飯塚姉と小さな魔法(1)


 夏の宝物。キラキラしている、宝物。それは今となっては有りふれていて、どこにでもあるようなものだ。でも、幼い私には違った。ガラスの水滴が夏の日差しを受けてキラキラとかがやき、透き通ったその飲み物は幼い私にとっては珍しく、そして上に載せられた真っ白なアイスクリームと赤いさくらんぼに心躍らせたものである。遙一くんの家に遊びに行った時に目の前に並べられるクリームソーダは、家族がいない、外食もしない私にとっては夏のちょっとした宝物だったのである。
 オーソドックスは緑色、でも、ある時は水色、ある時は赤、黄色、と、その時々で色は変わったけれど、一番思い入れが深いのは色が変わるものだ。レモンの搾り汁を一滴、たったそれだけ。目の前で色が変わるそれは、まるで魔法そのものだったのである。
 まぁ、それを披露したのは遙一くん、こと、高遠さんではなく、お手伝いさんであったナターシャさんだったのだが。驚いて目の前の飲み物を見つめる私を彼女は微笑ましそうな顔をして、見下ろしていたのを覚えている。遙一くんには秘密ですよ、と口元に人差し指をたてたナターシャさんに、私は頷いた。これは小さな二人だけの秘密の魔法だったのである。

 懐かしい記憶を呼び起こしたのは、店員さんにバタフライピーやブルーマロウのハーブティーを進められたからである。
 青いハーブティーがレモンを搾るだけで赤に近い色に変色する。いくら魔法にみえても、タネがわかってしまえばそんなものかと納得するものだ。――酸性やアルカリ性にハーブティーに含まれるアントシアニンが反応して変色するのだ。言ってしまえばリトマス試験紙が色を変えるのと同じ理由である。理科の授業で仕組みを習ってしまえば、それは海外からきた魔女ナターシャさんの特別な魔法から、大学生であったお手伝いさんのただの科学にかわる。それはマジックのタネも同じたろう。魔法のようにみえるが、きちんと科学に基づくタネがある。それを観衆の前でどれだけ隠せるかという話だ。
 このハーブティーは夏に良いんですよ、と、にっこり笑った店員さんに意識を戻す。そのままついうっかり買ってしまったのは仕方がないことだった。

 さて、この些細な魔法を誰に見せようか。ヤマトはきっと最初はいい反応をするが、すぐにタネがわかるだろう。かと言って、普段マジックを披露している子供たちに飲み物を渡すのはよろしくない。私が保護者の立場なら飴などならともかく飲み物は断る。では、ヤマトの友達である少年探偵団にはどうだろう。
 しかし、そもそもハーブティーをヤマトは好まないし、子供には飲みにくいかもしれない。ならば飲みやすく炭酸で割って甘くすればいいか、と段取りをつけながら帰宅していれば、安室さんがこの暑い中掃除をしているのがみえる。おや、ヤマトくんのお姉さんと告げた彼は相変わらず隙があまりない。私たちと同じような青い目を私に向けて、首をかしげる。

「買い物の帰りですか?」
「はい、いい買い物ができました」
「それはよかった。ちょうど今ヤマトくん達が来ているんですよ、少し涼んで行ったらどうですか?」

 そう尋ねられて考える。中を窺えば、ヤマト達がいつもの窓際の席で宿題をしているのが見えた。

「お邪魔では?」
「いえ、この時間はみなさん暑すぎて外出されないのか、空いてるんですよ」

 苦笑いをした安室さんに考える。少年探偵団の前で見せたてみたいのは山々だが、味の調節も何もない今だ。今から家に帰って味の調整をすべきか、と考えていれば彼は不思議そうに首を傾げた。

「誰か家に?」
「いいえ、バタフライピーやブルーマロウのハーブティーを手に入れたので少年探偵団の前で披露すれば面白いかと思ってるんですが」

 コナンくんや灰原さんはあまり驚かないかもしれませんけど。
 そう困ったように笑えば、それだけの説明で彼はなるほどと理解したらしい。

「確かにハーブティーは大人向きの味ですね。今ちょうど蘭さんたちもいますからそちらに披露しては? 少年探偵団はヤマトくんお手製クリームソーダを先程飲んだところですので」
「えっ?」
「お姉さんが作ってくれるから覚えたようですね。とっても上手でしたよ」

 安室さんの言葉に眉尻をさげる。たしか、昨日、夏休みの自由研究でレシピ本を作りたいからと言っていたから教えたけれどまさかお店で作っているとは思わなかった。

「ご迷惑を……」
「いえ? 僕が頼んだようなものですから」

 そう言いながら私を自然に誘導してお店の扉を開けた安室さんに、中から「あれ? アキちゃんじゃーん!」と園子ちゃんと蘭ちゃんが手を振った。