ネタ帳vol.3

2025年ネタ帳8:爾に出ずるものは 2

08/12 14:17 
「李子殿は自分のことは聞き流すが、あまり家族になった人や所属の奴、友人のことを酷くいうなよ」
陸治殿がそう言って、誰か知らない人を見た。まぁ、公衆の面前で私を売女だの育ちがよろしくないだのみんな騙されているだのと騒いでいる人である。私は聞き流していたが、寵沙が代わりに怒り、言い合いになりかけたところに陸治殿がそう告げたのだ。彼は階段に腰掛けながらその人をみる。
「お前、どこの所属だ?」
「はぁ、所属?」
「え、あんた、同じ世界から来たと思ったけど、所属ないのか?それともまだ決まってないとか?」
寵沙の言葉に、知らない、そんなものあるわけない、とその人はかえす。私はふむ?と考えた。私たちの世界にも所属はある。学舎で統一されてるとは言え、魏呉蜀の三つはそれぞれ政府の要職についているのだ。当然属さない人もいるが、入りたい所属があってその人とお近づきになりたいという人ばかりなのである。同じ学舎に通っているのであれば当たり前だ。しかし、知らない、となると他校からだろうか。
「……同じ世界から来たのか、来ていないのか知らんが、お前が文句言ってる奴は敵に回るとただただ厄介な御仁なんでね。今は所属がないから穏やかにしてるだけで、結構目的のためなら手段を選ばない、結局は軍師みたいな人間だから気をつけた方がいい」
うーん、それはそう。私はにっこりと笑みを浮かべておく。
「今も自分の出自程度のことをどうこう言ってくる勢力から距離をとるために流れたままにしてるだけだろ。こうやって君主達の前でアンタみたいな奴が騒いでも、アイツが考えてる補助をしてるだけにすぎん。自分が申し出を断らなくても向こうから、自分の出自が気に食わない奴は勝手に距離を置いてくれるんだからな」
それはそうである。ので、私は流していたのだが。私はそのまま陸治殿をみた。
「陸治殿、貴方は困った方です。彼女がせっかく盛り立てくださったからはっきりするなと思っていたのに。そんなことをこんな場所で言っては、みなさん本心を隠されてしまうではありませんか」
ふふふ、と笑いながら私はその人をみた。
「陸治殿がバラしてしまったので仕方ありません。そもそも、貴方には礼を言わねばなりませんね。貴方が私を売女だのなんだのと騒いでくださるおかげで助かりました。おかげで私の才をみず過去を見た方が遠ざかった」
「アンタ、人を測ったの……!?」
「測った、とは随分な言い方です。人の過去、特に出自などは変えられぬもの。黙っていたとしてもどこからか漏れていき、そうして出自如きで批判されて冷遇されうるもの。ならば、最初からそう言った噂を流し、そう言った派閥につかぬようにするのが争わぬようにするには最善かと思いますが」
そう言って首を傾げてーーまた考えるふりをする。
「それにしても、随分と貴方は私の出自に詳しい。私の出自を知るのはたった数人です。袁紹殿は名族の威信にかけて黙っておこうといっておられましたし、荀ケ殿は不用意に人の出自を話す方ではありません。郭嘉殿や曹操殿は微塵も気にされているそぶりもない。残りは袁術殿ではありますが、彼は袁紹殿と私の会話を盗み聞きしたに及びません。彼の言動をみるに、私がそう言った場所にいたことはきいたが、親に売られたことまでは知らない」
「それはーー」
「ーー元の世界においても、あの店は犯罪組織が経営していた店だけあって、存在は知らない方の方が多く、そもそも役人に摘発されなかったことになっている。また、私に関わりがない学舎の方は名門塾にある孤児院から名家の人に引き取られた孤児であることしか知らない。そもそも私に不名誉な情報は些か過保護な兄達によって半ば消されている」
「え、こわ、そんなことしてんの」
「あほ、後ろ盾と本人の評判が強いとこうなるんだよ」
寵沙と陸治殿がちょうどそう告げたので私は彼らを見る。
「陸治殿は私を厄介だとは思えど、出自については何も言わない。寵沙は仲が良ければうっかり口を滑らせる可能性はあれど、親しくもない貴方には言わない。と、なると……」
私はもう一度彼女をみる。
「私の出自を知る方は、私を親から買った……違法に人の売買を斡旋していた組織の人間か、同じように店にいた人間しか知らないはず。貴方はどうして私の出自を知っているのでしょうね」
柔らかな口調でそう尋ねる。彼女は口籠る。彼女に周りの視線が突き刺さる。
「……まぁ、私は私のことを悪くいう方は気にしないことにしています。それに、貴方がどこの誰であれ、私には関係がないこと」
「いい気になって!そっちのやつもよ!」
「あ?」
そうして彼女はそのまま陸治殿にもかみつく。まぁ、私はのほほんしながら彼を見たが。
