――白い花が揺れる。
ひっそりと立てられた彼女のお墓、その周りを守るように置いてある比較的新しい銃達。誰が作ったのかはわからない。名前が刻まれていないそれが彼女のものだとは必ずしも言えないが、私たちの認識では彼女の物だった。恐らく元々世界帝の兵士だった人が作ったのだろう。あの大虐殺を機にこちらに来た兵士達の一部には彼女の世話をしていた人もいたと聞いた。あの人、この花が好きだったんです、と零したのは誰だったんだろうか。
そんな真っ白の空間に、その人はいた。ただただお墓を見下ろす彼は老兵とも言えるだろうか。
――誰もが彼を英雄と呼ぶ。あの世界帝を打ち破った英雄だと。民衆に自由を与えた英雄だと。対して彼女は魔女と呼ばれる。悪逆非道を貫いた存在だと。無垢な少女であったために悪事に染まり、魔女となった存在だと。
ボス、と呼べば彼は彼は振り返った。
――彼女と彼の関係を私たちは誰も知らない。
サチか、と私を呼んだ彼はまたお墓を見下ろした。
「何してるんですか、護衛も付けずに。銃士達がいないって騒いでましたよ」
「それはすまない」
彼はそう言って目を伏せた。私は彼女のお墓を見下ろす。彼女は本当に、悪い人だったのだろうか。世間で言われるような極悪非道な人物だったんだろうか。その答えは今はもうわからない。彼女が何を見ていたのかも、何を思っていたのかも。思い出も、存在も。誰も語ることはない。ただ、彼女の言っていたとおり、『戦犯』『魔女』というレッテルだけが張られて浸透していた。
「ハルは嘘つきでな」
彼はそう言って笑う。
「俺をきらいだと言ったり、好きだと言ったり」
「天邪鬼なんですか?」
「いいや、本心を隠すのが上手いが油断したら本心が出るんだろう」
「……ボスをきらいだと言ったのは?」
「あれは嘘だ。俺を解放しようとついた嘘だ」
解放とは、と尋ねかけて彼の視線が静かにお墓に向いていたのでやめた。何か考えているらしい彼はそっと目を伏せた。泣いているようにも見える。私はそっと彼女のお墓に花を供える。彼女が愛した白い花が風に揺られた。
「――英雄にも、幸せな終わりはやってくることはない」
不意に、だ。彼は呟くように告げて踵を返す。私はそれを見送った。追いかけてはいけないと思ったからだ。恐らく彼は彼女と生きたかったのだろう。でもそれを口にしないのは、彼と彼女が対であったからに違いない。ボスの背中が森の中に消えた。
でも、やっぱり呼び止めればよかったと後悔したのはそれからすぐの話だ。なぜならそれが私が見た彼の最後の姿で、彼が帰ってくることはなかったからである。
――そうして、私たちの英雄は、祝福された世界から消え去ったのだ。
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