2018/04/20

↓改変?

・設定改変
・忘れてる司書と覚えてる文豪

==

その記憶は酷くおぼろげである。誰かがいた気はするけれど、それが誰であったのかはわからない。その酷くおぼろげな記憶があるからか、私は他と逸脱していたし、それを埋めるように本を読む。ほんのすこし、ほんの少しだけ埋まるような感覚に安堵して意味がわからずとも何度も何度も繰り返し読んだ。もうボロボロになってしまったその本を未だにカバーをつけて眺める。誰かが私を読書虫だと言った。本にへばりついているからだ。誰かが私を君が悪いと言った。本ばかり読んでいるからだ。しかし、私はどうしてもその空白を埋めたかったのだ。優しげな声で私を呼ぶその人の名をしりたかったのである。それが家族であるのか、何なのかはわからない。家族の存在でさえも空白の私にはそれがどう言った関係の人なのかわからなかった。
転機が訪れたのは、たまたま訪れた古本市で不思議な本を見つけたことだ。店主曰く、中は無字で誰が作ったのかわからないそれ。沢山の本の中で唯一、鮮やかな色を持つ本を私しか目に止めなかっただなんていう店主に、そんなわけがないと思う。しかし、そんな殺し文句を言われてしまえば、いくらですか、と尋ねるしかない。百円という小学生に合わせてくれる店主にお礼をいいつつ、その本を買う。少しワクワクしながら家に帰って本を開けば、まさに真っ白だった。光に透かして見てもそれは何も書かれてない。かといって、しっかりした紙質に、時間の流れを感じる黄ばみに首を傾げる。本当に無地だとは、と息を吐いて本を閉じる。その瞬間、青く光ったその本に目を瞬く。ぱらり、と、勝手に捲れた表紙。パラパラと繰り返し捲れたその本は、青い光と共に文字が浮かぶ。宙に浮いた文字は人の形を作り出す。そして、それは一人の男性になると、桜の花びらが舞った。ゆっくりと目を開いた彼は私をその瞳に映すと目を瞬いた。
「ナマエか?今回はこれまた随分と子供の姿なのだな」
そう少し不思議そうに告げた彼に首をかしげる。
「どうして私の名前を知ってるの?貴方は誰?」
私の言葉に彼は目を見開いて、そうか、とまた目を伏せた。

==

本から現れた人の名は森鴎外というらしい。昔の小説家の名前、と言えば困ったような笑みを浮かべた彼は記憶に新しい。すっかりと私の父親代わりになったその人は、小説家だった。本から現れて数日はずっと最近の小説を読んでいて、気づいたら寝不足で、気づいたら新人賞をかっさらった人である。うちに出入りするようになった編集者さんは、貴方は大正あたりから来たんですか、とよく原稿用紙を見て突っ込む。言葉遣いが古い、とよく正される彼に、昔の小説家だからか、と遠目で見ながら納得した。編集者さんはちらりとこちらを見る。
「相変わらず娘ちゃんに警戒されてるし」
「娘はやらんぞ」
「いや、小学生は流石にないですって」
小学生は、の、は、が気になるところである。

同じような本を、また古本市で見つけた。私が足を止めたことで、お父さん、こと、鴎外さんの足もとまる。どうかしたか?と首を傾げた彼に待つようにいってその本を手に取った。二冊ある。店主はこの間の、と私を見る。
「嬢ちゃんはまた変な本見つけるなぁ」
そう頭をかいた彼に、鴎外さんは「変な本?」と私の手元を覗き込んだ。
「俺は持ってきた記憶はないんだがね、その子が前も見つけたんだよ」
「……ナマエ、買ってやるぞ。店主、いくらだ?」
「昔の自由帳みたいなもんだろうし、何も書いてないから二冊で二百円でいいぞ」
店主の言葉にお小遣いを入れたお財布(鴎外さんから配給制へと変わった)から二百円をだす、前に、鴎外さんがお支払いしていた。手渡された二冊を抱えて鴎外さんに手を引かれて歩き出した。
「この前、おんなじような本見つけたら、お父さんがきた」
そう言えば、彼は目を瞬いた。誰か来るかな?といえば、そうだな、と彼は口元に笑みを浮かべた。

==

持って帰り、それをまたペラペラとめくる。鴎外さんが私の手を取って、本の表紙にかざした。その瞬間、青い光が灯ったそれはペラペラとページが捲れる。同じように宙に言葉が浮かび上がり、人の形を作り上げた。目をパチリと開けてその瞳に彼はどう見ても野球選手である。野球選手、とボヤけば、鴎外さんが笑った。
「久しぶりだな、正岡殿」
「あぁ、やっぱ森さんの方が早かったか!って、ナマエ、小さいな!」
ケラケラと笑ってみせた彼に首をかしげる。彼もまた首をかしげた。
「ナマエ、彼は正岡殿。正岡子規だ。私の友人だな」
「お父さんの友達?」
「そうだ、茶を任せても?」
鴎外さんの言葉に頷いて、そのままキッチンに向かう。鴎外さんが正岡さんに何か話しだすのが聞こえた。お茶を持って帰って来れば、正岡さんにぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。なんだ?と首を傾げれば、彼はカラカラと笑った。
「ナマエ、俺のことはそうだな子規さんとかでいいぞ、親戚ってことにしといてくれ」
「子規叔父さんだな」
「子規おじさん」
ちなみに即座に鴎外さんにより俳句の新聞投稿欄に送らされた彼がまた異彩を放つのは時間の問題である。

==

さっそくであるが、家族が増えた。お父さん役の鴎外さんに、親戚の叔父さんその一の子規さん、親戚の叔父さんその二の露伴さんである。鴎外さんと露伴さんは小説家であるし、子規さんも俳人だ。あっという間にその道で名前を響かせた三人は私の保護者であるが、いきなり現れた私の保護者に目を白黒させたのは学校の先生である。まぁ、面談には親が来ないし家庭訪問しても親がいないし児童相談所一歩手前だったからなぁ、と思う。鴎外さんの設定では、嫁が預かると聞いて安心して海外に単身赴任してたのに、帰ってきたら嫁はおらず娘一人で驚いた、娘を一人にするわけにもいかないので小説家になった、である。先生が納得してたからまぁいいんだろう。度々鉢合わせる編集者さんたちはハテナをたくさん飛ばしているけれど。
で、同じような本を見つけたので買って帰れば出迎えた露伴さんが目を瞬いた。
「ナマエ、それどうしたんだ?」
「売ってたから買った。誰か来るかな?」
そう言えば露伴さんはやれやれというふうに腰を当てた。
「俺が言えたことではないが、そろそろ言い訳が厳しいな」

没!



 Comment(0)
兼任司書関連 

次の日 top 前の日