2018/03/20
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別に死がこわくなどなかった。どうして耐えれるの?と尋ねた半端者に首をかしげる。それが当たり前だから、別段おかしくはない。ナマエはそんな人じゃなかった、と言ったその人は、一族の中で一番暖かな人だったのに!と叫ぶ。それは、2人の長と、今や兄がわりのような三人にも言われたことがある。何を指してるかわからない。まぁ、終わりで考えることでもないけれど。ぐるり、と回った視界、私を掴んだ長と大蛇様が見え、ああ、終わるのか、と、私は近くにいたヤマイヌを掴む。吐き出された光線に、死ぬのだと、笑った。それを見た曇の人間が目を見開く。死ねる喜びに笑ったと言えば彼らはなんというだろうか。
音がする。水の音、水のせせらぎ、蝉の音。香りがする。花の香りが。ゆっくりと目を見開く。どうやら生きている、らしい。ゆっくりと手を持ち上げる。酷い火傷でもあるかと思えばない。ただ、身体のあちらこちらにある切り傷や擦り傷はあの時のままだ。体を起き上がらせて見れば、思ったよりも動く体、だが、やはり重い。ビショビショになった着物はどうだっていい。帯あたりにきちんと風車のついた簪が刺さっているかを確認する。壊れず刺さっていたそれに安堵して近くにある岩に腰掛け、辺りを見渡した。何処かの山の中腹であるらしい。近江、滋賀県、そんな場所だろうかとも思ったが、どうやらそうでもないらしかった。花の香りに混じって漂う血と火薬、焼け焦げたようなの臭いは、風が運んできたものだろう。とりあえずそちらに向かえば、燃え尽きた村がある。転がっている死体は村人だけではあるまい。何か手がかりがあるだろうかと焼けた家を探すが何もない。不意に感じた気配にそちらを見る。まだ見える範囲にはいない。馬のかける音がして、現れたのは時代錯誤な武者だ。
「む、生き残りがいたか」
刀を構えた武者の首を撥ねるまでそう時間は掛からなかったのだけど。
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結論から言うと、諦めた。どの観点から見ても過去としか言いようがないからである。大蛇様の光線を浴びたなら過去に行けるのかと考えても見たが、長達がいないのを考えるとそうじゃない。
まぁ、そんなこんなで色々と考えだ結果、焼き討ちされた村に住むことにしたのだが――どうしてこうなったのか。目の前にいるのは4人の子供である。どうあがいてもまわりに馴染まない金髪、赤髪、茶髪が2人。忌子だと疎まれた子供、いや、正しくは忌子だと疎まれた結果、焼き討ちから逃れた子供だ。名前は、かすが、こたろう、さすけ、はんぞう。全員両親から授かった名前ではあるらしいが、定かではない。何もできない4人に学を与え、戦い方を教え、生きる術を軽く、本当に軽く、髪の毛の色が変わらない程度に教えた。私が料理しようとすれば全力で止める4人に懐かれたなと感じる。そんなこんなで穏やかに暮らしていたのである。
が、4人の才能に気づいた忍の連中が総出で私を殺しにきている。何度か追い払ったが、流石に連合を組まれたら無理なわけで。これは最悪なパターンかもな、と思う。私を捉えた忍は私の顔を上げさせる。私の視線の先にいた4人は息を押し殺してこちらを見る。首を刎ねられる瞬間、駆け出してきたこたろうに仕方なく忍を振り払い、こたろうを掴み、そのまま三人を連れて闇に紛れた。
「逃げなさい」
「嫌です!」
「お師様を置いていきたくない!」
「いやだ!」
「一緒ににげよう!」
そう喚いた4人に首を振る。
「お前たちだけで逃げなさい」
「いやだ!」
そういった4人にため息をつく。そして、4人の頬を打った。目を見開いてこちらを見た4人に、行け、と告げる。
「大丈夫だ、また会える」
「っ、でも、」
「私が信じられないのか?」
首を左右に振ったかすがとさすけの頭を撫でる。はんぞうとこたろうは眉間にシワを寄せてるだけだ。それは、二人が少し年上だからにままならない。
「つれていけ、私とともに戦おうなどと思うな、足手まといだ」
