世界の中心がボスになるまで(11) 

 真っ赤な世界だ。
 炎の赤、血の赤。様々な赤が混じり合った世界である。地獄のようなそれは戦場のように見える。いや、むしろ、戦場なのだろう。ナマエはそんな中、去って行くヘリを見上げた。まだ聞こえ続ける声に苦笑いしながら。


 ――時間は、数刻前に遡る。
 いつものように平和だったそこに、異変が現れた。踏み込んできたそれらは、家であるそこを荒らし炎をつけた。あっという間に戦場になったそこはまるで昔の家を思い出す。
 ヘリで帰還したボスの指揮の元、始まった撤退戦だが、次々と仲間が死んで行く。
脱出用にヘリには次々に仲間が乗り込んでいった。ボスがナマエの手を引きヘリに乗せた。こちらが劣勢だというのに、柔らかい笑みを浮かべて。

「ナマエ、生き残れ」

 その言葉に、ナマエは、あぁ、この人は死ぬつもりなのだな、と思った。それはいけない。
 彼が死んでしまえば、彼らはどうすればいい。いや、私はどうすればいい? 友人であったパスもいない。頼るべき身寄りもない。
 思えば、彼に連れ出されてからは何も考えず――いや、パスを救うことは少しは考えていたが――生きてきた。それが自分の状態の原因に違いない。手を離そうとするボスに、ナマエは逆にぎゅっと手を握り返した。

「私が降ります。貴方が乗ってください」

 ボスは目を見開く。ナマエはボスの隣に降りた。


「はやく、乗ってください」
「だめだ」
「貴方がいないとこの組織は壊滅するんですよ?」
「だめだ」
「私みたいな兵が一人、いなくなったとしてもいずれは誰かがそこを埋めるでしょう。でも、BIGBOSSという穴を埋めるのは貴方しかいない」

 そう、そんな大きな穴はカズさんには埋められない。誰にも埋められない。この組織の中心は、ボスなのだから。
 ナマエはボスの手を離した。この男が消えてしまったら、間違いなく自分は命を平気で絶つ気がする。それは長年の付き合いで築かれてしまった依存というか、なんというか、そういう感情のせいだ。

「私は、生きますよ。最後まで、生に足掻いて見るつもりですよ。でも、貴方が消えた世界では、きっとそう思わない」

 ナマエは柔らかく笑った。

「長い間に絆されたみたいです。自分を中心に回っていた世界のはずなのに、いつの間にか私の世界の中心は貴方になっていた」
 責任、とってくださいね。

 ナマエがカズに目配せする。カズは頷いて負傷しているボスを引っ張った。

「生きますよ。安心してください。死にたがりじゃ、ないんです。パスとも約束したんだし」

 ヘリのプロペラが回り始める。音が、消されていく。

「ナマエ!!」
「―――、―――――」

 最後の一瞬だった。ヘリが浮き上がった瞬間、確かに聞こえたそれにボスが答えるように口を開く。

 ナマエはそれにまた笑う。照れ臭そうに笑った。ヘリは段々と遠のいて、後ろからは敵が来ている。左足を撃たれた。ナマエはそれを引きずるように歩きだす。その間にもいたぶるように、敵はナマエの急所は避けてうっていく。
 ――殺されない。死なない。
 ナマエはそう呟きながらマザーベースの端まできた。応戦してもいいが、見つかってしまっている状態で、負傷した状態で勝ち目はない。ここは、パスが、落ちた場所だ。ここから落ちて、パスは助かった。ならば。

 ナマエは空に足を踏み出す。重力にしたがってナマエは落ちた。風をきる音が聞こえる。
人は余りにも高い所から落ちる時、意識を失うという。遠くなる意識の中、先程の言葉を呟く。

「好きですよ、スネーク」

 ――俺も、だ。

 幻聴のように聞こえたそれに、ナマエは満足そうに微笑む。世界が、暗転した。