2022/12/31

2022年度没ネタ整理152


ひやり、と冷気が漂う。そうして凍りついた妖魔や木々に、私達は唖然とした。ただ、一人だけ。悠仁と呼ばれる無口な彼だけが、珍しく喉を震わせた。
「ナ、ナマエさん……!」
「おや、悠仁。いつのまに声を出せるように?」
そう言ってふわりとまるで降ってきたのは間違いなかった。曹嘉隊長である。あの、降魔作戦の時に一人敵陣に残った。死んだとされている。彼女は私の幼い時の記憶のままの姿をしている。同年代であった他の人は歳を重ねているというのに、彼女は19歳の姿のままだ。悠仁と呼ばれる彼はいてもたってもいられなくなったのか、彼女の元に駆け出して抱きしめるのが見える。まぁ、彼女が慰めているのが見えるが。総隊長といえば、ただそこを食い入るように見つめ、近くにいた冥界の神に声をかけた。
「ハデス、あの人は」
「うん?あぁ、死者、ではなさそうだけれど、どちらかというとそちらに近いね」
そう答えた冥界の神に私達は動きを止める。冥界の神が頭をかきながら、あーだとかモゴモゴとしている。ガイアがあの子と彼女を見ながら告げた。
「不安定ね、すごく」
「どういうことですか?」
幸村さんがそう尋ねる。
「なんていうか、存在が不安定なのよ。生者と死者の間だわ。いいえ、違うわね。消滅と輪廻の間にいる。死者になれてないのよ。あのままいくと、あの子の魂は消えるわ。そのまま循環に加ることなく。いいえ、加われないのね」
ガイアが悲しげに目を伏せた。
「何かの封印をあの子の魂が抑えてる」
その正体を私達は知っている。だって、恐らくそれは私達の世界で起きた事件の顛末だ。結局は、私達は何も知らないのだ。そのあと、平和に生きた私達は、なにも。
彼女はそっと悠仁さんを距離を取らせる。
「さて、ひとときの逢瀬も住んだところであるし、私は戻るよ。このままでは怒られてしまうからね」
「お、おこられる?だ、誰にですか」
「君たちの敵に」
彼女はそう言って微笑みを浮かべて悠仁さんを突き放した。もう怒っているがな、という声と共に現れたのはオーディンだ。おっと、とおどけて見せた彼女をオーディンは見下ろす。
「曹嘉よ、これはどういうことだ?」
「おや?私は元はといえば人の子。人の加勢をするのは当たり前では?」
「……」
「そんなに睨まないで欲しいかな。私は旧友達に会いにきただけだよ」
「お前を誰が留めてやっているか忘れるな」
オーディンはそう言って彼女を掴むと消える。私たちはそれを見送った。
「やはり魔女めが!」
そう違う組の人が騒ぎだす。まぁ、それを聞いた悠仁さんがぶん殴り、総隊長はそれを止めたのだが。


