2022/12/31

2022年度没ネタ整理26


「どうして」
助け出せばか細くそう告げた彼女は、目に困惑を宿す。それを閉じ込めるように目を伏せた彼女は、もう一度目を開くとその瞳に周りを映して笑みを浮かべる。憂を帯びて、物悲しげに、困ったように。助けていただきありがとうございます、と。
見たことのない国の軍隊と、混ざるように人に化けた妖魔。そんなものが攻め込んでいる見たこともない城に足を踏み入れれば、そこにいたのは数人の大人に果敢に立ち向かう少女である。防戦に回る一方の彼女を援護し、そこから連れ出したのだ。そうして安全な場所に連れてこれば、彼女は曹操様達に向かってそう告げたのである。見るからに身分が高そうだ、とは郭嘉殿の台詞である。確かに彼女の服は美しい白亜の布でできていて、髪飾りは高価そうなものだった。
「私たちはあなたの敵ではないのだけれど、どうしてあんな事態に?」
そう優しく尋ねた郭嘉殿に、彼女は目を伏せた。
「私が魔女であるが故に、彼らは私を討ちにきました」
「魔女?聞きなれない言葉だね」
魔女、というワードと彼女の姿を見て、俺は既視感の正体に気づく。ああああ、と叫び声をあげれば、視線はこちらに向いたが。いや、俺はそれどころではない。
「妹の!ゲームに!出てくる!!」
そう言えば、がつん!と頭に拳骨がおちる。痛い。見上げれば保護者の荀攸殿である。
「申し訳ありません」
「ナナシ、知り合いか?」
「いや、知り合いというか、知ってる絵巻物に出てくるですよ!」
「魔女とは?」
「あー、魔女って言葉はあの国の定義だと人を翻弄して悪政に導いたヤツって感じ」
「人は見かけによらないもんだ。このお嬢さんは妲己のような人間ということか」
「違う違う!あの国の悪政はこの子の両親と兄姉によるものなんだけど、この子を魔女に仕立てあげて国民とかの怒りをこの子に向けて、討伐とか言って親兄姉が国民と軍率いてこの子を……」
そこではた、と止まる。確か、この子はゲームの主人公で、その出来事は生まれ変わる前、いわゆる前世の話なはずなのだ。なんというか、ヤンデレルートが多いゲームで有名なのである。大前提で全員裏切った挙句、全員が何かしらのタイミングで彼女は悪くなかったのだと気づいて、病んでいるのだ。彼女はゲームの主人公の姿ではなく、前世の姿をしている。
「どうしてそれを?」
「彼は特殊でね、色々違う世界のことを知っているんだ」
「どうしてお主は一人で立ち向かおうと?」
「……私が汚名を被って死ねば、民は納得し、国はまた安寧になる。そうすれば、きっと今度はお父様や兄様は正しい方へみんなをお導きになります。何もできない私には、こうすることしか……」
うーん、ネガティヴ全開だな。これ、転生した主人公だと(まぁ多分育ちの関係もあるからだが)メンタル強強だからな。
「曹操様、この子、できる子!剣持たせたらそこそこ強い!お勉強できる!!」
「流そうなど考えておらん。お主、名は?」
「ナマエ、と申します」
「では、ナマエ。この国はお主を歓迎しよう。部屋は用意しよう。荀ケ」
「わかりました。さぁ、ナマエ殿、こちらへ」
「しかし、この国が攻められる原因になるのでは、」
「大丈夫だと思うぜ。後の宰相が綺麗に誤魔化すから」
そう言えば、彼女は目を瞬いた。

==

という話をしていたのが、三ヶ月くらい前である。ナマエと言えば、荀ケ殿や荀攸殿、蔡文姫殿達の手伝いをしている。ほーら、一般兵にも優しいから人気。あの子も安泰。とか、思ってたら来たよ次代の宰相兼裁判長兼執行官。リンチして殺したやつは死刑とかいう法律作って、無実な姫さまを貴方達集団で襲って殺しましたよね?貴方達全員死刑ですとか言って主人公以外国民家臣含めて皆殺しするルートがあるやばいやつ筆頭。貴方と俺がいれば国です暴論振りかざすやばいやつ。
「ナナシ?どうかしましたか?」
「曹操様に今会いにきてる荀攸殿の身長を伸ばしましたみたいな奴いるじゃん」
「は?」
荀攸殿の視線は気にしない。郭嘉さんが頷いた。
「あぁ、いるね」
「あれあの子の幼馴染みのお兄さん的な人。目的のために着々と準備を抜かりなく進める軍師タイプ。あの子云々があった時も一人冷静に無罪証明集めてるんだけど、物語上は間に合わなくて目の前で処刑されて闇堕ちするやつ」
「つまり?」
「あの子に危害を加えなければ有能な味方」
「なるほど」
そう頷いた賈詡殿に俺は彼をみる。曹操様と淡々と話をしているらしい。


2/10



 Comment(0)
未分類 

次の日 top 前の日