そんなこと、急に言われても困る。
出たくないんです、私は――。
「――おーい、ナツ?」
「へ? タッツ!?」
不意に目の前に現れた人物に、驚けば、私を驚かせた本人は悪戯っぽい笑みを浮かべた。びっくりしたー、と息を吐く。朝のランニングの途中だ。
休憩がてらETU本拠地近くのベンチに座っていたら、タッツがいつの間にか出てきたらしい。
「めずらしいなー、ナツがぼーってしてんの。熱あんじゃねーの?」
「ないよ、失礼な。ただ、ちょっと考えごとをしてただけだよ」
ムッとしながらそう言えば、タッツは考えごと? と首をかしげた。
「采配とか?」
「うーん、もっと個人的なこと」
「なんだそれ。きになる」
「ヒミツですー」
タッツは私の言葉に、思いっきり頬をつねった。いたい。はなしよー、と頼んでも、タッツははなしてくれそうにない。
でも、私が話そうとしないのがわかったのか、タッツはムッとしたまま手を離した。
「なんだよ、ケチ。話してくれたっていいじゃん」
「うーん、じゃあ、采配悩んでるってことにしといて」
「じゃあってなんだよ、じゃあって」
「わぁ、まって、頭ゴリゴリしないで、痛い!」
そう言ってタッツの手をバシバシと叩く。近くを通りかかったゴトゥーが「朝から仲がいいな」だなんて言いながら現れた。後ろには有里さんもいる。挨拶をすれば、挨拶を返した二人は顔を見合わせた。
「前に、男の人がいるんだけど、ナツちゃんの知り合い?」
「男の人?」
「そう、スーツを着た人なんだけど」
そう告げた有里さんに、「私はいないって言ってください」と告げる。首を傾げた三人に、もう一度「いないっていってください」と頼む。
「まさか、ストーカー」
「じゃないけどみたいなものなんで、帰ってもらってください」
私の様子に何かを感じ取ったのか、タッツが立ち上がって、「俺が行ってきてやるよ」と言った。
それを、タッツの服をひっぱて止める。
「、ナツ?」
そうわたしを見下ろしたタッツに、首をふる。
「お、いたいた、嬢ちゃん」
聞こえてきた声に、私はそちらを向いた。笠野さんである。隣には、知っている男性がいた。
「笠野さんの知り合いだったんですか?」
「まぁな。嬢ちゃんがこの中に入ってったからって右往左往してたから入れた」
「だれなんです?」
「――俺みたいなもんだよ」
そう言った笠野さんは私を見た。
「嬢ちゃん、そろそろ逃げんのはやめたらどうなんだ」
「逃げてなんかいません」
「でも、悩んでるんだろ?」
「違う。悩んでなんかいないし、お断りしました」
そう言って首を振る。違うの、違う。タッツが不機嫌そうに口を開く。
「で、結局誰なんだよ? ソイツ」
「――申し遅れました。私、浦和レッドレディーズ・スカウティングスタッフの加藤ともうします」
「浦和レッドレディース!? ってことは、女子プロサッカーじゃない!」
声を上げた有里さんに、顔を俯かせる。すごいすごいともてはやす周りに、ぎゅっと拳を握った。
「昨日いったはずです。私は、行きません」
「ええ、聞きました。しかし、貴方は惜しい人材です。世界も狙える。実際、オリンピックの合宿の招集もいったはずです」
そう告げた男の人に、ベンチから立ち上がる。逃げるように走りだせば、後ろから声がかかった。
無視をしてしまったけども。
赤崎妹と、悩み事
プレイヤーには行きたくない。世界を狙えるなんてお世辞もいらない。
プロになんてなりたくない。あの時の二の舞いにはなりたくない。
モヤモヤとする心に苛ついて、ぎゅっと拳を握る。
(モヤモヤするのは、どうして?)
90
SQUELCH!!