「おや、陸治殿も喧嘩を売られてしまいましたか。まったく困った方だ」
「こんな奴の喧嘩をかわねぇよ。さっさと失せな」
罵詈雑言を無視しながらしっしっ、と追い払った陸治殿に私も気にすることはないので仕事に戻るか、と思う。まぁ、その前に彼女が陸治殿の上司ーー孫堅様達と私の上司ーー曹操様の悪口を言ったので私は飛翔剣を飛ばすために指をあげるし、陸治殿も鉞を持って彼女に一気に距離を縮めたーーが、寵沙が止めた。
「陸治殿、武器をお納めください。李子殿、貴方もです」
「お前は主君を悪く言われて許すのか?」
「いいえ、陸治殿。俺も怒ります。しかし、何も知らない奴が言うことです」
「何も知らないから許される、と言う話ではありませんよ。発言には責任をもたないと、ね」
「李子殿まで……」
寵沙がかなり困った顔をしている、ので、私は指を下げた。かちゃかちゃと飛翔剣が消える。
「まぁ、そうですね。貴方を守った寵沙殿に免じて今回の侮辱する発言は聞かなかったことにして差し上げましょう。寵沙に免じて陸治殿も手を引いてあげては?」
そう促せば彼は舌打ちをして少し離れた。かわいそうに、陸治殿の殺気に当てられて過呼吸になっている。
「アンタは不用意に発言すんな。死にたくないなら変な騒ぎしない方がいい」
寵沙がそう言って彼女をみる。まぁ、聞こえてないだろうが。ぶつぶつと何かをずっと呟いているのを見ると精神的にかなり参っているのか、それとも、と考えていれば、急に動き出した。
「神様!!アイツらに恩恵など与えなくていい!!アイツらを元に戻して!!」
その瞬間、彼女の背後から、ぶわり、と何かが現れる。それが何か触手のようなものを寵沙に向けたためーー陸治殿がそれを叩き切った。が、霞のようなものだからかそれは霞んで意味がない。さて、元に戻すとは、と考えていれば、李子殿!と徐庶殿が私を庇いそうになった、ので私は逆に徐庶殿を庇っておく。黒いもやに包まれはしたが、特に何かが起こるわけではない。私を包む黒い何かは私をみた。
「おまえはあれとちがい、ねがいをかなえてもらってはいない」
「その口調からすると、あの子は叶えてもらったようですね」
「かなえた。ひとをくれたから。おまえたちはたべれないからあのおんなとつれてきた。やはり、まずい。おお、まずい」
そう言ってぺっと吐き出されるように外に出される。空中だったので受け身をとって、着地をした。
「まだ聞きたいことはあったのだけど……」
「なんだ、元に戻るっつっても服が執行部仕様になっただけじゃねぇか」
「あぁ、陸治殿、飲み込まれるなら……遅かったか」
陸治殿と寵沙も飲み込まれてーーしばらくして吐き出された。ふむ、確かに服が執行部仕様になっている。
「なんで」
「これらはかなえてない。だが、にえはいる。あれらはまずい。よこせ」
そう言って黒いもやは彼女を飲み込みーー彼女もろとも消えた。
「うぇぇ、なんだよあれ……気持ち悪い……なんだよ、まずいって……」
「まずいってことはうまい人間がいるんじゃねぇか」
「考えることが増えましたね」
私は目を伏せてそう告げる。ああ、いけない、思考に耽る前に徐庶殿に礼をせねば。
「徐庶殿、庇ってくださりありがとうございました」
「いや……君が無事でよかった。けど……」
上から下まで見て口籠る彼に、私は首を傾げる。けど、なんだ?と思っていれば、陸治殿が口を開く。
「……アンタの性別を聞きたいんだろ」
「あぁ、わかりにくいですね。わざとそうしてます。性別など些細なことでは?」
ふふふ、と笑いながら言う。陸治殿が苦い顔をした。
「アンタにとってはな」
「徐庶殿、李子さんは女だよ。主君に仕えたりお兄さん達について回るのに男装した方が都合がいいから、そういうわかりにくい格好をしているだけ」
寵沙が説明してくれたので、私はニコニコしておく。郭嘉殿が近づいてきて口を開く。
「赤、緑、青……それにそれぞれに主君がいる。まるで我々みたいだね。その服を着ていると、三人とも私たちそれぞれに紛れてもわからない」
さて、話してしまった方がはやいか否かと思いながら考えていれば、陸治殿がそうだなと告げた。寵沙が心配気に陸治殿をみた。その視線に答えるように彼は口を開く。
「違う世界の同じ一族の人間がいてややこしい話になるから黙っていたが、あの女が騒ぐなら言っておいた方が後々は楽」
それはそう。私は目を伏せる。
「と、なると……」
「もう少し、所属を問わず皆様に教えを乞いたかったのですが……」
そう呟いて私は口を開く。
「申し訳ございません。我々は姓を隠しておりました。皆様とは違い、我々の世界の我々の生きる時代では姓と二字の名が通常です。街の方と話した際、無闇な混乱をもたらすと思い伏せておりました」
