飯塚姉と小さな魔法(終)


◇◇

 さて、結果としては蘭ちゃんや園子ちゃん、梓さんやコナンくんを除く少年探偵団から良い反応を得られた。灰原さんは先に帰ってしまったらしい。やはり、コナンくんは聡いようで、すぐにリトマス試験紙と同じということを解説してくれていた。

 タネがばれてしまったならば幕を下せ、ではあるが、もう少し考えれば面白いマジックができるかもしれない。家に帰ってからそんなことを考えていれば、高遠さんがやってきた。仕事が終わったんだろうか。少しだけ疲れたような高遠さんにハーブティーを差し出す。ソファに腰掛けた彼に、ハーブティーをカップに注いでレモンを添えれば、彼はすぐに理解したらしい。香りを少しかいで、これはバタフライピーですかね、と告げた。

「はい、ナターシャさんの魔法の元です」
「……ナターシャの?」

 そう珍しく不思議そうに首を傾げた彼に、私は頷いた。

「昔、ナターシャさんが夏にだけ見せてくれた魔法です。遙一くんを待つ間、彼女がクリームソーダを作ってくれたんですが、時々、レモンを搾ると色が変わるものがありました」

 私は同じハーブティーが入ったカップを持って隣に座ると、記憶を辿る。高遠さんが私に尋ねる。

「それを魔法だと?」
「はい、当時の私にとっては不思議だったんですよ。魔法にしか見えませんでした。まぁ、今となってはタネがわかってしまったので……」

 記憶を辿っていれば、遙一くんやご主人には秘密ですヨ、とナターシャさんの懐かしい笑顔が浮かんだ。

「あ、遙一くんには秘密にして欲しいと言われていました」
「……まぁ、時効でしょう。タネを見破ってしまったのであれば特に」

 高遠さんはそう言って目を伏せた。しかし、だ。私は今だからこそ疑問が浮かぶのだ。何故彼女はそう言ったのか。夢を壊すと思ったのだろうか。

「しかし、あの頃の高遠さんは、私が気づくまで黙ってくれていましたよね? 何故黙るように告げられたんでしょうか」

 ちょっとした疑問である。あの頃、遙一くんは私が頼むまでタネを黙っていてくれたはずだ。あくまでマジックも私が教えてほしいと頼んだから教えてくれただけである。きっと、それを話してみても彼は不思議だねと頷くか、似たようなものをもう一度見せてくれると思うのだ。
 首を傾げた私に高遠さんは「どうしてでしょうね」と笑んでみせた。何かを隠した笑顔である。じっと彼を見ていれば、彼は根負けするだろうか。私はとりあえずじっと見つめてみる。

「アキ、そんなに見つめても何も出ませんよ」

 そう言って涼しげな顔をした高遠さんに、私はわざと世間でよくいる女子高生のように、昔のように、つまらないという顔をした。彼はそれをみて、あの頃のように私を見下ろす。

「知りたい?」
「知りたいですね」
「きっと『僕』が怒ると思ったからだろうね」

 遙一くんが怒るとは。遙一くんよりは私に飲食物を与えるなんて! と、遙一くんの父親であった男性の方が怒ると思うが。
 高遠さんはそれ以上言うつもりはないらしい。私がいくら待っても言葉が出てくることはなく、高遠さんは青いハーブティーにレモンを少し搾る。魔法にかかったように紫色に変わったハーブティーを高遠さんは口に運んだ。


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(君の魔法使いは僕だけでいい、というお話)