ネタ帳vol.3

2025年ネタ帳25:桃の木のもとに3

08/12 14:39 
私が郭嘉殿から離れれば、元直ーーあらため、徐庶殿がいた。とりあえずは私付きで仕事をしてもらうことになったので、献策しないという彼の腕に関係がない仕事をのせる。
「献策されなくても結構。お仕事はしましょう」
私の言葉に困った顔をされたのは記憶に新しい。二、三日ペースであれもと少しずつ仕事の量を増やす。まぁ頼ればやれやれしながらやってくれるあたり、やはりお人よしであるのだ。
「徐庶殿」
「また仕事かい?今日はーー」
そう言った彼に、ああいえ、と首を左右に振った。
「紫鸞殿に普段武芸を習っていたのですが、貴方も武芸を使われるときき、少し教えていただきたかっただけです」
忙しいなら良いです、と言えば彼は少しだけ目を逸らして、わかったよ、と頭を書いた。
「ただ、俺は手加減ができないから、怪我をしても知らないからね」
ほら、やっぱり彼は優しいのだ。ありがとうございます、と返せば少し照れたようである。

「李子殿はどうして曹操殿に?」
「昔助けていただいたことがありますし、私の恩人の方が彼に推薦してくださったからですかね」
彼に手解きをうけーー私の奢りでの夕餉である。対面に座った彼はそう私に尋ねた。
「ーー助けてもらった?」
「あの方は覚えていないでしょうが……彼がまだ一回の役人であったころに、野盗に襲われていたところを助けていただきました。まぁ、それから色々あって……恩人の方がこと付けを書いてくださり……今ですね。まぁ、恩返しです」
私はそう言って料理に舌鼓をうつ。美味しい。彼は「そうだったのか」と私を見下ろした。私は彼に尋ねる。
「徐庶殿、劉備殿のようにわかりやすくはありませんがーー曹操殿は私たちにはお見せにならないだけで、随分と優しくーー心が強い方です。無理をされていても私たちに悟らせることはないでしょうが」
「……見えないな」
「時期にわかります」
そう言って私は彼の杯に酒を注ぐ。
「荀ケ殿や荀攸殿、賈詡殿は苦手ですか?」
「……判別するまで、話したことはないよ」
「そうですか」
「でも、どうして?俺を誰かに押し付けるかい?それとも献策をするように言う?」
「いいえ。献策については貴方がそう決めたのであれば、私はとやかく言いません。逆であれば私もそうするでしょう」
後者に対する否定だ。
「軍師達の話は、そのうち、貴方は違う方の部下になるでしょうから気になっただけです」
「李子殿の手伝いはおしまいか、仕事が楽になるな」
そう言った徐庶殿に、私は頬杖をついて彼を見る。
「いえ、増えるでしょう。私がいなくなるのだから」
私の返答に彼は息を詰めた。
「いなくなる?」
「私はもう直ぐ死にます」
「……えっ?」
予想していた言葉ではなかったのだろう。彼は素っ頓狂な声を出した。
「ただしくは、大きな戦で死ぬでしょう。小さい頃、易者に言われました。それがそろそろです」
私はそう言って杯を傾ける。あいた杯に困惑した徐庶殿が酒を注いだ。
「易者、と言うことはただの占いだろう?」
「そんなことをいえば、まだ民であった高祖を見て皇帝となると言ったのも占いでしょう?」
私はそう言って彼を見た。
「仮に戦で死ぬんだとしても、どんな」
「川で行われる大きな戦らしいです。主を守り、川に落ちて私は死ぬのだとか」
「川?」
「川」
徐庶殿が何かを考えている。私はふふふと笑う。彼は眉尻を下げて私をみた。
「李子殿、揶揄わないでくれ」
私はそれに何も言わずに、笑ったが。それで良いのだ。それくらいの認識で。彼は私を見て、酔ってるな……とつげた。
「今日は昔を思い出して気分が良いから」
恐らくもなにも、私がおかしいだけで彼には記憶などなかろうが。


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「李子殿は随分と笑われるようになった」
酔っている荀攸殿がそう告げる。そうですか?と尋ねれば、そうです、とかえされる。最後に酔った彼を見たいとおもったのだ。彼は自分を蔑み私を褒める。昔はあまり私の前ではそう言った蔑みをしなかったが。私は彼を褒める。まぁ先日彼を驚かせて私が笑ったのを見たのだろう。
「何かいいことがありましたか?」
「郭嘉殿が生きてる」
「そうですね。大人しく療養されてます。この間も書簡をいただきました」
「書簡?」
「暇を潰したいから大きな戦があれば読んで欲しいと。貴方に頼めばよいものの……」
荀攸殿の言葉に私は微かに目を見開く。
「……呼ばなくても対処できます。郭嘉殿には今後のためにもごゆるりと療養してもらいましょう」
私は目を伏せてそう告げる。ええ、そうですね、と彼はふにゃりとわらう。
「文若殿も郭嘉殿も李子殿も賈詡殿もいる」
「……私はともかく、貴方も徐庶殿もいる」
「俺は……徐庶殿は……」
まぁそこで言葉を止める。
「荀攸殿と徐庶殿は仲良くできると思いますが」
「しかし……」
「あの方は優しいですよ。献策以外は何だかんだと言ってやってくれますからね」
ふふふ、と、笑う。彼は「それは李子殿の頼みだからでしょう」と告げる。それはそうかもしれないが、それをどうにかしないとならない。

