みたいけど、みせたくない
目の前にあるのは間違いなく水着である。黒くフリルのついたそれは、ビキニ型だ。それを見つめてナマエはため息をついた。
――たまには、海岸でバーベキューをしないか。
カズが言い出したそれは、娯楽の少ないマザーベースで瞬く間に賛同された。多くの人が参加することになったそれ。何故か参加者は水着を着なければならないという条件が加わり、本日、マザーベース内で水着の男達が基地内を歩いているのが見えるのはそのためだ。はっきり言ってしまえば、ナマエは今回も留守番組に入るつもりだった。ナマエはだいたいこう言った騒ぎには参加せず、もくもくと自分の仕事をこなす方が好きだからだ。しかし、普段そう言った騒ぎに参加しないナマエに、医療班の部下達が「たまに入ってください」と気を使ったのだ。ナマエ本人が気を使わなくてもいい、といっても部下達は引き下がらず、ナマエがそのまま参加することになったのだ。ちなみに、ナマエは参加日となった今でも、医療班の誰かが変わってくれ、と言えば変わる気満々なのだが。
「ナマエ、入るわよー!」
そう言って顔を覗かせたのはセシールとアマンダである。二人とも水着を着ている。やはり、スタイルがいいのだから似合うな、だなんてナマエは見当違いなことを考えた。セシールはナマエの服をみて不満げに顔をしかめる。
「まだ着替えてなかったの?」
やはり、ナマエが着替えていないことが不服らしい。ナマエは水着を選んだのがセシールであると知っているため、着たくないんです、とは言えない。いったところで、無理矢理きさせられるのは確実だろうしセシールが怒ると少々やっかいなのである。あのワイン騒動みたいに。ので、ナマエは、日焼けが、と言い訳をする。しかし、セシールはあっけらかんと答えた。
「日焼け止めクリームを塗ればいいじゃない」
「塗ってますけど」
「もしかして、私が選んだ水着が着られないの?」
そういうわけじゃ、と苦笑いして否定する。しばらくはやいのやいのと話が続いたが、結局、アマンダの「上に何か羽織ればいいんじゃない?」という言葉に落ち着いた。セシールがそれに納得し、ナマエもそれで妥協した。ナマエが妥協したのは、話が進まないからだろう。そうこうしているうちに、二人が先に行くという話になった。ナマエに「もしかしてこのまま行かなくていいんじゃ?」という考えが浮かぶが、セシールの言葉によりそれはすぐに打ち消された。
「ナマエ、スネークに迎えに来てもらうからね」
その言葉にナマエはピシリと固まったのだった。
このままじゃ、絶対にナマエは来ないから、スネークは来る時にナマエを迎えに行くこと!
数十分前にセシールに言われた事をボスは思い出していた。残った仕事を片付けていたために、時間が経ってしまったが、まだナマエはいるだろうか。先に外に出ているか、と考えたがいつもの彼女を考えると多分先に行くならばこちらに声をかけるだろう。
そう思いながら彼はナマエの部屋の扉の前にたつ。部屋の中から物音がするあたり、ナマエはやはり中にいるらしい。
ドアをノックすれば、止まる物音。「ナマエ、入るぞ」と告げれば「待ってください!」とナマエらしからぬ焦った声が聞こえた。ボスが首を傾げていれば、ドアが小さく開きナマエが顔を覗かせる。
「ボス、やっぱり不参加、というのは……」
「なし、だな」
「後から行くんで、先に行ってください、といのも」
「なしだ。セシールに頼まれた」
珍しく、ああだ、とか、こうだ、とか駄々をこねるナマエに彼の中に悪戯心がわく。ナマエがドアから顔を出さないのを見れば、おそらく、水着姿が嫌なのだろう。こちらから扉を引っ張ればきっとナマエはバランスを崩す。ボスはニヤリと笑って不意に扉を引っ張れば、やはり、ナマエはバランスを崩しボスにもたれかかる。
……白衣?
予想とは違ったそれに、ボスは瞬きした。てっきり水着をきているかと思ったが。
ナマエが着ているのは間違いなく白衣だ。いつもの白衣である。
しかし、しばらくあっけに取られていたナマエが慌てて起き上がったことで「いつもと違う」ことが分かった。そして、ボスは息を飲む。
白衣の下に、水着が見えたからだ。というよりは、水着の上に白衣を羽織っているのだが。
ボスはナマエから目をそらす。
――これは、目に毒だ。すくなくとも、好意をよせる女性のそういう姿は見るものではない、とボスは感じた。
水着に白衣、というそれに、如何わしい雑誌のそれが浮かんだのは男の性だろう。ナマエが珍しく恥ずかしそうに顔を赤らめるのを見てむくれる欲望に、ボスは深く息を吸って無理矢理自分を落ち着かせた。
「ナマエ、それは……」
「やっぱり、似合ってませんよね」
「いや、水着は似合っている。でも、なんで白衣をきてるんだ?」
「……水着を、隠したかったんですが……」
他の服は? と聞きかけてボスはやめる。ナマエの服のレパートリーは中々少ない。というより、私服と言われるそれが殆どないと言っても過言ではない。水着を隠せて、尚且つ水に入っても良いような服がなかったのだろう。ナマエが着ている白衣をよく見れば、少しボロボロになっている。捨てるつもりだった白衣を着ているらしい。
「ナマエ、とりあえず、白衣はやめた方がいい」
「……でも、」
「俺のパーカーで良ければ貸すが」
そう言ってボスがパーカーを渡せば、ナマエはもう一度部屋に引っ込む。ボスはそれに小さく息を吐いた。
ドアを開けて現れた、自分のパーカーを着るナマエにボスが悶絶するのはこのあとすぐのことである。
みたいけど、みせたくない
「ボス、どうしたんです?」
ボスから借りたパーカーを着て、ナマエが部屋を出ると、ボスが固まっていた。ボスを見てナマエが首を傾げる。
首を左右に数回振ったボスはちらりとナマエを見ると、ナマエの腕を引いた。
「やっぱり参加はやめにするか?」