2022/12/31
2022年度没ネタ整理154
「李子さんが負けたら休みだかんな!」
と告げた寵沙にどうしたものかと思う。連れてこられたのは修練場だ。周りは止めたいようだが、向こうは全く引く気がない。そう言えば、私自身最近武器を振るっていない。太らないようには気をつけていたが、体力はおそらく格段に落ちている。これはまさに怠けというやつではなかろうか。元いた場所に戻ったらやばいことなど目に見えている。なら、ここで一応多少慣れていた方がいいだろう。
「郭嘉殿、紐を持っておられますか?」
「紐、ですか?私の呼びはありますが……」
「お借りしても?」
そう言えば彼は不思議そうに髪結紐を貸してくれた。その場で簡易に結い上げて、近くにいた兵に槍の柄だけのものを借りる。羽織が邪魔なために、羽織は近くにいた荀ケ殿に預かってもらうとする。
「李子殿、ご無理は……」
「そうです」
「いえ、体力が落ちたと最近思い始めたところです。今一度、自分を戒めねばいけません。いい機会です」
そう言ってくるりと槍を回す。
「寵沙、貴方にとって私では相手に不足がありましょうが、お相手をいたしましょう。李ナマエ、参ります」
そう言えば、銀塀ちゃんが元気よくはじめ!と告げる。まっすぐ飛んできた寵沙の勢いを槍でうけ流す。うーむ、防戦一方はよろしくない。一度離れた距離に寵沙に槍を向ける、と見せかけて地面にさし宙返りをしてくるりと寵沙の後ろに回り込む。反応した寵沙はさすがだろう。攻勢に転じるとする。
「う、げ、げ、やばい、やばい、やばい!」
「足元がお留守ですよ」
そう言って足を掬う。うわっとバランスを崩した彼だが、器用に体勢を整えて刃をこちらにむけた。槍で受け止める。
「李子さーーん!?なんで腕鈍ってないんだよ!!アンタ最近打ち合いもなんもしてないだろ!!」
「鈍ってますよ、昔ならそろそろ勝てていたはずなのです、が!」
そう言って力を横にずらす。いきなりの重心移動にうわっとバランスを崩した寵沙の隙を見逃さず、懐に間髪入れずに槍を入れる。まぁ転がってよけられてまた体勢を整えた。
「むぅ……やはり朝の鍛錬くらいはするべきでしょうか……」
そう言って槍を見つめる。この子冷気に耐えられるかな。まぁ雷纏って飛び上がってきた寵沙に冷気を纏うが。
「桜花!」
「いまが好機とみます」
「雷爆斬!」
そう振り翳した雷の剣に、冷気で霧を作る。氷で人ではない何かを作り上げれば、何かに馬乗りになった寵沙が口を開く。
「よし俺の勝ち!」
「いいえ、貴方の負けです」
そう言って霧を晴らす。後ろから槍を当てれば、は?と困惑した声が聞こえた。
「は?は!?なにそれ!!」
「なにもそれもありません」
「李子さん昔は上から氷の雨ふらしたじゃん!」
「貴方が覚えていらっしゃると思ったので」
「はーー!!」
そう言って剣を掴んで立ち上がった寵沙は口を開く。うーむ、槍が傷んでしまった。
「今のは無効!こんなの聞いてない!」
「貴方が私の手のうちを読めなかった、それだけのことです。あと飛び跳ねる癖をどうにかなさい。隙が多くなります」
「ぐぬぬ、姉弟子モードが入ったな……」
「どうぞお好きにおしゃってください。貴方の仕事は机の上です。遊んでばかりいずに仕事も多少するように。私は執務に戻ります」
そう言って槍を兵に返す。
「申し訳ございません。槍を痛めさせてしまいました。新しいものを急ぎ手配いたしましょう」
「い、いえ、滅相もありません!家宝にします」
「ふふ、ご冗談を」
そう言いつつ郭嘉殿のところによる。髪結紐を解いて返す。
「ありがとうございました、郭嘉殿。荀ケ殿も、ありがとうございました」
「いえ、貴方の珍しい面を窺えてよかった。普段から髪を結い上げたらいかがでしょうか?」
「……ここだけの話、髪を結い上げると、昔を思い出して口うるさくなる可能性があるので……」
向こうのお仕事モードが入るからなぁ、と苦笑いする。荀攸殿が「貴方はもう少し口うるさくても構わないのでは?」と言ってくれたが。
「それにしても、もしや李子殿は軍家の生まれですか?」
「あぁ、いえ、勘違いされることが昔から多いのですが私はそのように家柄があるわけではありません」
そう言えば彼らは不思議に思ったのだろう。まぁ普通軍人に関わる家じゃないと戦いかたは教わらない。女ならば特に。守られるのが普通だからだ。私はとりあえず苦笑いする。まぁ将達がやってきて今度は将達と話をすることになるのだが。
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夢をみる。郭嘉さんが死ぬ時の夢をみる。私ならよかった。代わりに私がいなくなればきっと。きっとあの戦は。
「李子殿」
