ネタ帳vol.3

2023ネタ帳5:隣の花森さん、隣の天才ちゃん

01/14 16:48 



・小学生くらいの女子と引っ越してきた花森
・出会編(12歳と20歳編)
・アンダー編(14歳と22歳)
・オリンピック編(16歳と24歳)
・そうどう編(18歳と26歳)
・アジアカップ編(20歳と28歳)※原作筋
・隣人編(22歳と30歳)
できれば→←で読んでいく形にしたい。
真ん中で、きっかけは?
「隣に住んでいたからです」みたいなので終わりたい


※隣の天才ちゃん

隣は日本人家族とはきいている。聞いている、のではあるが、こんなことになろうとはこの日本きっての天才である花森でも予想外である。見下ろした先にいた子供は泣き腫らした目でこちらを見上げるとぐすぐすと鼻を鳴らしていた。短い黒髪に、アジア人特有の目の色が見える。ここは俺の家の敷地内だとか、なんで子供がいるんだだとか、そう言ったことを言おうかと口篭っていれば、子供はこちらを誰か先に理解したのかもしれない。涙を無理矢理拭うと、どこかキラキラした目でこちらを見上げた。次に来るのは俺への賞賛か、それとも。そう思っていれば、子供は口を開く。ご丁寧に、日本語で。
「ハナちゃん選手だー!!」
「は?」
そう、これが苗字名前との初めての開墾である。

1

苗字名前という子供は隣人家族の子供である。親はドイツの車会社に勤務しており、レースに携わっているらしい。というのにこの子供は車には全く見向きもせず一にも二にもサッカーが好きだ。隙さえあればプロで代表である俺をサッカーに誘う。天才の技を見たいのはわかる。わかるのではあるが、こちらはプロであるのだ。そう易々と頷くわけにはいかない。いや、泣いていた名前にボールをさわるかと告げたのは確かに俺ではある。が、それはたまたまで、簡単に頷くわけにはいかない。これでもかと隙間時間を狙ってくる上に断るとしょんぼりするからから仕方なく。……だから、簡単に頷くわけには……。
「花森くん、今日の夕飯は日本食だけれど、食べていく?」
「あ、ありがとうございます……」
「いえいえ、娘がお世話になっているのだもの」
そう、簡単に頷くわけにはいかないが、この子供の相手をすると海外の地で日本の食事を提供してもらえるのだ。自分で作ろうと思えば作れるが、他人が作ったものを食れるというのは正直ありがたい。それも日本食である。ナマエの母親や父親が料理を作っている間、仕方なく天才である花森がその二人の子供であるナマエと一緒にボールを蹴ることにしているのである。
さて、苗字ナマエの話に戻る。この子供は同世代に比べて確かにサッカーがうまかった。俺が移籍したチームのスクールに属す彼女は周りでも頭が抜きん出た存在である。マリナーズのスクールで腐るほどみた、なんやかんやと駄々をこねるわけでも屁理屈をこねるわけでもプロ相手に下手だとか見栄を張ることもない。一言で言えば大人の言うことをきく『いい子』だ。たまにお前は持田かと思うようなとんでもない毒を吐くことは確かにあるが、そのあときちんとにフォローはするし、基本的にはいい子だ。教えればすぐ吸収するし、それを自分ができる範囲で生かそうとする。教えていて面白い子供なのである。それはトップチームの一部や、スクールのコーチたちも同じらしい。毎日学校帰りに練習を眺めては、自分の練習をして帰っていく。あの子に懐かれたのかとケラケラと笑われたのも最近で、共通の話題にはかわりなかった。……あとはドイツ語もたまに教わるくらいか。

今日も隣に住む苗字ナマエはボールを片手に、キラキラとした曇りなき目でこちらを見上げる。
「ハナちゃん選手、一緒にサッカーしよ!」
……目下の問題は、このあだ名をどう矯正していくか、だ。