近づいた足音に、もう一度、行け、と言う。
「生きろ、生にしがみつけ、生きていればまた会える」
そう笑って、その場を後にする。離れた気配に、目を閉じた。
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その人の、最後の光景は首を刎ねられるところだ。首を刎ねられだ、と思った瞬間、水に浮かぶ泡沫のように消えてしまったあの人は生きているのかは知らない。ただ、しっかりと、俺とこの赤毛の男はその瞬間を見ていた。風魔一族に追いつかれ、隣にいたこの男は俺たちに行くように告げていなくなり、俺は伊賀の忍に追いつかれた際に二人を逃し――残りの二人は甲賀の忍に追いつかれたのだろう。隣にいる男がいつのまにか風魔一族の頭領にまで上り詰めていたのをみると俺と同じような生き方をしたのだろう。
「佐助の奴、武田に行く前に甲賀の里をめちゃくちゃにしたらしい」
そうあの人がいなくなったそこで口を開く。月を見上げていた赤毛の男は「そうか」と普段は動かさない口を開いた。
「呼んでくれれば加勢したものを」
「俺も思う」
またもや沈黙、カラカラと風車が回る音がする。
「お師様はいつになったら現れてくれるのだろうか」
「さぁな、だから俺も待ってんだろ」
あの人が消えて、もう十数年が経とうとしている。
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「何で俺様がこんなことしてんの……俺様忍なんだけど」
そうボヤいた佐助の背後から団子をくすねる。あ、と、こちらを見た佐助に団子を口に放り込んだ。うまい。ちょっと!と叫んだ佐助の攻撃を避ける。
「なんで半蔵がいんのさ!」
「小太郎もいるぞ」
「私もいる」
「なんで勢揃いしてんのさ!」
そうプリプリと怒る佐助に同盟国云々の関係で、と言えば佐助は頭を抱えた。俺たちが知り合いであることは国主達は知っている。それがどういう繋がりか、とまではいってないが、恐らく察してはいるのだろう、北条の爺さん以外は。
「この前謙信様と京まで行ったが、やはりいなかった」
「俺様は相変わらず奥州あたり行ったけど見てないんだよねぇ」
「俺は四国に行ったが、いなかった」
「長宗我部の旦那って紛らわしくて腹立たない?」
「わかる」
「お師様があんなむさ苦しい男のわけがないだろう!」
そうぽこぽこと怒ったかすがに、風魔が口を開く。
「前に一度、お師様の血縁かと思って調べたが違った」
「お前は俺か。俺もやったわ畜生」
「ちなみに俺は九州に行ったがいなかった」
淡々とそう告げた風魔は団子をつまむ。ちょっと!と騒いだ佐助を他所に、かすがが同じく団子をつまみながら口を開く。
「……そういえば、自称天女の噂が京で出回っていたぞ」
「なんだそれ」
「一説によれば男を魅了するらしい」
「どっかのくノ一か?」
「知らん、そいつに関しては調べてない」
「そいつってことは他になんかあるの?」
「天女様の周りには五人の従者がいるそうだ。赤髪の壮年の男、青髪の女、金髪の子供、緑髪の若年の男」
「染めてんのか?」
「知らん」
「あと一人は?」
「銀糸に近い白髪。性別はわからない。いつも狐面を被っているらしい」
「なにそれ、まさか、」
「そう思って調べたがなにもわからなかった」
そう首を振ったかすがに、逆に、とぼやく。
「逆に、お師様だから調べても何も出ないんじゃないか?」
俺の言葉に、周りは動きを止めた。
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天女様は確かに人を魅了するらしい。らしい、というか、するみたいだ。武将達が見事に陥落し、奪い合いにまで発展する騒ぎである。今も何故か小田原の城で騒ぎが起きていた。俺たち忍びは考えるのをやめた。疑いはするが。何故ならこの天女様があまりにも自己中心的で馬鹿だからだ。そうはっきり言えば、従者の連中はカラカラ笑ったり頭を抱えたり様々である。赤、青、黄、緑。四人の従者。そこに白はいない。
「あと一人、白髪がいるって聞いたが」
