されど奇術師は探偵と生きるか(終)



「ああ、そうするだろうなとはなんとなく思っていたので」
 私はそう言って金田一君を見た。金田一君は何とも言えない顔をして私を見る。高遠遙一が脱獄したらしい。まあ、冥王星が入っていた檻ではない檻に入れられていたのだから彼には朝飯前だろう。七瀬さんが「どういうことですか?」と首を傾げる。私は何とも言えない顔をする。
「捕まるとは言ってましたけど、おとなしくするとは言ってませんからね。私と一緒で屁理屈ですよ」
「屁理屈」
「私も退院すると口酸っぱく言われていたので、外出許可をとってあそこに行きましたからね」
 不動高校である。金田一君たちにはお世話になったので、菓子折りを持ってきたのだ。ちゃんと学校側には連絡したし、手続きも踏んでいる。彼らの属するミステリー研究会は興味深い。部室にはいろいろなものがおいてあり、そのジャンルも様々だからだ。ふむ、今度は学園物もいいかもしれないと関係がないことを私が考えていれば、金田一君は首を傾げた。
「近宮さん、あの時の高遠が言ってた言葉の意味って何だったの?」
「私の母親の死とその原因の人間が死ぬ事件があったのですが、すべて高遠遙一が行ったことだったようで。それを暗に伝えたかったのでしょう」
 壁に貼られているUFO出現の新聞を読みながらそう告げる。高校生に殺人事件は荷が重すぎる。UFOを見たという証言から強盗事件の犯人に迫るなどはどうだろうか。いや、それだと放課後事件ノートの話になってしまう。兄弟を増やすのもいきなりすぎるし、近所のお兄さんとして登場させようか。次の話の筋を考えていれば、ナマエさんは、と金田一君は遠慮がちに私に尋ねた。
「母親が死んだとき、復讐しようと思わなかった?」
「まあ、この際だからはっきり言うと思ってました」
「えっ」
 意外だったらしい。佐木君と真壁君、七瀬さんだって驚いた。DDCに所属する探偵がそんなことをいうとは思わないのだろう。だがしかし、私は実際思っていたわけであるしその心情に職業は関係ない。なぜなら私はすべての発端がその復讐心だったからだ。創設されてすぐのDDSに入ったのも、推理小説を書き始めたのも。
「母親を殺した犯人を探すために、私はDDSに入って捜査するすべを学んだ。犯人を殺したってよかった。母親が私たちに残したものを平然と使って悪びれる様子もない。そんな様子を見て腹が立ちました。でも、私の場合、周りがそうさせなかった」
 特に七海がね。私はそう言って金田一君を見て笑う。
「七海と最初は仲が悪かったんですよ。性格は正反対ですし、私はDDSに入った目的を隠してたのでね。でも、何の因果か彼はずっと私のそばにいて、私のタガが外れないようにしてくれた。私がこのやけどを負った時も、ローズグランドホテルの火事の時も、この前も七海は助けてくれた。まあ、私は根っからの探偵気質の七海たちに感化されたんですよ」
 私はそう言って肩をすくめる。金田一君が私に尋ねる。少しだけ、悲しそうに。
「――近宮さんと高遠はどこが違ったんだろうな」
「一緒ですよ。彼、この前の事件現場をみて『僕っぽいな』とか言ってませんでした?」
「――言ってた」
「私もあれ見たとき思いました。私っぽいなって」
 私の発言に金田一くんがなんとも言えない顔をする。高遠遙一のおこしたとされる事件を私はあの後あさったが、全体的に「私っぽいな」という感想で終わった。それを聞いた七海が変な顔をしていたが。本郷さんなんかは隠すことなく「お前の小説みたいだな」と言っていたし。まあ、私は実際に人は死なないのであるが。真壁君がおっかなびっくりという風に私に尋ねる。
「それは、同じ血を引いているから?」
「そんなまさか。彼やジゼルは自分の行いを血の責任にしましたが、現実はそんなことはない。それが事実なら世界は犯罪者であふれてしまいますからね。彼も私も元は奇術師です。そして彼が好んで使う薔薇の花は母が好んで使ったものでもあります。人は血が云々というよりも、育った環境や周りにいる人間に左右される事のほうが大きいのでしょう。もちろん、それがすべてとは言えません。そもそも殺人事件は頭に血が上って起こることのほうが圧倒的に多いですし。今回のジゼルもそうです」
 私は肩をすくめてそう告げる。
「だってそうでしょう? 金田一君は金田一幸助の孫だから謎を解くんじゃなく、事件に巻き込まれたり、昔から困ってる人をほうっておけなかったからそうなっている」
 私の言葉に金田一君はともかく周りは納得したのだろう。まあ、確かに、と佐木君だけが声に出してうなずいた。お調子者だけどな、という真壁君の言葉に私はクスリと笑う。それもなんとなくわかる。
「まあ、金田一君は指名手配犯でさえもほうっておけないようですけどね。高遠遙一にはそれがうれしいんじゃないですか」
 からかうようにそう言えば、金田一君はうえっという顔をした。自分の思考回路についてきて、尚且つその感情を考えを肯定はしないが、理解されている。きっと本人は否定するだろうが。それは昔の私と七海の関係に似ている。
 さて、そろそろ彼には本題を話さなければならない。この後にはクライアントと事件現場で待ち合わせをしているのだ。
「金田一君、よければですが、DDSに入学しませんか。あなたなら優秀な探偵になれるでしょう。もちろん、七瀬さんも一緒に」
 私の言葉に。それまで黙って話を聞いていた周りがわあわあと騒いだ。うらやましい、いいな、すごいでも、そんな言葉を聞いたって彼は答えを変えないだろう。彼の答えは見えている。恐らく、彼は――。
「ううん、俺はいいよ。そんなたいそうなものじゃないし」
 ほら、やっぱり断る。真壁君が金田一君に「いいのか、金田一」と詰め寄る。佐木君もだ。
「お前の唯一の進学先になるかもしれないのに!」
「そうですよ、先輩! 天職ですよ!」
「うーん、でも、いいや。近宮さんには悪いけど」
 ばつが悪そうにした金田一君に私はクスクスと笑う。彼にDDS入学の声をかけたということが重要なのだ。断ったとしても、私達は彼のバックアップを多少ならできるようになるからである。
「気にしていません、断るだろうとは目に見えていたので。まあ、唾つけというやつです」
「唾つけ」
 ハッと何か思ったのかキリっとした金田一くんに面白い子だなと思う。七瀬さんが睨んでいるが。
「さて、そろそろ仕事があるのでお暇します。迎えも到着するころですし。名刺だけお渡ししておきましょう。何かあれば力になりますよ」
 そう言ってどこからともなく名刺を取り出す。おおっと声を上げた佐木君と真壁君をおいて、違う意味でテンションが上がった金田一君を七瀬さんがついに頭をはたいた。ふむ、やはり仲がいい。私はひらりと手を振っておく。
「七瀬さんが心配しますよ。あまり事件で無茶はしないように」
「近宮さんもね。探偵だからって無茶してたら七海さんが心労で倒れると思う」
 金田一君の発言に私は目を瞬く。そうしてクスクス笑う。それもそうだ。ピピっと短くなったスマホに私は部室の扉に手をかけた。
「助言感謝します。グッドラック、名探偵君。またいずれ」
 ひらりと手を振ってそこを後にする。まあ、また高遠遙一と冥王星がドッキングした事件で金田一くんとは再会するのだけれど。