==

グスグスと泣いている子供にどうしたものかと思う。ここまで泣いているのをみるのは2度目か。決勝戦で負けただの、俺が惜しかっただのと時々泣いてはいるが、ここまで泣いているのは2度目だった。
「どうした、」
そう声をかければ、ナマエはそれはそれは悔しそうに口を開く。
「どうしてわたしはおとこじゃないの」
その問いには流石に天才である俺には答えられなかった。それは生まれ持ったものだ。変えにくいものだ。この子供は生まれ持って違和感を抱いていたのだろうか。いや、おそらくは今までの言動からしてそうではない。何かあったのか、と声をかける。昔付き合っていた彼女に何故圭悟は尋ねてくれないのと怒られたのが今になって効いている。子供に対する対応で使うとは思わなかったが。苗字ナマエはグスグスと出会った頃のように鼻を鳴らす。そして、あの時とは違って困ったような笑みを浮かべた。
「お母さん泣かしちゃった」
その言葉に、動きを止める。先程の言葉からどうしてこう言った話になるのか。そして、どう答えるのが正解か。こう言う時にはどうすればいいのかなど過去の彼女らは教えてくれなかったからだ。

2

とりあえず家に迎え入れ、ミルク入りのコーヒーを入れてやる。ソファで足を抱えて座り三角を通り越してまんまるになっているナマエは俺の家にあるお気に入りのブランケットをすっぽりとかぶっていた。
「……何があった?」
そうマグカップを渡しながら、尋ねればナマエはグスグスと鼻を鳴らしながらマグカップに息を吐きかける。
「今日、ユースにトップチーム率いている人がきた」
もうそんな時期か、とカレンダーを見る。そろそろトップチームへの昇格を考えて関係者がユースに顔を出し始める時期だ。今日は確か、男子側の練習に混ぜてもらえるのだと楽しそうに言っていたのを思い出す。
「みんな、私が男ならとか、男だったらトップチームに入ったのに、っていつもみたいに笑いながらみんなが言うから、私も言っちゃった。私だって本当は男に生まれたかったって」
ナマエはまた顔を俯かせる。
「それをたまたま聞いたお母さんがね、男の子に産んであげられなくてごめんねって泣いちゃった」
最低なこと言っちゃった。
ナマエはそう言ってまた丸くなる。器用にマグカップを持ったまま。俺は言葉を詰まらせる。
確かに苗字ナマエという存在にはその言葉がつきまとう。俺が聞いていても、苗字ナマエの評価の終わりは性別で終わった。賞賛の後に続く言葉は『でも、女だ』もしくは、『でも、男じゃない』。それはこのクラブには女子チームがないから余計なのかもしれないし、ある種の期待、もしくは一定数以上の評価をされているからかもしれない。
苗字ナマエはある種の天才である。俺よりは劣りはするが、おそらくは同世代の中では天才に間違いない。それに、天才という言葉で片付けてはいけないほどの努力もしている。それは男であれ、女であれ変わらない。苗字ナマエの実力も努力も才能もどんな性別であれ変わらないはずなのである。俺がサッカーが上手いと日本人で一番だと讃えられるように、年齢が違えど同じような評価を受けるべきなのだ。そこには付け足す言葉はいらない。何故なら付け足された言葉の悔しさなど、俺が一番理解しているからである。
