朝食を沢山食べた後、ハルと俺はソファに座っていた。彼女は俺に、もたれかかるように座って何かを考えていて、俺はそれが気に食わなくて、ハルにちょっかいを出す。彼女はすこし眉を顰めたが、呆れたように笑うだけだった。俺は彼女の膝に頭を乗せた。ハルは俺の髪をすく。
「ジャックは――ジョンはどうしてここに?」
「さぁ、」
「さぁ、って……」
 はぐらかす俺に、ハルはため息をつくと、テレビをつけた。画面からは聞きなれない言葉が流れてくる。あぁ、これは確か、カズが使っていた言葉だ。
「日本語?」
「あぁ、ジャック。ここは日本だから」
「日本?」
「そうだよ、」
「オットンガエルのスキヤキ……」
「オットン……?」
 ハルが首を傾げる。俺は笑って、なんでもないと答えた。彼女は追求することはなかったが。
「……ジャック、ここは日本で、君のいた世界ではないんだよ」
 ハルが俺の眼帯を触る。その顔は悲しげだった。
「私の世界だ。私がいた世界。君のいるべき世界じゃない」
彼女は俺にまだ死ぬなと言いたいのだろうか。酷いな、酷すぎる。彼女は俺が何度、擬似的に死んだのかを知らないのかもしれない。
「この世界は平和だよ。いや、日本が平和なだけなんだろうけど。君の世界は、私の夢だった。ただの、夢だ。だから、これもきっと、夢だ。また会えたのは夢だ。君のか、私の」*
 ――夢。それは確かにそう言える。人が夢を死んだ後に見るとは聞かないが、案外、天国や地獄なんて幻想が生まれるのだからあり得るのかもしれない。
彼女は言葉を続けた。
「君の世界で私が死んだ時、この世界で私は目を覚ました。病室だった。私は事故にあって、数ヶ月間、意識を失っていたらしい」*
 ハルは俺から目を逸らし、テレビを見つめる。いや、視線はそちらに向いているだけで、テレビではなく、違うものを捉えていた。遠い目、それが正しい表現なのだろう。
「それまで君はフィクションの存在だった。ゲームの中の存在。スクリーンの中の存在だった。だから、夢だと思った。全部だ」
「全部、」
「あぁ、あの人に拾われたのも、あの時代に生まれたのも、君と過ごしたのも、あの作戦も、全部、全部夢だと。でも、」*
 ハルは目を伏せた。
「目が覚めた時、私は全部全部覚えていた。夢の中で――君の世界でどう生きたか、とかいう大雑把なものじゃない。CQCも、銃の扱いも、あの人の癖も、ザ・ボスの笑みも、ジャックとの些細な会話も全部全部覚えていた。逆に、私はこの世界のことがわからなくなっていたんだ」
 ハルが視線をおれに戻す。ハルの涙が俺に落ちた。
「ジャックは、どちらが現実だと思う?」
「……難しいことは、よくわからない」
その答えに彼女は何も言わない。ただ、俺は彼女の*を撫でる。
「だが、この世界が現実であろうと夢であろうと、俺はハルに会えた。だから、嬉しい」
 俺は安心させるように笑う。体を起き上がらせて、ハルの目線にあわせる。俺はゆっくりとハルに顔を近づけた。ハルが目を閉じる。触れるだけのキスをハルに落とす。
「寝て、目覚めて、そばに君がいればこれはきっと現実だ」
「じゃっ、」
 ハルの言葉を飲み込むように深いキスを落とす。
「最高の、一日にしよう」
 目が覚めて、彼女がいなければこのいっときは甘い夢。いや、目覚めることがなければ、恐らくこれは死ぬ前のほんのわずかな夢なのだろう。自分の願望が反映された。
 ――もし万が一、目が覚めて、彼女がいれば現実。天国でも地獄でもなんでもいい。ずっと一緒にいられるだけで、俺は。


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mokuji