「ああ、あの白髪のことか?」
赤髪の言葉に「恐らくはその人だ」と言えば、アイツは神出鬼没な面があるからな、と言われる。
「時期に現れるだろ」
「そもそもアンタ忍びなら自分で探せばいいんじゃ?」
「無理無理、天女様でさえ居場所がわからないんだぜ?わかるかよ。てか、自分で探せるなら自分で探してるだろ」
そう言った緑髪に、痛いところをつくな、と、眉間にシワを寄せる。
「ま、お前らの敵じゃねぇから安心しな」
赤髪の言葉に黙り込む。そういうことではないのだけども。
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やっとのことでその忍が姿を現したのは随分と月日が経った頃だ。どさり、と死体だろうものを投げた白髪は狐面を被り顔は見えない。ただ、その服には見覚えがあった。それは、自分たちに生きる術を教えてくれた人物が来ていた服によく似ている。ひっ、と息を飲んだ天女様に、彼もしくは彼女は傅いた。
「天女様、これ以上ここにいるのは得策ではないかと」
抑揚はない。でも、その声はひどく懐かしい。
「白、なんで、てか、なにしてっ」
「貴方を連れ去ろうとした連中を殺しただけですが」
「馬鹿!何殺してるのよ!人殺し!」
そう罵った天女様に、白髪は「申し訳ございません」と告げた。
「出過ぎた真似を」
「近寄らないで!!穢れるじゃない!」
「あーあー、天女様、そんなこと言うなってば、味方なんだから」
そう宥めた金髪の子供に、天女とやらは「煩い!」と言った。
「人を殺すような人は、味方じゃない!」
その言葉に、青髪の女が、そうか、と告げる。じゃきん、と何か金属の音、それが銃弾の装填する音だと理解するのは早かった。青髪が女に銃を向けていたからだ。それだけでなく、他の従者がみなその女に刃を向けていた。
「残念じゃのう、それが最後の味方であったはずなのに」
・二週目現パロ?
二人の兄は覚えていないのだろうか。
そう背中を見つめる。笑い合う二人の兄、心を失う過程で白くなるはずの髪色は生まれつきのものへと変わり、そして、それはあいもかわらず一族の証として存在している。
目の前にいる二人の兄とは、血が繋がっている。母親違いとでもいうのか、私の母親は二人の父親と同じである、らしい。らしいというのは私の母親が死んだ日、父親がやってきて、二人の兄とその母親に合わせたのだ。今日から家族だ、と。受け入れた二人の母親は凄いと思う。まぁ、そんな話はさておき、私の二人の兄は長にとてもよく似ていた。でも、雰囲気が違いすぎていわてよくわからない。二人の兄の周りには曇達がいるし、仲がいい。やはり、記憶など持っていないのだろうか。
「ほら、ナマエ、いくよ、」
「うん」
そう言って兄の背に続く。暖かな世界をどう生きれば良いのかなんて、今更わかりそうもなかった。
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年の感覚が少しおかしい気がする。二人の兄は曇天火と同い年で年上、これはまぁいい。元は同い年であった錦は曇空丸と同い年で年上になり、私の同い年は曇宙太郎という曇兄弟の末っ子になっていた。
「風魔ってことは、白兄やこた兄、錦姉の一族っすね!よろしくっす!」
そう笑った曇宙太郎が隣の席であったのが運の尽きだと思う。
何故なら、振り回されているからである。よほど風魔の幼馴染が欲しかったのだろうか。でも振り回されるこちらとしては困る。ちょっと目を離した隙に危険な場所に突っ込む曇を何度止めたことか。で、巻き添えを食らう羽目になるのだからやめてほしい。今だって泥だらけになっているのは彼のせいである。だから、長にため息をつかれたって、錦にクスクスと笑われたって困る。彼の両親はカラカラと笑い、彼の一番上の兄は爆笑、二番目の兄はため息である。
「じゃ、言い訳を聞こうか」
そう切り出した長に彼は言葉を詰めさせる。それを見て視線を下に落とす。面倒だ、早く終わらせよう。
「私が土手でよろけて用水路に落ちかけたのを、宙太郎くんが止めてくれようとしたんだけど、二人で落ちました。ごめんなさい」