==


「貴方は倒される」
彼女がそういえばオーディンは目を見開いた。そうして彼女の首を掴むと、掲げた。彼女の足が地面につかない。
「あなたが、どうあがいても、そのみらいはかえられない」
「だまれ!」
「あなたのみらいは、さだまっている、わたしとおなじように、このけいかくを、つくりあげたときに、それはかくていされた」
「黙れ黙れ!消えるのはお前だけだ!お前は用済みだが……お前に絶望を味合わせてやろう!」
彼女の周りにどす黒い鎖が現れる。降魔を封じるために使った鎖だ。もとはもっと美しい色をしていたのに、それはどす黒い色に変色していた。
ーー降魔がくる。きてしまう。あの時、封じるのが精一杯で倒せなかったものが。
「お前のせいで、人間どもは死ぬ!」
「いけない、彼女の封印を解くつもりだわ」
ガイアさんが口を開く。彼女の周りの鎖が音を立てて軋んだ。だというのに、彼女は笑う。
「ーーいつだって、貴方達神の敗因は」
そう言って彼女は笑う。封じていたそれが顔を覗かせる。
「人間が克服できないと思い込んだ、その傲慢さだ」
彼女がそう言った瞬間、周りにルーン文字が浮かぶ。目を見開いた彼は咄嗟に彼女から距離を取った。ルーン文字はオーディンではなく、地面に鎖のように広がっていく。そうして後ろにいた何かを捉えると、ナマエさんは手を掲げた。それを見て、隊長や、他の隊の彼らも構えた。彼女の指が銃を型取り、手首のスナップを効かせる。その瞬間、背後にいた何かに私達は攻撃を加える。
「名無!」
ナマエさんの言葉に総隊長は刀を抜いてそれに一閃を加えた。ナマエさんもまた攻撃を加える。力が拮抗している。
「魏組全員、もう一度攻撃を加えろ!」
その言葉に一目散に攻撃を加えたのは悠仁さんと于ちゃんである。それに加わるように他の隊やみていた神様や仙人も力を貸してくれたらしい。光が溢れたと思えば、その降魔は通常の降魔を倒した時のように霧のように霧散した。退いていたオーディンが顔を顰め、ナマエさんに刃を振る。ナマエさんは氷の剣を作り上げるとそれを防いだ。
「人間に運命があるように、あなた方神々にも運命がある。そこから逸脱しようだなんて諦めた方がいい」
「だまれ!貴様、死に損ないの、人間の分際で!」
「おっと、確かに神にご高説は頂けないね。でも、私には貴方がまるで人間の幼児(おさなご)のように、決まりごとに駄々を捏ねているようにしか見えないのだけれど」
ピキリ、と、地面が凍る。総隊長と悠仁さんが刀で斬りかかれば、オーディンは下がった。流石に形勢が悪いと踏んだのか、オーディンは多くの部下を伴って消えたのだが。ナマエさんはそれを見送る。そうして私達の視線に気づいたのか、記憶にあるナマエさん通りひらりと手を振った。
「やぁ、久しぶりだね。君たちが無事でなによりだ」
呑気にそう言ったナマエさんに、総隊長が叫ぶ。
「ば、ば、ばかーー!!ナマエさんのばかやろーー!!」
ぽこぽことナマエさんを殴る。曹嘉さま!と于ちゃんもかけだした。というか、魏組みんなで周りを囲んでぽこぽこ叩く。なんなら私も叩く。
「俺たちの曹嘉さんが敵になったっていう心配と焦りをかえせーー!!!ばかーー!!!」
「ふふ……それは悪いことをしてしまったね。何事も騙すなら味方からだよ」
ナマエさんは悪びれることなくそう告げる。于ちゃんが顔を覆った。
「ぐっ、顔がいい……」
「つーか!悠仁さん!アンタ嘆かない騒がないと思ったら!知ってたな!裏切り者!!」
そうきゃんきゃんと騒ぐ私たちに悠仁さんはドヤ顔をした。め、珍しい。そして隣を陣取ってらっしゃる。ナマエさんは他の視線に気づいて、そちらに向かう。
「ご助力ありがとうございます。貴方達のご助力があったからこそ、アレを消滅できました。劉くんも、孫くんも、他の組の団員達も」
「……曹嘉殿、礼を言うのはこちらだ」
「私達はーーむ、」
そう言った呉 蜀組トップに彼女は彼の唇に人差し指をあてて黙らせた。
「それを言ってはいけないよ。私達はそう言う関係ではないはずだ。それを言ってしまえば君たちは私達に負けたと同じことになる。私としては私達が一番だと証明出来たことになるから嬉しいけれど」
ナマエさんの言葉に、馬さんが「負けてなどいない!」と怒った。
「私は貴殿を認めん!貴殿はすけこましの馬鹿だから
劉殿が負けるなどありえん!私達が負けることなどない!」
「そうだそうだー!」
「山にいる貴方達はお黙りなさい!私たちこそが一番ですわ!」
「そうよ、そうよ」
周りがキャンキャンと笑う。悠仁さんが鼻で笑ったのを見て、さらにヒートアップしたが。劉さんにしろ孫さんにしろ、目を瞬いてみていたが、笑った。
「ふ、ふふ、そうだな。だが、曹嘉よ、個人としては礼を言わせてはもらうぞ。お前のおかげが大きい」
「えぇ、貴方がいたからあの世界は平和になった」
「……平和になったのならよかったよ」
「さて、三人そろえば何をする?」
「剣舞はいかがか?また上手くなった」
「いや、舞はどうだ?」
「決まっているでしょう、飲みに行きます」
そう言ったナマエさんに三人はケラケラ笑った。仲良かったのか。初めて知った。
「ナマエ殿」
「やぁ、ロキ殿」
「貴方はオーディンについていたわけじゃないんだな。なぜついているかわからなかったから」
「ルーン魔術に用があってね。彼は私を利用した、私も彼を利用した。それだけだよ。まぁ、あとは駄々を捏ねている様子を見ていただけというか」
「駄々?」
「与えられた運命を受け入れることもせず、ただそうはなりたくないと周りに迷惑をかける様は幼児のようだろう?」
ナマエさんの発言に、ゼウスさんとハデスさん、一部武将が爆笑した。ガイアさんも、ロキさんも、というか神々勢も、人間勢も、幼児、と繰り返している。
「おや、人に残されている話では貴方達にも運命というものが存在すると思っていたけれど……」
「確かに存在はするが……幼児……」
ゼウスさんとハデスさんが、いまだに肩を振るわせている。趙雲殿がナマエさんをみた。
「貴方の名をお伺いしても?」
「これは失礼いたしました。私の名前は曹嘉と申します。ナマエというのは字のようなものです」
そう綺麗な拳礼をしたナマエさんに、周りは目を見合わせたが。ちなみに、ナマエさんはそのあとぶっ倒れて私たちは騒ぐことになるのだが。


==

「倒れるのは予定外だったな……」
「当たり前よ!悪い子ね、人間の貴方がルーン魔術を使うからよ!」
ただでさえ生者と死者の間で不安定なのに!ぽこぽこと怒っているガイアさんに、ナマエさんは苦笑いをしていた。ロキが口を開く。
「しかし、どうやってルーン魔術を……」
「知識としては私の世界にも残っていますから。オーディンが発動するの数回見れば……」
「ナマエさんが天才肌だから出来ることなんだよなぁ」
そうぼやいた総隊長に、ナマエさんは、そんなことはない、と告げた。
「誰でもできる」
「誰でもできたら困る」
ロキの言葉はもっともである。

「曹嘉殿は曹家に連なる者なのだろうか!?」
キラキラビームを出しながら曹休さんがナマエさんに尋ねる。顔似てるんだよな。ナマエさんは曹休さんと郭嘉さんを足して割った顔をしているし。
「私は曹家の養子にあたります。私は元々忌み子で生まれた家には疎まれていましたので……今はもう本来の家からは除名されています。父がわりをしてくださった方が曹家に連なる方でした」



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