2018/04/19


菊池さんが同居人に増えたよ!
といっても、実家に一人暮らしだから部屋数的には余っているしお金もある。まぁ、二人がガッツリ今の言葉使いに馴染んだ(勉強してた)結果、小説家として華々しい道を進み始めたのはもう言うまい。私は相変わらず女子高生だけれど。
「若山は静岡、手短でいくと森先生だが、あの人のモノなんかおいそれと触らしてはくれないだろうな」
そういった菊池さんに、まぁ菊池さんの本を持ち出せたのも奇跡ですしね、といっておく。亀井さん曰く、真っ白な本を研究する為の貸し出しという形を取ってくれたらしい。
「やっぱり増えるのか」
そう息を吐いた佐藤さんに、菊池さんが今更だろ?と肩を竦めた。

さてはて、あのとき怒った怪奇現象はまごうことなく侵蝕と呼ばれるそれだろう。しかしながら、表立って現れたそれには首をかしげるしかない。侵蝕者は現実には現れないはずでは。しかしながら、きっちりと作用するのはやはり文字が書かれたそれに対してだ。人が襲われていたが、彼らが消滅するなんてことはない。集団的な夢を見ているのに近く、ネットのオカルト板では少し騒ぎになっているし、学校でも噂が持ちきりだ。
佐藤さんの書いた新しい小説をぺらりとめくる。さした影にそちらを見上げれば、見るからに不良な男子生徒がこちらを見た。なんだ?と首を傾げれば、前の席の子が「苗字さん、転校生だって」と告げる。その言葉に隣の席ね、と頷く。
「苗字ナマエです、何かあればどうぞ」
「按司隼人だ」
そう言って席に着いた彼に、目を瞬く。記憶があるのかないのか、また政府の忍なのかはわからない。政府の忍であるなら恐らく私は目をつけられた、ということだ。席に座った彼は頬杖をついて口角を上げた。
「佐藤春夫の空想少女がこんなトコいるとはなぁ。刀集めはいいのか?」
その一言に、なるほど、按司だと納得する。
「今も犬やってるんですか?」
「やってない。というか、やっててもまじめにやってるとかいう奴いないだろ」
「たしかに」
「お前の家行っていいか?思い出話に花を咲かせようぜ」
「あー……いいけど、締め切り前だから慌ただしいと思うよ」
「締め切り?」
不思議そうにした彼に表紙を見せる。そこに書かれていた著者名に「双生の新人じゃねぇか」と彼は言う。
「一緒に住んでんのか?」
「はい」
「家族か?」
「いえ。名前、見覚えありません?」
その言葉に、彼は名前を眺める。そして、しばらくして彼は私を見た。
「おい、双生のもう一人誰だ。そりゃあ芥川賞にも直木賞にも近いわけだよ」
毒々しく呟いた按司に、苦笑いする。ある意味チートだろうか。

=

「ただいま」
按司を連れて家に入れば、コーヒーを持った菊池さんがおかえりと告げて固まった。按司も固まった。「双生の片割れ」と指差せば、按司は頭を抱える。
「お前なぁ」
「ナマエ、どこで拾ってきたんだ?」
「転校してきた」
「佐藤ー、ナマエが彼氏連れてきたぞー」
菊池さんが二階に向かって叫ぶ。その言葉にガタガタと言う音がして、佐藤さんが階段を駆け下りてきた。なんだって!?と言った佐藤さんに、按司は「相変わらずか」と頭を抱える。菊池さんはカラカラと「数十年会えなかったから拗らせてるけどな」と平然と告げる。
「……按司?」
「あぁ、やっぱアンタらも記憶あんのか。通りで秋刀魚の唄がないわけだし、三馬鹿の終わり方も賞の受賞者も変わるわけだ。ってことは、三馬鹿のやり取りに現れる赤毛は俺か」
「そうだな」
頭を抱えながら肯定した佐藤さんは、で、と目を細めた。ううん、締め切り近くて機嫌がよろしくない。
「菊池さんのジョークですよ。転校してきて隣の席です」
「転校?」
「親がこっちに引っ越したんだよ。棋院か誰かには会えるだろとは思ったが、まさかナマエとはな」
「親?」
「今回は普通の親だ、ま、放任主義だがな」
そうやれやれと肩を竦めた按司は私を見る。
「お前も今回はいるだろ?」
その言葉に首を左右に振る。目を瞬いた按司は「またか?」と首を傾げた。
「お兄ちゃんはいるけどどっか行ってるからいないし、お父さんとお母さんはずっといない。だから佐藤さんと菊池さんが住んでる」
私の言葉に按司が目を細めた。
「兄も両親もどっか行った?」
「両親はホントに記憶がないけど、兄は私が中学生にあがる時に居なくなった。朝起きて手紙だけ残されてたし、神隠しとかじゃなくて、多分恋人と駆け落ちしたんだと思う。お金は両親が残してくれたので細々と?」
首を傾げれば、菊池さんがくしゃくしゃと頭を撫でた。
「じゃ!俺が兄貴だとか森先生や露伴先生が父親名乗ってもバレないんだな」
「そうですね、ただ、佐藤さんは家庭教師って話になってるのでもう無理ですけど」
「あのなぁ、流暢なこと言ってるけど、児童相談所に通告されてもおかしくないことだぞ」
深くため息をついて按司は「まぁないと思うけどな」と頭をかいた。
「そもそもどうやって召喚したんだよ。初版本か?」
「いや、先生たちが作った真っ白な本」



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