そう呼びかけられて目を覚ます。そこにいたのはこの世界の諸葛亮殿である。うなされておりましたよ、とつげた彼の周りにはひょっこりと将がいるあたり、だれかがよんだのかもしれないが。
「随分とうなされておりましたよ」
「……あまりいい夢ではありませんでしたから」
そう言って息を吐く。日はまだ高い。仕事をしないとな、と思っていれば、諸葛亮さんが止めたが。
「お疲れだから、悪い夢を見られるのです。貴方は休むべきです」
彼の言葉に困った顔をしてしまう。気を紛らわせる為に仕事をしたいのが本音なのだが。
「……どうしても仕事をしたいというなれば、果果の話し相手になってくださると助かります」
諸葛亮殿の後ろからは諸葛果ちゃん(と星辰ちゃん達)が顔を覗かせる。苦笑いして、わかりました、と頷いておいたが。
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「そもそも、李子様は遠いところからいらっしゃったとか。いつかそちらに戻られるのですか?」
そう尋ねた諸葛果ちゃんに、そうですね、と目を伏せる。えっ、と声を出したのは誰だ。お茶を見つめながら口を開く。
「こちらにいらっしゃる方々も大切な方ですが、故郷にいる方々も私にとっては大切な方なのです」
一度、死なせてしまった。あの混ざり合う世界で、私はあの人を死なせまいと思っていたのに。私がこちらにきてしまった。
「そもそも、李子さんって左慈さんのところにいたのよね?故郷から出て、仙人になりたかったの?」
「いいえ、そういうわけではございません。私は左慈様に拾われましたので」
「拾われた?」
「はい、兄弟子や左慈様曰く空から降ってきたのだとか」
私の言葉にそこにいた人達は目を瞬いた。
「空から……?」
「李子おねーさんって空を飛べるの?」
「いいえ、私の記憶では川から落ちたのですが……」
「川から落ちて、空から降って……?」
見事に混乱しているなぁ、と周りを見る。ぎんぺーちゃんは李子おねーさんって意外とドジ?と尋ねたが。否定はできかねる。近くで元姫殿とお茶を飲んでいた尚香殿が口を開く。
「なんで川から落ちたのよ」
「川上での戦で、被害を最低限に抑えつつ支えていた方をお守りして殿についたのですが、炎で退路が立たれてしまい、川に落ちたというか落とされたというか……」
「なぜ貴方が殿に。貴方は女性でしょう?」
荀ケ殿はそう言って私を見た。
「それを話せば長くなりますが、男装をしていたので」
さらっとそう返せば、ええっ!?と叫ばれたが。なんでだ。
「思い切ったことをするのね、思いついたことがなかったわ」
「いいえ、男装をしては貴方が考えていることの根本的な解決には至りませんよ」
「なぜ男装を?」
「私が幼い頃に盗賊に襲われたところを、ある御曹司の方に助けていただいたことがありまして。その方がそのうち兵を率いられることはわかっていたので。そこからはがむしゃらですよ。その当時の私は孤児で、なんの学も武力も持たなかった。運良く塾を開いている方に拾われたので、そこで性別を偽り学び始め、武勇に優れた友人ができたのでその友人に武勇を学び……その一方で優秀な方が多い場所に出向き年上の交友範囲を広げ……その優秀な方の推挙で使えることが許されました」
「男の人として?」
「はい。女であれば、恐らくお使えはできませんから。まぁ私の世界も戦乱の世でしたので、兄のような方々と戦に出向いたり国内をみたり色々していましたが、私の上司にあたる方が体調を崩され……」
そう、郭嘉さんが。郭嘉さんが、倒れて。荀ケ殿に頼まれて、彼の世話をして。そうして。そうして、赤壁の戦いで。
「あの方がいれば、きっとああはならなかった」
「……え?」
「私に代わりができれば、どれほど良かったのでしょうか」
そう言って目を伏せる。これお茶じゃなくてお酒では。
「私が代わりに、倒れていれば……」
病に罹っているのが彼でなく私であれば。
「李子おねーさん?」
「……お気にせず。どうにもならないことを考えていただけです。すこし、酔いが回りました」
お酒をいれたでしょう、といえばぎくりと彼女らは方を跳ねさせたが。なんとわかりやすい。ふふ、と笑って空を仰ぎ見る。
「……あの方々がご無事であればいいのですが」
と、思っていれば、空が暗くなる。太陽が呑まれている。今日は日蝕の日ではない。地響きがする。きゃっ、と短い悲鳴が上がる。この感覚は知っている。遠呂智の世界に飲まれた時の感覚だ。霧が深くなる。きっとその先は。
「止まった……?」
「張郃殿、張郃殿、いらっしゃいますか」
そう手を叩けば、彼はすぐに現れる。どこに待機をしているかいつも謎であるが、とても心強い味方だ。
「李子さん、無事っスか!」