「まぁ実際混乱したのはこっちだったがな。同じ名前の赤の他人がわんさかいるときた」
そこまで話すのかぁ、と私は思ったし、寵沙も同じように思ったのだろう。陸治殿は切先を地面に落とすと口を開く。
「陽虎孫家の使用人兼護衛の程陸治だ。父親は孫堅殿の要人である程普。まぁ、伯符と公謹の目付け役、時々その妹と弟の護衛をしてる。俺と同じ名のやつがいるかと思ったが、そうでもないようだ」
軽くそう告げた陸治殿に、寵沙が「あー」となんとも言えない顔をした。
「俺こう言うの苦手……えーーっと、仁龍劉家の使用人見習いの黄寵沙、です。もとは馬家なんですけどちょっと俺の両親が色々あって黄忠爺ちゃんの孫になりました。李子さんと陸治さん、その周りには学舎で色々教えてもらって勉強中です」
と、告げたので私に視線が向く。私はとりあえず向き直り口を開く。
「覇凰曹家、使用人が一人、荀李子と申します。もとは彼女が告げていたとおり、名門や有力な一族の出の二人とは違い市井の民でございました。幼少期のころ、父母に売られ……殺されそうになったところを私の世界の曹操様に助けられ……そのまま学問を教える傍ら孤児達を引き受けていらっしゃる司馬徽先生の元に預けられていたのですが、縁があり荀家一族に名を連ねることになりました。まだまだ名に負ける若輩者ですので、別世の荀家の方々にご迷惑がかかりますし、違う勢力下にいらっしゃる方々から学ぶためにもあまり名乗りたくなかったのが本音ですが……」
そう言って困ったように笑う。さて、こう名乗るとどうなるかと言えば。
「いえ、そんなはずがありません。貴方はもう名に劣らぬ才をお持ちです」
「ええ……異世界で同じ名の人がいるとは些か驚きましたが、貴方が荀家であることは喜ばしいことです」
荀家による囲い込みが始まるのである。しかし、魯粛殿が私を見て戯けるように口を開く。
「おっと異界の敵に塩を送ったか?」
「いえ、今は敵では……」
「李子殿は三つの家の調整役なので、気にしなくて良いかと思いますよ。それを言うなら張遼殿や関羽殿に稽古つけてもらってる俺も同じですしね」
「さっき李子さん何考えてたの?」
「いえ、彼女やあの霞のような化け物の発言を考えていました。まだ不確定ですが……」
「聞いておいても?」
そう尋ねた諸葛亮殿に私は頷く。
「皆さんは場所と共に転移したというのに私たちはしていないのです。室内にいたのに、闇に覆われたと思えば平原でした。皆さんの話を聞いた上で、我々は遠呂智に招かれたのではなく、別の何かに招かれたのではと日頃から考えていたのですが……あの霞のようなものが、私たちの願いは叶えていないが彼女の願いを叶えた、私たちはまずいから彼女とともに連れてきた、と言っておりました。また、叶えるには贄が必要だとも」
軍師が顔を顰める。よくわかっていない寵沙達に私は口を開く。
「すなわち、彼女は異界に渡ると言う願いをあの霞のようなものに叶えてもらった。いえ、彼女の言動をみると、贄さえ準備すればいくらでも叶えるのでしょう。私たちをまずいというあたり恐らく贄をは人間です」
「……俺たちがここに来る前は、確か室内にある市場だったな」
「ええ。私たちの周りにいた人は彼女の願いの対価として、あれに食べられて死んでいる可能性は高い。私たちの世界からいえば、願いを叶えるにはそれ相応の対価がいる上に、呼び出したものの願いしか叶えない」
「おっと、私たちの願いは聞き入れない、か」
「俺たちの世界で、の話だが。昔、同じようなものを呼び出して世界の平和を願った男が二人ほどいる。かたや、自分の身や部下や国ごと呼び出したものが殺し、対価に隣国もなくなり、近くにある別の国がそこを支配し世界は平和になった」
「かたや、その男以外はその半島から消え大地は砂漠となり不毛の土地になり、人間はいなくなったので平和になった……まぁ、わたしも何度か見てきましたが、結果碌でもない死に方をされるのでやめておいたほうがいいです。何かに求婚されて闇に引きずり込まれる人、食べられてしまう人謝っても助けを喚いてもその局面までいくと人間が助けることは難しい……人間は人間が人間の法をもって裁いた方がいい」
そう言って目を伏せる。
「しばらくは村などを気にかけた方がいいかもしれません。小さな村ひとつ食べられてなくなった、などはあり得そうです」
「うええ……」
「さて、そのようなことが起こったのであれば、それぞれの家が動きます。解析した兄様達が来るのが先か、伯寧くんと一緒に解析した孔明くんが涼しい顔して学友を送り込んで来るのが先か……なんにせよ、仙の方々や阿国様の協力を得た方が良いことには違いありません」


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