頭を下げれば、周りはまたカラカラと笑った。長もため息混じりに笑って、ナマエは本当に鈍臭いね、と告げる。
「毎度のことながら、本当に風魔か?って思っちまうな!」
「うるさいです」
「あーほら、二人とも、風呂沸いてるし先に風呂入れ」
そう話を切り上げた空丸さんに、長は「そうだね」と頷いた。……一緒に入れとな。
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向こうが私をどう扱えばいいかあぐねているのに対し、私も向こうとどう接すればいいかあぐねている。それは曇や犲だけでなく、兄や一族も同じである。風呂上がり、目の前に並べられた料理は見事に緑一色だ。
好き嫌いをして怒られるもう一人の長に、私が野菜が好きで甘い物が嫌いだからと交換したのがはじめ、であるが、実際は好物ではないし、甘いものも嫌いではなくむしろ好きだ。好物だと思って作ってくれているのだから、文句言わないで食べるけど。いただきます、と言って野菜だらけの料理を食べる。長――小太郎と名乗る方の兄が野菜を持ってくるので肉や魚を渡す。白子を名乗る方の兄がため息をついたけど。こうなれば最後、嫌いなものを押し付けられるのは日常茶飯事だ。それを文句も言わずに食べ、御馳走さまでした、と、手を合わせれば曇の次男に頭を撫でられた。ちなみにデザートは私が嫌い設定になってるからない。代わりに出される青汁を表情を崩さず飲む。曇の長男が飲んでもないのに「おぇっ」という顔をした。……甘い物が食べたい。
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許婚ができた。一応風魔の本家に組み込まれた私であるがために、父親が分家から適当に見繕ってきたが正しい。目の前にいる人物は元はもう少し年が近かったのだが、私が何故か年がおかしいために年が離れている。二人の兄の後輩、である彼は迅影さんであるが、今は迅という名前らしい。「少し年が離れているが、大事にしてくれるだろう」と無責任に告げた父親は仕事だからと足早に去った。仕事に忙殺されればいいのに、と念じて見送り、彼を見る。白、よりも金に近い髪色。説明では、三人いた婿候補のうちで、一番本家から遠い分家だとかなんとか言っていた気がする。見つめ合うこと数秒、彼は頬杖をついてこちらを見た。
「まさかこんな子供とは思わなかったが、まぁ、いいか」
何がいいのか問いたい。
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許婚ができた、と、兄達や養母に言えば兄達は固まり、養母はあらあらと笑った。
「どこの誰に唆されたの?」
包丁片手にそう告げた彼女に、首を左右に振る。
「父親が、連れてきた」
「アイツ……」
「ナマエ、どこの誰を連れてきたんだ?」
「迅さん。風魔迅さん」
そう答えれば兄二人は考えるようなそぶりをする。
「迅ならば、まだましか」
「まだましだな」
「ロリコンって言ってやろう」
「やめてやれ」
「許婚なだけだし、ロリコンではないのでは」
私の言葉に二人は顔を見合わせて、そうだね、そうだったな、と私の頭を撫でた。
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養母も仕事で忙しいので、兄達と曇の家に泊まることが多い。何故なら三人揃って料理が壊滅的だからだ。だから、有り難く居候させてもらっているのである。しかし、そこにいる限り私は甘い物を食べれない、というか、野菜しか食べれない訳で。
「迅さん、泊めてください」
「は?」
出来る限り大人っぽい服を着て、化粧をして探し出した迅さんの手を引く。迅さんは私を見て目を瞬いた。
化粧とかはあっという間に落とされました。大人っぽい服はまぁそのままだけど。
「で、なんでいきなり。お……兄の二人には言ったのか?」
「言ってないです」
「曇の家に泊まるべきだろ」
「……笑いません?」
「何が」
そうこちらを見下ろした迅さんに、私は目を逸らす。