「はい、みな無事です。張郃殿、いまこちらにいる斥候部隊の手が空いている方の幾人かで手分けをし城の外の様子を伺ってほしいのです。いつもと違うと思った場所で引き返してくださってかまいません。申し訳ございませんが、星辰ちゃん達は城下に被害がないかの確認をお願いします。また将兵の方々に集まるように告げていただきたいのです」
「わかったわ!まかせて!」
「被害状況などを確認した上で寵沙様と共になすことを考えます。荀攸殿、荀ケ殿、申し訳ございませんがお手をおかしください」
「仕方がありませんね」
仕事を割り振る。恐らく、寵沙は何が起こっているのか理解しているだろう。とりあえず寵沙と合流しなければならない、が、着替えた方がいい気がする。とりあえず先に寵沙に顔を出すか。
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「李子さん、絶対着替えた方がいいって報告までタイムラグあるから服着替えてきて!」
とは寵沙の言葉である。ありがたいので一度引き、この世界に落ちた時に来ていた服を整え直したものに身を包む。晒しで胸を固め、髪を結いあげればあの世界にいたころのわたしだ。女官がきゃあってなってるけども。そのまま女官に断りをいれ、地図やら白紙の布を持って寵沙と再合流すれば、周りが驚いた。
「やっっば、李子さんのそれ似合いすぎててやばい、ただの美青年」
「寵沙殿、ふざけている暇ではありません」
そう言って地図や布を広げる。
「李子殿その服装は?」
「私の元いた場所に清河が混ざってしまった可能性があります」
「は?」
「私のいた場所は不安定なのです。たまに違う場所が併合されることもあれば、私のように他の世界に行き着くこともありましょう。貴方がたにわかりやすくいうなれば、清河は桜蘭の都のように転移した可能性があるとお考えください」
帰ってきていた張郃さんが「通りで」と口を開く。
「城から数里先は知らない場所になってるンスね」
この辺りからはもう知らない場所ッス、と張郃さんが地図を指し示す。寵沙がその言葉に確定じゃんと息を吐いた。確かほぼに確定である。斥候部隊の話を聞きつつどこであるかを考える。清河は恐らくあべこべの世界でも魏領のはずであるが、同じ場所なのかは謎である。とりあえずありったけの情報を詰め込む。どこだ、近しい場所は。いや、下手をしたら妖魔に攻め込まれる可能性がある。
「寵沙殿、進言いたします。この混乱に乗じ妖魔軍が攻め込んでくる可能性があります。急ぎ防備を固めるべきです。ただし、人間による侵攻であれば唆されている可能性があります。私をお呼びください」
「りょーかい!」
バタバタと動く。さてどう動いたものか、と考える。
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うーーん、向こうが私がいることを読んでるあたり郭嘉さんか誰かがいるな。とりあえず戦ってると見せかけて油断した妖魔を叩くために伏兵を配置する。これで向こうは完璧に私だと理解するだろう。さて、ここから身の振り方をどうするか、なのであるが。まぁしばらくしたら攻勢にうつり、周りが戻ってきたが。
「李子さん、わけわかんねぇっス!おんなじ名前のやつがわんさかで……」
「……貴方が黙っていたのはだから、ですね?」
そう言って見下ろした郭嘉さんに息を吐く。
「はい、そうです。私の出身をぼやかしていたのはややこしいからという理由なのですが」
「どういうこと?」
「私の名をお名乗りします。私の名は李子。字をナマエ、魏軍軍事祭酒補佐の役目をいただいております」
「えーー?」
そう言えば、周りが固まった。
「ええっ!?どういうこと!?李子さん、魏の人!?」
「いいえ、私が軍事祭酒でしたが補佐はいません」
「郭嘉殿がいなくなった後にもいません。魏軍には李子という人物は私の知る限りいません」
「……貴方は私達と似て非なる世界から来た」
諸葛亮殿の言葉に頷く。
「はい、そういうことです。私の世界には妖魔はいれど、天刑宗などいませんでしたから、似て非なる道筋でしたが……」
そう言っていれば、李子殿、人が来ておりますと兵がやってきた。通してくださいと言えばしばらくして郭嘉さんがきたが。うーん、怒っているのがわかる。ひしひしとわかる。
「ナマエ、私に言いたいことはあるかな?」
「申し訳ございません。あの後、すぐに合流できると踏んでいたのですが、思いの外火の周りが早い上に悟空の分身が来ました」
「そのあとは?」
「川に落ちて違う世に迷い込み……話すと長くなります」
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