それはそれは、酷く昔のことに覚える。気がついたら、何もない世界で私は一人で佇んでいた。いや、何もないとは語弊かもしれない。そこは倒壊した建物や瓦礫ばかりがある場所で、所々から黒煙が上がっていた。
 ――ここは何処なのだろう。
 キョロキョロとあたりを見渡していた私は、不意に誰かに抱き上げられた。私は驚いてジタバタと暴れる。それに驚いたように誰かは私を一度降ろす。そうしてまた私を抱きあげた人物は私をちゃんと抱え直すと、灰色の瞳で私を捉えた。彼は英語で私に何か話しかける。しかし、私はそれを理解できず、ただ呆然と彼を眺めたいた。彼は笑みを浮かべると、私を抱きあげたまま歩き出す。それは、1944年の夏の事だった。

 結論から言うと、私はどうやら「トリップ」したらしい。次元移動、神隠し。多数の呼び名があり、小説や映画、アニメやゲームでは使い古された手段である。それがまさか現実で起こるとは思ってもいなかった。しかも、私の場合は子供の姿に退行するというおまけつきだ。
 私は確かに二十一世紀を生きる人間だった。どこにでもいるような女子高生で、みんなと平和に暮らしていた。それが、気がつけば1944年という第二次世界大戦――太平洋戦争真っ只中である。どうしてここに来たのかはわかりはしない。死んだ記憶もない。しかも、退行というオマケのせいで体は小さく子供になっていたのだ。まぁ、それが今生きているという奇跡に繋がっているのだが。
 私は灰色の瞳を持つアメリカ軍兵士に拾われる事になった。彼は私を戦争孤児として一度その国の孤児院に預け、戦争が終わり、戦場から生還すると私を養子に迎えてくれたのだ。日本人である、黒髪黒目であるという事で差別や非難にも似た状況に陥るというのに、かなり優しい人だと思う。現に彼は優しい人だった。時々洗浄がフラッシュバックして精神が不安定になること以外は、とついてしまうかもしれないが。彼は周りの目を気にするなといってくれた。私にとっては優しい父親だったわけである。
 それに、彼は英語をはじめとした他国語を私に教えてくれた。言葉だけじゃない。生活の仕方、銃の握りかた、他にもたくさん。
 ――幸せだったと思う。いや、元の時代に比べたらやっぱり劣っていたけれども、確かに幸せで平和な時間だった。
 しかし、私が十五になる時、彼は自ら首を吊った。私が学校に行っている時だった。詳しい理由は何も知らない。私は、急に、独りになったわけだ。
 そこからは、とても時間がたつのがはやかった。まず、衣食住を確保するには、お金がいる。学校なんていっている場合ではないので、学校は辞めざるを得なかった。彼の葬儀は簡潔にすませた。彼の両親には蔑まれた目で見られたけど縁を切ったと言い張る彼らが生活を保障してくれることも、葬儀にかかる費用を出してくれることもない。
 保護者がいなくなった私は、自分が職につかなければならない。未成年がつける職などかなり限られていた。危ない仕事にてをだそうとしていた私を知った彼の友人が私に軍に入れるよう掛け合ってくれ、私はかつてはアメリカの軍に入隊した。
 ――辛いことも沢山あったが、一通り全てをこなせるようになった。
 そうするとどうなるか。前の世界の生活なんて、忘れてしまうのである。かつての普通が普通ではなくなったのだ。私は、あの世界――元の世界に戻れるのだろうか。その疑問が、いつも私につきまう。しかし、いつもその問題から目を背けて、私は見てみないふりをした。私は此処で生きていくのだと。
 そんな、ある日のことである。ある部隊で、私は彼と出会った。後にビッグボスという称号を得る、最初の蛇――ジャックと。ジャックとは同い年であったからか、よく話をするようになった。そして、彼のとなりに経つことになった瞬間である。世界が動き出したのだと感じたのは。私はこの世界が何なのかわかると同時に、 止めなければならないと思った。
 何を? スネークイーター作戦と呼ばれる、あの作戦を。そうすればきっと彼は幸せに生きていくのだ。たくさんの人に囲まれて。利用されることもなく――多くの人の運命が狂わされることもなく。
 そんな事を私が考えているとは知らず、彼は何時もあどけない笑顔で私に話しかける。ハル、と私の名前を呼んで。

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mokuji