僕はほんの少しの希望と、本の少しの疑念を彼女に抱いていた。スネークと共にいなくなった彼女はスネークを殺す?それとも、連れて帰ってくる?その判別が出来なかったからである。オオアマナの亡霊。彼女は何処かからスネークを死後の世界へ連れていくためにいたんではないかと。だから、彼女がスネークと一緒に帰ってきたあのとき僕はとても安堵したのを覚えている。そして、彼女が帰ってきたことにも僕は安堵した。結婚おめでとう、と彼女が笑ったのを見て「次は貴方の番かもね」とメリルが応えていたのが印象的だったのだけど。
 ――結局彼女は謎の人物のままだったし、彼女とスネークがどういう関係であったかはわからない。早く結婚しないのか、なんてことを僕らがつっこめばお互い「パートナー」としか返さなかったからだ。スネークに尋ねても、困ったようにそう告げるだけなのである。二人がいなくなった今、サニーに聞かれた僕は何時も「パートナーだよ」と返すことしかできない。
 彼女は何者だったのだろうか。自分の出生を何も言わないまま息を引き取った彼女。彼女の主治医をしていた闇医者――正体はなんてことのない『国境なき医師団』に所属する一人の男だ――曰く、彼女の体はとても生きていけるような物ではなかったらしい。それが病気の進行による物か否かまでは聞いていないが、彼の言葉が頭についている。「あいつは元から一度死んだような体の機能なんだよ」と言う言葉が。だから、もしかしたら彼女は本当にオオアマナの亡霊だったのかもしれない。
 僕は静かに彼女の墓の前に花束をおく。今日は彼女の命日だった。毎年二度ここを訪れることになるとは僕は思わなかった。いっぺんに済まそうとすればサニーが酷く怒るのだ。彼女の墓は彼女の母親の墓と同じだった。彼女が死に際に同じ名前の人物の墓の中にいれてほしい、と頼んだのだ。掘り返した業者には悪いことをしたと当時思ったが、その墓の中には誰もいなかったらしい。それもそうで彼女の母親はソ連で息絶えたのだから時代を考えれば遺体をいれるなんて事は出来なかったのだろう。
 オオアマナの花びらが舞う。それをサニーと二人で見上げた。青い夏の空が広がっている。
 ――彼女が息を引き取ったのは、長い夏が終わる、8月30日のことだった。

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