく……」
困った顔をする。あぁ、みたいな顔をした徐晃殿は慣れているのだろうか。
「こうなっては最後、満寵殿はしばらくはこうでござる。部屋に戻られても良いかと」
「あれ?徐晃殿、張遼殿、いつのまにこちらに?」
「先程です。満寵殿が考え混んでしまったので、私がどうしたものかと困っていれば声をかけていただきました」
「あぁ、すまないね、考えてしまうとどうもこうなる」
「満寵殿とナマエ殿がこちらに来るのは珍しいですな」
「私は少しこちらに用があってね、ナマエはお二人の手合わせを見ていたみたいだけど」
「武具を振るうのに無駄な動きがなく、美しかったので少し拝見させていただいておりました」
一礼を一応しておく。不躾である。もしや、武芸の心得が?と尋ねられ、また困った顔をしてしまう。
「叔父より嗜み程度に教わるくらいです。それを敵に向けることはあまり……真剣となればなおさらですが」
「あぁ、やっぱり」
「やっぱり?」
満寵殿の言葉に私はまた彼を見上げる。彼は「なんていうか」と私を見下ろした。
「君にこの世界の礼節を教えたのは荀攸殿と荀ケ殿だけれど、それ以外の立ち振る舞いが私にはどちらかというと武人寄りに見えるからね」
「えぇ……」
困惑だ。叔父がどちらかというとそちら寄りだからだろうか。
「あと君絶対君の世界でも良い家の出だって、酔った荀攸殿が言ってた」
「なんでそうなるんです……?というか、酔った荀攸殿とは?」
「あぁ、荀攸殿、酔うとーー」
「満寵殿」
聞こえたのは荀攸殿の声である。満寵殿が振り返った先に荀攸殿がいるのだろう。
「仕事はどうされたんです?」
「あぁ、そうだった。曹仁殿に会いに行くところだった」
「ナマエ、貴方も何を」
「課せられたものが終わったので、少し気分転換に出て……徐晃殿と張遼殿が手合わせをされていたので拝見させていただいていました」
そう正直に言えば軍師二人が目を瞬いた。なんでだ。
「君やっぱり容量がいいよね。最近郭嘉殿が教えたがるのもわかるなぁ。どうだい?築城や罠には興味ないかい?」
「第二の満寵殿を作り上げようとしないでください」
ずばっと荀攸殿が告げる。徐晃殿がそれはちょっとみたいなことを言ったが、この人は苦労人なのだろうか。
「ナマエ殿、よろしければ槍でも振るってみられるか。例え嗜み程度であっても、戻られた時に鈍っていれば貴殿の叔父上が嘆くのでは」
「……いいのですか?願ってもない事ですが、お邪魔では……」
「かまいません」
そう言った彼に荀攸殿を見る。ため息をついて頷かれたので、ではよろしくお願いします、とまた中華式に頭を下げておいた。
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緑色だ。明らかに困っているだろう彼に、私は声をかける。いかがされましたか、と尋ねれば、彼は私を見下ろした。
「ええっと、蜀から書状を持ってきたのだけれど」
なるほど、と思う。こうなった場合、曹操様の元に取り継ぐのが正解……ではなさそうである。暗殺者だった場合、私にも疑いが向きかねない。
「上のものに報告して参ります。失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「徐元直だ。ええと、蜀の徐庶が来たって言ってくれるとわかると思う」
「わかりました。徐元直殿、こちらでしばしお待ちください」
そう一礼すれば、わかったと彼は頷く。曹操様に報告するよりは一度他の人に報告した方が良いのだろうか。そう思って歩いていれば荀ケ殿と夏侯惇殿を見つけた。とりあえず二人に声をかけることにした。
「荀ケ殿、夏侯惇殿」
「おや、ナマエ。今日は休みのはずですが、どうしましたか?」
「いえ、張遼殿と徐晃殿の手合わせを拝見しに行こうと移動していたのですが、徐庶という方が蜀から書状をお持ちされていて……」
「何?」
「徐庶殿が?」
「直接曹操様にお通しするわけにもいかないと思い、とりあえず外でお待ちしていただいております」
「わかりました、私が伺いましょう。夏侯惇殿、殿へご連絡願えますか」
「わかった」
「ナマエ、徐庶殿のところへご案内お願いします」
「はい」
そう言って一礼をし、荀ケ殿と徐庶殿のところへ向かう。きちんと待っている彼は律儀なのだろうか。
「徐元直殿、お待たせして申し訳ございません」
「いや、助かったよ、ありがとう」
「お久しぶりですね、徐庶殿。どうされましたか?」
「やぁ、久しぶりだね、荀ケ殿。蜀から書状を持ってきたんだ。中に書かれている事について、急ぎ曹操殿に許可を得たい」
「わかりました。殿の元にお通し致します。ナマエ、ありがとうございました。貴方なので大丈夫だとは思いますが、張遼殿や徐晃殿にあまりご迷惑をかけぬよう」
「はい」
もう一度荀ケ殿に一礼をしてから、張遼殿と徐晃殿のところに足速に向かった。
斬撃が重い。軽やかに振るわれる双鉞に見立てた木刀であるが、やはりという重い。自身には軽く、そして振るわれる鉞は重く。重心の掛け方だろうか。何度か受けて、槍を持つ位置をわざとずらす。槍をしならせて彼のように振れば、彼はそれを双鉞で受け止め、離れた。ちょっと雰囲気が変わったあたり、次から本気でくるな、とわかる。じっと彼をみて、彼が動いたのを見て斬撃を受け止める。連撃ではあるが、まだ耐えられる。隙を見て反撃に移れば彼はそれを受け止める。むぅ、結構いい動きだった気がするのだが。まぁ、その流れを繰り返せば先に借りていた槍が折れ、ピタリと彼の刃は止まったが。こうなっては太刀打ちはできない。
「参りました。ありがとうございました」
「いや……」
「これは驚いた、ナマエ殿がこれほどの武勇をお持ちとは」
そう言った徐晃殿に、張遼殿がうなずいた。
「これならば戦場でも動けるでしょう」
私は困った顔をする。
「私はあくまで武芸としてしか武器は扱った事がありません。人を斬ったことがないのです。恐らく人に振りかざすとなれば、躊躇します」
「ならば、この前の戦のように覚悟を持って挑まれては如何か」
「そうでござるな。いつ、振るうことになるかわからぬ故に」
この間の私の言葉を言われてしまえば仕方ない。覚悟は心に留めておきます、と告げる。まぁ、二人ともふっと笑ったが。
「貴殿は大切な御客人だ。もし、貴殿が元の世界に戻れず、どこの国かに属するのであれば、殿に推挙しよう」
きっと殿や軍師達もお喜びになる。
その言葉にはっとした。そもそもそうである。私たちは魏に迎えられてはいるが召し抱えられている存在ではない。
「はい、その時はお願い致します」
そう一礼をする。まぁ次は徐晃殿と手合わせをという話になるのであるが。
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