 門のところにたどり着けば、七海がバイクを止めて待っていた。お迎えご苦労様です、といえば「金田一はなんて?」と返す。
「予想通り断られました」
 私の返答に七海は何とも言えない顔をする。お前が行くからじゃないか、といった彼の懐を殴ればそれは止められたが。七海が行っても、団先生に行ってもきっと断られる。紫乃ちゃんはわからないが。七海は私にヘルメットを渡しながら口を開いた。
「高遠遙一に目をつけられてるなら、学園にいてほしいんだけどな」
「彼は大丈夫です。染まりませんよ」
「やけにはっきりいうな。根拠はあるのか?」
「内緒です。でも、かけてもいい」
 そう言って私はヘルメットを被る。金田一君は七海やキュウ君、キンタ君といった面々と同じ分類だからということは伏せておく。そこをつくと、私はどうしても冥王星や高遠遙一と同じ分類になってしまうからだ。七海は「同じ方にかけるなら賭けは成立しないな」といいつつバイクにまたがった。結局は彼もそう考えているのだろう。賭けは成立しない。私は後ろに乗って七海につかまる。
「では、これはどうですか? 高遠遙一は金田一君に感化されるかどうか」
 七海は一度私に振り返って、「勝ったほうは?」と尋ねる。ふむ、と私は考えて、「夕飯のメニューを決めることができる」だなんて適当なことを告げた。
「ナシだナシ。結果がでるのなんて何年後だよ」
 七海が前を見てエンジンをふかす。私はその背中を見ながら口を開く。
「では、私がこれから奇術師として生きるか、探偵として生きるかはどうです?」
「はあ? それも同じ方に賭けるんだから意味がないだろ。お前は探偵なんだよ。推理小説家も副業」
 七海は当たり前だという風につげる。母親の名誉が戻った今、奇術師として生きるすべもあるとはかつて同業者だった人が告げた言葉である。もちろん、私はそんな気などない。ただ、七海がどう返すか気になっただけだ。
「もっと他はないのか」
「じゃあ、私が光太郎と添い遂げるかどうかとか」
 からかうようにそう言えば、七海はぐっと何かをこらえた。自分で言っておきながら、恐らくは爆弾発言だったんだろう。七海は振り返って私を見る。早くいかないと現場に遅れますよといえば、彼はヘルメットに手を当てて「くっそ」とぼやきながら頭をかくふりをする。そうしてバイクを動かした。その様子を見て私はふふっと笑う。きっと耳が赤いに違いない。七海はぶっきらぼうな声で告げた。風で声が聞き取りづらい。でも、確かに「それも、同じ方に賭けるから意味ないだろ」という声は私に届いた。その言葉がうれしくて、私は彼の背中に言葉を投げかける。
「私を信じてくれてありがとう、光太郎」
 彼は小さく「あたりまえだ」と返事をした。




されど奇術師は探偵と生きるか(fin -20211007)

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