「……ナマエは、ナマエだ」
そう言って妹をあやすように頭を撫でてやる。慣れとは恐ろしいもので、ただの隣人の子供であったはずが、いつのまにか妹のようになっている。ゆっくり顔を上げたナマエに、口を開く。
「俺には劣るがナマエは天才。性別がどうであれ、ナマエの実力はかわりゃない……ナマエはナマエのままでいい」
噛んだ、と少し恥ずかしくなって気を逸らすために隣に座った。少しだけ泣き腫らした目で彼女はこちらを見る。
「ハナちゃん選手は、私が男だったらとか考えないの?」
「考えたことがない」
「へんなの」
ナマエはそう言って泣き止むと、ケラケラと笑った。
「へんなのとはなんだ……!」
「ハナちゃん選手結構色々変だよ」
せっかく人が慰めているというのに何ということだ。そう眉間に皺を寄せる。ナマエは笑いながら口を開く。
「だってそんなこと、みんな言わないもん」
知っている。だからこそ、俺は言った。認められた時の喜びも俺は知っているからだ。
「周りは凡才だからな。だからこそ勝手に期待するし勝手に裏切られたというし一喜一憂する。身勝手な周りの言うことにゃど、放っておくのが一番だ。だが、黙っていても俺のような人がいることも覚えておけばいい……!」
そう、俺でさえ好き勝手言われるのだ。おそらく生きている限り好き勝手に言われるが、天才であればその数は増えていく。しかしながらどんな時であれ良い評価をする人は必ずいるし、理解してくれる人間もいるのだ。聞こえたり見えたりするものが全てでは決してない。
「……ナマエは今のまま突き進めばいい。そうしたら、おそらくはプロにもなれるし代表にもなれるし、オリンピックにもワールドカップにも出れる。第二の花森圭悟にもなれる」
日本で一番上手い俺が言うのだ。間違いはない。俺の言葉に、ナマエは俺を見上げた。
「第二の花森圭悟にはなれなくていいから」
はっきりと告げたナマエの言葉に調子が戻ってきたらしいと理解する。ほら、こう言うところが時々持田を連想させるのである。
「もし、プロにもなって、オリンピックにもワールドカップにもでたら、ハナちゃん選手とサッカーできる?」
ナマエの言葉に俺は目を瞬く。いつもしているはずではないか。
「ハナちゃん選手たちと、同じ色のユニフォームをきて、同じチームでサッカーしてみたい」
試合となればおそらく難しい。本気の勝負としては。ミニゲームやテレビ番組のお遊びではできるかもしれないが。しかしながら、俺は大人としてこの子供に夢を見せなければならない。目標を持たせなければならない。いや、この天才を引き止めなければならない。
「あぁ、必ず」
「本当に?」
「あぁ、その頃には俺は唯一無二の日本のエースであるし、ナマエも日本のエースになっているであろう」
俺の言葉に、彼女はケラケラと笑った。約束だからね、といつかのように目をキラキラと輝かせた彼女に、その前に、と口を開く。
「いくら天才でも麻弓さんには謝らなければならない……」
「……」
「……ついていってやる」
本当に手のかかる妹もどきである。まぁ、その翌年、彼女はまわりの友人達よりひと足先にトップチームに引き抜かれることになるのだが。