「小太郎さんが野菜嫌いみたいだったので、野菜好きです、甘いもの嫌いですって言って交換したから、野菜しか提供されなくて……好意的にしてもらってるから、何も言えなくてですね……」
そういえば、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。なんだ、と見上げれば、いい子だな、と言われた。
「だが、俺の家に甘味はないぞ」
「!!」
「……買いに行くか」
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ライン!と音を立てたのは私のスマートフォンである。音が出る設定にした二人曰く、私がどこにいるかわからなくてもこの音でわかるから、らしい。サイレントマナーにしたい。モグモグモグと迅さんの隣で甘いものを食べる。幸せだ、とても。目の前にいる二人、迅さんと相変わらずつるんでいるらしい二人はかたや呆れたように、かたや頬杖をついて私を見ている。迅さんは隣で頬杖をついている。
「そうしてると本当に小学生だな」
「許婚の話が上がった時、もうちょっと年上だと思ったが」
もう一度、ライン!という音がする。迅さんが私のスマートフォンを取り出し、通知画面を見た。
「……兄さん達からだぞ、あと曇の三男」
「食べ終わりました」
「いや、ナマエ、そうじゃないからな?お……兄さん達が心配してるんじゃないか?」
「通知音がする限り何処にいるかわかるから大丈夫だと思います」
「あ、これダメなやつ」
「……連絡して送ってくる」
盛大な溜息をついた迅さんに他二人は合掌した。なんだこれ。とりあえず、じゃあまた、と、ヒラリと手を振れば、他の二人は少し目を見開いて止まった。
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カラカラとまわる風車を見つめたら、迅さんが買ってくれたのでそれを持って帰るとする。カラカラとまわるそれを見つめていれば、楽しいのか、と聞かれた。特に楽しいわけでなく、ただカラカラとまわる風車を見るのが好きなため、首を傾げておく。
「相変わらずか」
その言葉に彼を見上げてまた首を傾げる。気にするな、と言った彼は前を見た。もしかして、と、思うので、言葉を選び、慎重に紡ぐ。
「昔、も、こうやって、誰かに、風車、もらった気がします」
彼がざり、と足を止めるのがわかった。
「誰かに物を貰ったのが、なんだか、あたたかくて、大事にしてたのに、壊れてしまって、なおしたくても、なおしかたも、作り方もわからなくて、でも、買ってくれた人は帰ってこなくて――」
「それ以上は言うな」
そう彼が言葉を遮る。彼を見上げる。表情がない。肩を掴まれて、目線を合わされる。
「記憶がない、と聞いていたが、あるんだな?」
その言葉に、どう返答すればいいのか考える。耳元でコソリと「瞬きで合図しろ」と言われた為、首を傾げながら瞬きを一度する。
「お兄さん達は知らないんだな?」
もう一度瞬きをしながら、なんのこと?と惚ける。いつから、と、ボヤいた彼に、抱きつくのを強請るようにして口を開く。
「さいしょから」
「……そうか」
軽々しく抱き上げた彼はそのまま神社の方へ足を向ける。
「そのまま、知らないふりをしておけ。覚えていると、お前の父親に知られれば最後、平穏に戻れなくなる」
それは、今更のように感じる忠告だ。ぎゅっと抱きついて目を伏せる。もうこの手は汚れているのだと知れば、彼はなんと言うだろうか。
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私の母親は確かに死んだ。確かに母親は昔を覚えていて、父親にいいように使われて死んだ。それは恐らく私もそうだろうな、と思う。父親とお出かけする、と、告げた時、あの家族は動きを止めた。続いて告げた、水族館に、と言う言葉になんでもないように笑われたけども。今でもたまに行われるそれ、水族館に、遊園地に、動物園に、子供が行きそうな場所を父親は並べ、その実連れて行かれるのは全く違う場所だ。選択肢などないのはわかりきったことだ。「お前は実に忠実だな」と嗤った男に目を伏せた。
