君を地軸に逆回転(-5)




 気がつけば立っていたそこは、懐かしい場所であった。あの日、なくなったはずのマザーベースである。気がつくといたその場所だが、だれもいない。人がいる気配すらもない。それを認識すると同時に駆け出したナマエにボスは慌てて追いかける。
ナマエが止まった先は、あの事件の時、パスが落ちた場所だ。

「ナマエ?」

 ボスが問うようにナマエに声をかける。ナマエは泣きそうに、嬉しそうに笑った。紡がれた言葉は、ボス、という単語ではない。

「おかえりなさい、ナマエ、スネーク」

 聞こえてきた声に振り向けば、あの日の頃のような光景があった。




 後ろにいたのは、紛れもなくパスだった。パス、というのは本名ではないかもしれないが。彼女の後ろにはありし日の仲間がいる。あの事件で死んだのだろう仲間だ。
 ここは天国なのか、と考えてみるが、「アウターヘヴン」と自分が名付けた場所から天国ではないのだろう。死後の世界なのか、とボスは眉を顰めた。仙人達は、いるべき場所へ帰ると告げていたが、これではまるで自分達が死んでいるようである。人を割って現れたカズにいよいよ顔をしかめる。ナマエはパスに手を引かれて行った。

「これは、どういうことだ?」
「どうしたんだ? ボス」
「ここは、もう、」

 ボスの言葉にカズは何か察したようだったが、何も言わなかった。ただ、ボスも準備をしないとな、などと言うだけだ。全員が慌ただしく動く中、何処からか現れたヒューイに話を聞いても、明確な言葉はくれない。ただ一つ、答えのような言葉を教えてくれたのはストレンジラブだ。

「それだけ、彼女はここに思い入れがあったんだろう。彼女の幸せは、ここなんだ」
「だが、ナマエは俺が世界の中心だと、」
「君がいくら中心でも、それを構成するものが変われば幸福度が変わると君は思わないのか?」

 その言葉に、ボスは口を紡ぐ。

「彼女は度々こちらに来た。その度に、パスやカズが追い出したが。ボスをここで待たせてください、と泣いたらしい。君がここに来るとは限らないのにな」

 何か言い返そうとして、ボスは目を伏せた。自分は確かに、この世界を捨てたような人間だ。この世界に、この場所に戻るだなんて考えは浮かばない。

「ナマエはいつもどうやって追い払われていたんだ?」
「パスが落ちた場所があるだろう。あそこから落ちるんだ」
「そうか」

 ボスの返答を聞いて、ストレンジラブは去る。ボスはナマエがいるであろう部屋を目指して歩きだした。

 ナマエの部屋をボスは数回ノックする。中からはナマエの慌てたような声と女性陣の笑い声がする。アマンダの「どうぞ」と言う声に、扉を開けた。そして、ボスは息を飲んだ。「どう、私がみたてたのよ?」だなんて言うセシールは自信満々だ。ナマエは顔を真っ赤にさせている。
 ――ナマエがきているのは、真っ白なドレスだ。所謂、ウェディングドレスといわれるだろうそれである。私達はお邪魔ね、だなんて言って部屋を出たセシールとアマンダ。それに少し遅れて、パスは何かナマエには耳打ちを、ボスにはウィンクをして部屋を出た。ナマエが何か言おうとしたが、空振りに終わる。

「ナマエは、俺といて幸せか?」

 ボスの言葉に、ナマエはきょとん、とした表情を浮かべ、そして微笑んだ。

「ええ、とても」
「この世界も、幸せなのか?」
「……はい」

 数秒遅れて告げた言葉に、ボスは意を決したようにナマエを姫抱きにする。なにごとかと暴れたナマエに視線を落とす。

「ボス!?」
「俺たちは、まだ生きている。まだ、ここに来るべきじゃない」

 扉を開けて、ナマエを抱えたまま廊下を駆け抜けていく。なにごとか、と周りにいた兵達が唖然と見ているがそんなものは関係がないと言うように、曲がり角を曲がった。

「幸せは、過去に求めるものじゃない。俺たちは生きてる。過去の幸せでなく、未来の幸せを探すべきだ」

 施設の外へ出れば、人はまた増えていた。それを気にせず、走り抜ける。ボスの足が止まった。驚いて固まったままのナマエに、ボスは真剣な声色でつげた。

「これからは、ずっと俺が一緒にいる。絶対に離さない。だから、まだ、俺と一緒に生きてくれ」

 ボスの言葉に小さくナマエは頷く。それに満足したボスは笑って足を踏み出した。浮遊間に包まれる中、意識は真っ黒に染まっていく。小さく愛してる、とボスが呟けば、ナマエが私もです、と呟いた気がした。


*君を地軸に逆回転

 目を覚ませば、何処かわからない場所だった。どうやら部屋である。あの世界のホテルらしい。ボスは上半身を起こすと隣を見た。ナマエが寝息を立てている。
ゆっくりと目を開けたナマエに、ボスは笑った。

「おはよう、ナマエ」