==

苗字ナマエは隣人ではなかった。何故なら、ナマエに声をかけたチームはベルリンにある新規参入チームで、彼女と両親はそれに伴い引っ越したからだ。手のかかる妹が離れて寂しいなどと思っていない。癖でたまにナマエがいたベランダを見上げてしまうが。いや、寂しくない。向こうが寂しがって頼んでもいないのに連絡をいれてくるし、試合を見に行くだの見に来いだのとうるさいからだ。だから、寂しくなどない。何故なら、俺もまた違うチームへの移籍が決まり忙しくなったからだ。しかし、何の因果だろうか。同じベルリンにある同じクラブチームである。いや、これは代理人と俺が交渉の末に決めただけである。他の意図などない。なのに、何故だ。
「ハナちゃん選手、またお隣さんだ!」
また隣の家に住んでいるのは。
俺を見つけて苗字ナマエその人物である。髪を伸ばして、身長が多少伸びたらしい。外見は少しは大人になったというのに、相変わらず幼い子供のようにキラキラとした目でこちらをみていた。



最年少でトップチームに入ったナマエではあるが、日本では有名ではない。何故なら国内のプロチームの下部組織にいたわけではないし、U12や中学選抜などそう言ったことに選ばれたわけではないからだ。ナマエは国籍こそ日本であるが、最初からドイツでサッカーをしていたからだろう。情報が漏れていないと言うよりは、有名な選手が日本国内から移籍したらともかく情報があまり行かないような印象をうける。まぁ、それは男子チームもそうかもしれないが。逆にドイツの関係者には広く認知されていた。天性の人懐っこさからか、それとも技術を買われているからか、と思ったが、どちらかといえばナマエの場合は人懐っこさにあるような気がする。こちらの練習終わり、あちらは練習が今からと言うところである。ハナちゃん選手!と何も変わらず駆け寄ってきたナマエに何とも言えない気持ちになる。
「やぁ、ナマエ、ハナモリと仲良いの?」
「仲良し!一緒にサッカーしてくれる!」
「ああ、ということはキミが約束を結んだ婚約者だ」
そう告げたキャプテンであるアスターに「は?」と返す。何がどうなってそうなった。ナマエは首を左右に振った。
「その認識やめい!ハナちゃん選手に迷惑!」
「そうなのかい?ドルトムントの奴らからキミは昔からある選手にゾッコンって聞いてたし、約束をしたから小さな婚約者って言ってるのを聞いたけど」
「そうだけど違う!ハナちゃん選手には美人な彼女がいるはず!約束も一緒にサッカーするっていうやつ!」
ぽこぽこと怒るナマエにお前はどこまで知っているのだと言いたくなる。まぁ、テレビで前に言ってた!と理由を告げたが。残念ながらその時の恋人はもうドイツにきてから少しして別れている。アスターという人物はケラケラと笑いながら口を開く。
「この際白黒させてしまおう。ハナモリはナマエをどう思う?」
どう思うとは。それは一択では。
「どこまでも手のかかる妹」
それに尽きる。俺の発言にアスターは思いっきり笑った。それはもうゲラゲラと。その様子に、周りの選手が集まってくるのであるが。ナマエと言えば、女子側の選手に呼びかけられて、「ハナちゃんとアスターのバーカ!」と言いながら走っていった。俺は完全にとばっちりだ。ひとしきり笑い終えたアスターは涙を拭いながら口を開く。
「よかったよ、とんだロリコン野郎が入ってきたのかと思っていたが」
「風評被害がすぎる……ドルトムントはなんと?」
「クラブハウス伝いでは君たちは兄妹みたいなものと聞いてるらしいよ。でもよかったよ、君がきて。小さな女王様は寂しそうだったからね」
小 さ な 女 王 様 ?


==

絶対見に来て!とうるさいから仕方なく。仕方なくである。男子リーグよりも少し落ち着いた客席、その上部の席に座って試合を眺める。ナマエの立ち回りを見てほしいと言われたが、それは監督たちがすべきことだとはいつも思うことだ。褒められてばっかだからこうダメなところ教えてほしいと言われたのは記憶に新しいことではあるが。まぁ確かにたまにどうしてその選択をしたのか聞きたくなることはあるのだが、それはもしや場数を踏まなければわからないことなのかもしれない。
「花森圭悟?」
前半が終わったと思えばそう声をかけられる。違いますと返そうとは思ったが、その声が知人の声に似ていた。その方をみれば、やはり俺の記憶にある人物である。稲積一真。マリーンズにいた元プロ選手で日本代表にも選ばれていた人物だ。ヴィクトリーにいた成田誠と同年代であるが、彼よりも一足もふた足もはやく現役から退いた。俺がトップチームに上がってから二年くらいか。
「稲積さんがなぜここに……」
「視察だよ。お前は?男子リーグじゃないぞここは。お前に勉強にはならないだろう。メディアに抜かれたら面倒だぞ」
そう言いながら彼は遠慮なく隣に座る。
「……。……妹分が観にこいとうるさいので……視察?」
というより、視察とは。彼は口を開いた。
「今女子監督のコーチをしているんだが、日本国内で視察してる監督に言われて飛んできたわけだ」
引退した選手の置き土産的な発言と海外組の発言だけで、信憑性が薄いからな。俺が来るしかなかった。
そう言った彼には悪いが俺は眉間に皺をよせた。
「ようやく話がいったか……」
「花森は知ってるのか?」
「ヘルタの7番は俺には劣るが上手い」

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