「ナマエちゃん、昨日はどこに行ってたのかな?」
そうカラカラと笑いながら尋ねた曇の当主に水族館、と答えながら、宙太郎と宿題をする。何処の?と続いた言葉に、父親が指定した水族館をさせば、周りが動きを止めた。嫌な予感がして警戒すれば、宙太郎が「それ、ホントっすか」と震える声で告げた。当主が言葉を続ける。
「奇遇だ、実は俺たちも昨日そこに行ったんだ」
「偶然ですね」
「でも、君と父親はいなかった。君の兄が探しても、君の特徴を係にいっても誰も見ていないと」
「昨日、何処にいたんだよ?」
そうあっけらかんといった曇の長男に、なんと言えばいいか考える。そういえば、父親が言っていた。
――バレた瞬間、使えるお前は用済みに変わる。その先はわかっているな。
提示できるのは二つだ。殺すか死ぬかだ。この人数を殺したとして、翌日騒がれるのがオチだ。ならば、死ぬしかないが、もう少しこのぬるま湯に浸かっていたくもある。なので、もう一度首を傾げる。
「水族館」
「だから、嘘はやめろって」
曇の次男の言葉に目を伏せる。そう言うことにはしてくれないらしい。いつかのために渡されていたもの、母親の形見だと言われたものを握る。やはり殺伐とした世界の方がお似合いなのかも知れない。
「……水族館じゃないなら、おやすみなさい」
ぱきり、と、掌で割れたそれ、微かな音に気づいた兄二人が目を見開いて私に駆け寄る。襲ってきた激痛に、苦痛に、呻けば周りが何があったのか理解したらしい。薄れていく景色の中でカラカラと風車が回った。
==
目が醒めるはずはなかったのに目が覚めた。ここは何処なのか。起き上がろうとするが、体に力は入らなくて布団に逆戻りする。カラカラと言う音がしてそちらを見れば風車が回っていた。それに手を伸ばして、風車を眺める。
「ナマエ、起きたか?」
そんな言葉に障子の外を見る。そこにいるのはどちらだろうか。視界がぼやけて見分けがつかない。返事をする声も出せない。が、私が動く音がしたからわかったんだろう。中に入ってきたらしい。風車がまたカラカラとまわる。
「一週間眠っていたんだ、よほど、体調が悪かったんだな」
そう言ったその人に優しい人だな、と思う。どちらかは知らないが。撫でられた頭にゆっくりと目を伏せる。カラカラ、と、また風車が回った。
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「ナマエもきっと、泣いたり、笑ったりできるようになるっスよ」
そう手を掴んだ曇の三男は半泣きで告げた。
夢を見た。見たくない夢だった。母親が死んでいる。赤くなって死んでいる。父親が笑っている。よう積みだったからと笑っている。鏡に映った私には赤色が差していた。目の色も違う気がする。それが、すっと、気づいたら紫に変わる。そういえば、違う色を宿していた気がする。そういえば、もとは暖かな場所にいた気がする。冷たくなった母親を、それを殺めた手で揺する。
「おかぁ、さ、ん、」
「それ、は、用済みだった、わかるな。お前はそうならないようにしろ」
そう告げた父親は怖かった。逆らってはいけない絶対だった。逆らったひとは皆殺された。生きる為には従うしかなかった。伸ばされた手に手を重ねる。誰かが私を揺すった気がして、夢に終わりを告げ、目を開く。心配そうな顔だ。
「しらす、さん、」
「魘されていたよ、大丈夫かい?」
その言葉に首を傾げる。起き上がれば白子さんの他に小太郎さんや錦、曇の三兄弟がいる。曇の長男は白子さんに口を手で塞がれているし、三男は寝てるけどな。同じように覗き込んだ小太郎さんが口を開いた。
「怖い夢でも見たか」
「……昔の夢、見ただけ」
「昔?いつの話だい?」
「今の昔」
そう言って自分の手を見る。包帯が血に汚れている気がしてゴシゴシとこする。
「今の昔、か、ナマエがまだ母親と暮らしていた頃の夢かな?」
「あぁ、ならば良い夢じゃないのか。うなされる必要は無さそうだが」
「ナマエの母親?」
「ナマエは腹違いの子でね、母親が違う。僕らもナマエの母親もあったことがないんだけどね……」
