13
火祀くんと過去の事件 1
どうしてこうなったんだろう。にこやかな笑顔を浮かべた近宮さんは平然と、しかも爽やかに「転校する予定なんです」と職員に嘘をつき、火祀くんも火祀くんで何も言わない。職員の言葉をのらりくらりと交わして本当にそうだと信じ込ませた近宮さんはなんというか……魔法使いというよりは詐欺師のように感じてしまったのは仕方がないと思う。名前を書けと言われそこにも本名ではない名前を書いて見せた彼女に火祀くんがそれに習って何時もと違う名前をかく。俺はどうするべきかと迷っていれば、火祀くんが「こいつは従兄弟なんで」という言葉で事なきを得た。転校ねぇ、とつぶやいて見せた男性職員に近宮さんは言葉を続ける。
「といっても、親の都合で来学年からこちらに引っ越して来る予定なので学校を探しています」
「今はどちらの学校に?」
「イギリスの学校に」
本当にさらりと嘘をつく。悪気もなく。バレないものだなぁと思っていれば、職員が英語で彼女に尋ねてみせた。これはさすがに、と思っていれば近宮さんはすらりと綺麗な発音の英語で返す。何時もと少し発音が違う気がする。
「お前が何時もやってるのはアメリカ英語、アイツがペラペラ喋るのはイギリス英語。発音が違う」
こそりと教えてくれた火祀くんに俺はなるほどなぁとうなずく。今度英会話の練習に付き合ってくれないだろうか。そうぼんやりしていると、教師の人たちが近宮さんに「転入を期待してます」みたいなことを言っているのが聞こえた。なるほど関門を突破したらしい。文化祭の入場許可をもらい、そうして俺たちは学校の中に足を踏み入れた。
秀英高校と言えば、この地域で一二を争う秀才達の集まる学校だ。残念ながら長谷が通う学校ではないが、結構有名な高校である。そんな高校の文化祭になぜ近宮さんが(嘘までついて)火祀くんを連れていきたいのかは不明だし、俺が巻き込まれた意味もわからない。秋音ちゃんは実習があるからと火祀クンの申し出を断っており不参加である。解せぬ。火祀くんは大きくため息をついて、るんるんと人の間を縫って先に進んだ。まるでここに来たことがあるかのようだ。もう少し出店とか色々を確認して回りたいところなんだけどなぁ。
「ちか――高遠」
火祀くんはそう言って彼女を呼び止める。高遠は彼女が名簿に名前を記入するときに書いた苗字である。彼女は振り返って、笑みを浮かべた。
「どうかしましたか、霧島くん」
近宮さんの言葉に火祀くんが固まる。何か言葉を探すように口を開いたり閉じたりして、ゆっくりと目を伏せた。そうして大きくため息をついてみせると呆れたような表情をした。その表情が珍しくて俺は見間違いではないかと瞬きしてみたが見間違いではないらしい。
「お前なぁ……」
「なんですか、私はさすがにテレパシストじゃないので言葉にしてもらわないとわかりません」
もう一度ため息をついて彼に彼女は部活の一覧の前で足を止めた。火祀くんもその隣に並ぶ。俺も慌てて二人の横に並んだ。進学校だからそんなに部活の数はないかと思ったが、そういうわけでもないらしい。サッカー部や野球部、吹奏楽なんかに付け加えて山岳活動部や囲碁将棋部なんてものもある。なかなか面白そうだなぁ、と思っていれば近宮さんが一つの部活を指を差した。マジック部と書かれている。へぇ、そんな部活もあるんだと思っていれば近宮さんが口を開いた。
「廃部にはなってないようですね。まぁ、だからこそあの大会に参加できたのでしょうが」
「……普通廃部になっても可笑しくないだろ」
「まぁ、私たちが思ってるような事が起きてないのかもしれませんし」
「えっと、ひまつ――」
「夕士、霧島だ。呼びにくいなら純でいい」
「そうですね、私も高遠とお呼びください」
「ええっと、霧島さんと高遠さんは何のためにここに?」
俺の問いかけに彼女は口元に笑みを浮かべ、彼は眉間に皺を寄せた。正反対の表情だというのに告げた言葉は同じである。
「真実を解き明かしに」
それはまるで小説の一ページのようだった。例えるならそう、探偵と怪盗が手を組んだ場面、みたいな――。
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