犯罪コンサルタントと刑事と会話
「やぁ、パーフェクトブルー。機嫌はどう?」
「なんでジェーンがFBIにいるのか。ちょっと、リスボンさんに小一時間尋ねたい」
「あら? ヤマトじゃない」
「おー、リスボンさん、お久しぶりです」
そうリスボンにくるりと手のひらを返すように笑ったのは青年だ。アジアンマジックからかまだ幼く見える彼は、実際問題、ここにいる誰よりも幼い。確か、20にもいかない年齢だったはずである。しかし、医学の大学を飛び級かつ首席で卒業した彼は、立派に社会人であるといえよう。ただ、FBIの一員というわけではないが。
「なんでリスボンさんやジェーンがここに?」
「CBIが解体されたの」
「は? え? 本当に?」
「そう、だから、チームごと引っ越し」
肩をすくめて見せたジェーンに、青年――飯塚ヤマトはなんとも言えない顔をした。
「そういうヤマトはなんでまたFBIに?」
「ブース捜査官と捜査中だよ」
「ああ、君、昔からFBI関わりがあったもんね。どこからはじまり?」
「こういう付き合いは法医学研究所のジェファソニアン研究所に実習行ったことからだよ。捜査官と個人的には幼い時から付き合ってるが」
そう告げたヤマトの手には捜査資料がある。ただ、その上にはドーナッツが入った袋があって、もう片方にはコーヒーが握られているから恐らくは休憩中だった。
「他のチームの手伝いかぁ。じゃあ、今回事件が起きてもヤマトの応援は頼めないね、リスボン」
「そうね、残念だわ」
「いや、ジェーンいるから大丈夫じゃん。ブースさんもブレナン博士いるし、俺は必要ない。俺は日本に帰りたい」
「僕は君の話を色々聞きたかったんだけど」
「なんだよ、どうせハンニバル博士と話したこととか、日本でのことだろ」
やれやれといった風にヤマトはため息をついた。ジェーンは紙袋からドーナッツをとる。
「……――ねぇ、待って。ヤマト、あなた、そのチームにいたの?」
「偶然な」
そう肩をすくめて見せたヤマトに、リスボンは目を少し見開いた。ハンニバル・レクターを精神鑑定医においたチームが出来たのはつい最近のことである。ジェーンはヤマトを見た。
「彼はどんな人?」
「お前を小難しくして、俺に人殺しさせようとしている感じがなくもない」
「それって、危険よ」
リスボンの言葉に、ヤマトは肩をすくめて見せた。そして、コーヒーを口に含む。
「話を変えよう、最近、イギリスに行った」
「で、事件に巻き込まれた」
「そ」
「相変わらずの死神っぷりだ」
「そこで、頭脳明晰な探偵と知り合った。なかなか面白かった」
精神の迷宮が――と話題を広げたヤマトとそれに食いついたジェーンに、リスボンはなんとも言えなくなる。
ヤマトは非常に優秀だ。アメリカ国籍ではないが、FBIは彼を喉から手が出るほど欲している。解体される前のCBIも、随一の法医学研究所であるジェファソニアン研究所も。恐らく、アメリカ以外の警察でもそうだろう。
彼の父親の場合は、作家だから、と言っていたが、彼の場合、逃げ道はない。
その際の返答は三つ。「そのうちな」「考えとく」「実力がついたらな」。それらはすべてジェーンにより、「来る気がない」「考えてもない」「なる気はない。全部断り文句」と看破されていた。
だからこそ、リスボンは彼を犯罪者にさせたくないのだ。彼ほど有能な人は警察やしかるべき法の組織にいるべきなのである。ハンニバル博士にそう言われたとなると、厄介だ。ヤマトを唆すくらい、彼はできる。
「今は?」
不意に、ジェーンがヤマトにそう切り出した。
「今は……日本で臨時講師してる」
「臨時講師?」
「FBIアカデミー的な場所」
「ワォ、とうとうFBIの話はけるきになった?」
「いや、友人に嵌められた」
「でも、その地位にいるってことは嫌じゃない」
「……そうだな」
数秒間をおいてそう答えたヤマトの表情は、いくらか和らいでいて。それを見たリスボンはホッと息を吐いた。この青年は、犯罪者にはならない、と。
「いい仕事見つけちゃったね。死神体質は変わらなさそうだけど」
そう告げたジェーンにヤマトは心底嫌そうな顔をした。