「お前ら、知ってたのか?会うまで」
「全く知らなかった―ーとはいえないかな。何かあるとは思っていたけど」
「ナマエ、包帯が取れる、よせ」
そう言った小太郎さんにそちらを見て、もう一度包帯を見る。包帯の下は毒で爛れている。その包帯を剥いでみると、片手が完全に爛れて強張っているのがわかった。マジマジと動かしたりしていれば、曇の次男がそれを見て息を吐く。
「何やってんだよ、ほら、なおしてやるから」
「苦無、握れない」
「……そんなもの、握らなくても良いんだよ。時代錯誤だ」
「それは、白子さん達だから言えることだと思うよ」
つい告げてしまった言葉に、周りの視線がこちらに向く。どうしようか、と考える。でももう考えるのをやめることにする。
「役立たずは殺されるね」
「誰に」
「知らない。でも、お母さんは役立たずだから殺された」
「……殺されたって、誰に?」
「私に殺された。時代錯誤、でも、現実」
「お前、自分の母親を手にかけたのか、!?」
「お父さんが殺せって言った」
「だからって!!」
「お父さんの命令は絶対だよ。じゃないと、ずっと閉じ込められる、ずっと痛いことされる、ずっと酷いことされる。されたくない、でも、お母さん、殺したくもなかった。お母さん、優しかった、陽だまりみたい、でも、だから、死んじゃった」
包帯をずっとみる。
「殺したように見せかけて、二人で逃げようって思った、だから、一回そうした、二人で逃げた、でも、追ってきたお父さんに捕まった。長い間、閉じ込められた、酷いことされた、やっと外に出たら、また同じこと言われた。同じことしようと思って急所は避けた、でも、お母さん、自分で急所に当てて、死んじゃった。そこで、色々、思い出したけど、あんまり意味がないね」
「……」
「お父さんに連れられて、白子さん達の家に行った時、お父さんが優しくなったから、びっくりした、違う人かと思った、でも、二人になったら何時ものお父さんに変わる……多分、みんなといたら優しいお父さん。だから、苦無を握らなくていい、だなんて言えるのは、優しいお父さんしかしらない白子さん達だから言えること。殺さなくていい、とか、犯罪だから、とかいう言葉も、表社会で生きてるから言えること」
そう言って周りを見る。目を見開いて固まる周りに肩をすくめて、立ち上がった。
「信じなくていいよ、私が嘘つきなだけだから」
「何処に行くんだ」
「御手洗い」
そう言って襖を開けて、外へでる。まぁ、やってきていた父親に連れていかれるんですけどね。
==
出して欲しくて叫んでも外には出れないし、大人しくする。偶に外に出されて酷いとをされ、また閉じ込められる。その繰り返しがどれだけ続いてるかなんて知らない。逃げ場などないのだから。疲れたように眠る父親を殺せば助かるのだろうか。じゃらじゃらじゃら、となった音に父親は目を開き、私をまた閉じ込める。そっと目を伏せた。
そこ、が、開いて顔をのぞかせたのは迅さんだった。夢かな、と思いつつ彼を見つめていれば、彼は上着を脱いで私にそれを包んだ。
「逃げるぞ」
ただそれだけ告げた彼はじゃらじゃらとなる鎖を気にせず駆け出した。
形式的には虐待児として保護されたようだ。警察と犲が牙を剥いたらしい。とりあえず、私がやったことは父親がやったことになり、私は私の知らないうちに悲劇の被害者として新聞紙などを飾ったらしい。白子さん達の母親は私を見て謝り倒した。最後の最後に、三人揃って「あんな一族の風下にも置けない男、殺せばよかった」といった三人の目は本気だった。何があったのか、と首をかしげる私に答えをくれたのは甘い物を持ってきた迅さんである。どうやら私がいなくなり、曇家と長二人が動いたらしい。覚えてる風魔が総力をあげて情報を探し出している最中に迅さんが私を見つけ、白子さん達に報告しーー知らない間に父親と決別していた。ぽん、と私の頭を撫でた曇の長男は、「よく一人で頑張ったな、偉いぞ」と笑う。その言葉に、何故か、ポロリと、涙が出る。
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