少女Aの供述



 私の友達は少し変わっていた。
 「いた」という過去形で書いているのは、今は普通の女の子になっているからだ。でも、確かに私の友達は変わっていた。
 私と彼女の出会いはいつだったんだろう。たしか、中学校の頃だ。私立だからか小学校からの持ち上がりの人が多い世界に、彼女は外部生としてやってきた。短く切ったショートカットの髪は女子生徒としては物珍しく、女子生徒の制服を着ていなかったら男の子と思われてしまうような雰囲気を持っていた。それに、当時の彼女の一人称は『僕』だった。男の子のような物言いや、接したことのないような雰囲気に、私もクラスメイトも、先生も、私たちの両親もとても驚いていたのを覚えている。男子生徒にからかわれていることもあったけれど、その子は逆に男子を返り討ちにして、いつしか彼女はクラスの真ん中にいるようになった。

 ――冷たい目をした子だなぁ。

 その子に対する私の第一印象はこれだ。仲良くなったきっかけは、たまたま掃除当番が一緒だったという理由で、そのたまたまがなければ恐らくは一生関わらなかったに違いないと思う。私は人よりお転婆だったから、男の子みたいな彼女と気があった、というのもあるのかもしれない。今となっては少し色あせてしまった思い出だけれども。

 そんな彼女が憑き物が落ちたようにおとなしくなり、自分のことを「私」というようになったのは中学二年生の頃である。ある日突然無断で学校を休んで、数日間欠席し――再び学校に来たときには彼女はそうなっていた。先生達はおしとやかになった彼女に喜んだけれど、同級生達は少し違った。驚きと、困惑と、焦りと――色々複雑なものをおとなしくなった彼女に対して抱えていたのである。
 かくいう私も複雑な気持ちを抱える一人だった。あんなに男の子みたいだった友達が「普通の女の子」になってしまったからである。いや、普通というか、なんというか。おとなしい女の子になってしまったのだから。走行している間に、クラスの中心は彼女から徐々にそれていき、彼女はクラスの外側にいるようになった。
 窓際で、ぼうっと、空を見上げることになった彼女に、もぬけの殻のようになった彼女に、見ていられない私が世話を焼くようになるのはそれからすぐのことなのだけれど。

「それで、その赤場くんと大鷹くんの間で揺れている、と」
「揺れてなんていないわ!」
「客観的に見たら揺れてるんだなぁ」

 そんなことを言って笑って見せた彼女に少しむっとする。彼女はそれさえもクツクツと笑って、すねないすねない、といって私の頭を撫でた。
 私とその子――若園零ちゃんとの仲は高校生になった今も続いている。それは、同じ高校に進学したというのが理由としては大きい。零ちゃんも私も家族の意向で身にに合わないこんなお嬢様高校である花園高校に通っているからである。彼女はそもそも進学する意志はなく、働く予定だったといっていた。予定が狂っちゃったよ、とs入学式で不満そうにしていたのは恐らくしばらく忘れないだろう。
 まぁ、そんな話は置いておいて。今はおしゃれな喫茶店で零ちゃんと話している。メロンソーダのグラスに刺さったストローをクルクルを回した零ちゃんは笑っていた。零ちゃんは、中学からの友達という点もあり、そして、私と帝一くんの関係を知るという点も重なって私はこうして相談することが多いのだ。彼女は全くそういうこと――自分自身の恋愛のことを言わないけれど。同い年なのだから、気になる相手だとか、そういうことを話してもいいのに。もっとも、私たちの通う学校は女子校だから、出会いも何もないのだけれど。それでも、同い年の友達とそういう話をしてみたいのであって。

「零ちゃんは恋をしないの?」

 そう尋ねてみれば、零ちゃんは「そうだなぁ」と頬杖をついた。

「今はそんな気分じゃない、かな」
「どんな気分?」
「美美子の恋の行方を見守る気分」

 笑って見せた零ちゃんに「もう!」と怒る。怒らない、怒らない、となだめた彼女は緩やかな笑みを口元に描いた。

「美美子には幸せになってほしいんだよ」
「私だって、零に幸せになってほしいわ」

 そういえば彼女は目を瞬いて、笑った。ありがとう、と。




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