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賈詡殿の視線が向く。ついでに徐庶殿の視線もむく。赤壁につながる一連の戦である。正しく川で行われる戦だ。私は彼らの視線を気にしないふりをして考える。さて、赤壁のあたりにはこの季節特有の風が吹く。問題は火計をどう防ぐか、である。私は被害の最低の抑え方しか知らない。
「李子、何かあるか?」
「攻める点では特にございません。ただ、防備の話にはなりますがーーこの時期、この地域では下流から上流に向かって風が吹くことがあると聞いたことがございます。相手がそれを知っていれば、火計を仕掛けてくることもあるかと考えておりました」
私はそう言って曹操様をみる。
「また、慣れない船での戦です。海などに隣接し船に慣れている孫呉の兵はともかく、我々の兵が波に酔ってしまい普段通りに動けないことも考えれます。それを防ぐには事前に兵達を慣らせるか、船同士を繋ぎ合わせるしかありませんがーー」
「そんなことをすれば、火の周りが速くなります」
荀攸殿の言葉に私は頷く。
「えぇ、そうですね。しかし、兵達をならせてあげる余裕もない。相手がそれを狙って兵に教える可能性もありますが……まぁ、その際は私がいつものように責任を持ち被害を最低限に抑えましょう。殿もお気付きかと思いますが、私は郭嘉殿のように攻める策よりも防備の方が得意です」
ふふふ、と笑いながら言えば、曹操様も、ふっと笑って、そうだな、と告げた。
「万が一があってもお主がいればなんとかはなろう」
ーー私がいなくてもなんとかなると思うのであるが。


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「李子殿」
紫鸞殿が私に声をかけた。どうかしましたか?と尋ねれば、彼は私を見下ろした。
「残れないのか」
その問いかけに、私は首を傾げる。彼は言う。嫌な予感がする。参加しない方がいい。私はそれを聞いて、賈詡殿か徐庶殿になにかききました?と尋ねる。彼は目を少し見開いて、いや、そうじゃない、と告げた。
「ただ、嫌な予感がする。典韋殿や、郭嘉殿の時みたいに」
彼はそう言って眉尻を下げた。
「あの2人の時は李子殿がいたからなんとかなった。でも、李子殿のことは李子殿に任せられない。ここに残って欲しい」
「いいえ、心配なさっている紫鸞殿には悪いですが私は行きます」


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勝った、中で、紅蓮の彼が見える。同じような星巡りの元、同じように生きている、魂の同郷が見える。矢を構えた彼に、私は走る。
「曹操様!」
そう言って私は彼を庇い、また矢をきりおとし、矢をくらう。近くの弓兵から弓矢を奪い、彼を射たが、彼はそれを左腕に刺したまま弓兵を引き連れて撤収した。
「李子!!」
曹操様の声が聞こえる。私はそのまま彼を見て、ご無事ですか、と、ゆるく笑む。力を失う。川に落ちる。典韋殿が身を乗り出すのが見えーー私は沈む。あの時のように水中から見上げた水面は赤い光に包まれることはない。ただ、暗くなる視界の中、赤い帯がはためいた気がした。

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ーー話し声が聞こえる。ぼやけた視界に映ったその姿に、ゆうにいさま、?、と呼べばそこにいたその人は振り返り、近づいた。この瞳の色は。
「紫鸞殿……?」
「よかった、目が覚めたか。元化をよんでくる」
彼はそう言って席を外す。私はまだぼんやりとした頭でまわりをみた。まぁ、元化殿よりはやく曹操様がきたが。
「李子よ、目が覚めたか」
「……ごぶじ、ですか」
「お主のおかげでな。……傷は痛むか?」
そう言って彼は簡易な寝台の上に座る。
「いえ、これくらいは……」
「傷を負った責任は取ろう」
「……せきにん?」
回らない頭で私は問いかける。彼は「李子よ」とまた口を開く。
「随分と器用に立ち回りーー我らを騙しておったな。気づくものはいなかった」
その言葉に私は息を詰める。と言うよりは頭が回り始める。いや、お前と戯志才は共犯か、と少し楽しげに笑ったが。
「通りで成人している男子よりも小さいわけだ。皆子供だと揶揄っていたが、男子としてはまだ子供の年齢だとは……」
私は身を起き上がらせる。
「ーー罰せられますか?」
「……お前のような才、その忠誠心も失うわけにはいかぬ」
「……しかし、公平に罰するべきです。私は塀に囲まれた世界から出てーー貴方に仕えたいがあまりに、貴方達を騙したことは変わりない」
私はそう言って彼を見た。
「他の方に示しがつかない。今は小さなものでも、それは時期に不和に繋がりましょう。曹操様、もし貴方が私の才を買ってくださっているのであれば、私が勝手につけた傷の責任を感じられているのであれば、年を重ねた私を妾にするのではなく、貴方を守った功績を盾に放免してください」
私はそう言って目を伏せる。だが、と、彼は渋ってくれる。
「年増でもよいと言った変わった御仁が許昌で大人しくしています。そちらに合流し、今度こそ真に貴方を支え、ご恩を返したく」
そう言って少し笑う。彼はその言葉に目を瞬く。そうして、その人物を思い描いたのだろう。ふ、と笑った彼は、李子よ、と口を開く。
「真の名をなんという?」
「桃李ーー量らずしも、笄礼の際に戯志才さまに頂いた字が李子、と」
彼は私の字を思い出したのだろう。
「成蹊という字は……」
「桃李成蹊、本名にかけたちょっとした言葉遊びでございます」
ふふふ、と、私が笑えば、彼は少しだけ穏やかな表情を浮かべる。
「李子殿、よかった、目を覚ましたんですね!」
そう言って入ってきた元化殿に、曹操様は立ち上がりいつものように私を見下ろした。
「……李子、処遇は改めて伝える」
「かしこまりました」
そう言って私に背を向けた曹操様に、紫鸞殿がその背を目で追ったのが見えた。



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