SQUELCH!!


白い魔女と新しい刀(2)



 眠り続けるその人を見下ろす。恐らくはあまりの悲しみに眠ってしまっているのだろう。でも、最近は随分と眠りが浅くなったようだ。今もぴくりと手を揺らし、粟田口の刀剣であろう刀の名を呼んだ。それも穏やかに。目が覚めるまでもう少し、というところだろうか。そっとその手を掴み、ゆっくりと霊力――魔力を馴染ませるように送る。
「貴方が目を覚さない間にことが進んでしまいそうです。本当は貴方が目を覚めてから、という話にしたかったのですが」
 そう目を伏せる。
「もし、私の身に何かがあるとすれば、私の心の一部で貴方の心を補いましょう。そうすれば貴方は目覚めるはず」
 もう一度、彼を見下ろす。鍵が導く心のままに。そう呟いて手を離した。答えは、明日だ。

 部屋から出れば大包平さんが壁にもたれている。相変わらず怒っているのだろう。眉間にシワを寄せている。鶯丸さんはいじけているだけだと告げていたが、これは怒っている。 月明かりが眩しい。
「主、話がある」
「はい、貴方の答えが最後です。場所を変えましょうか」
 そう促せば彼は頷いて私の後に続いた。

 辿り着いたのは私のお気に入りの場所だ。デイブレイクタウンの屋根の上である。月が見える。海も見える。潮風が顔に当たる。追いかけてきていた大包平さんは私をみた。
「身軽だな」
「そうですか?」
 追いかけて登ってきた彼は景色を目に移した。息を飲んだ彼に、「綺麗な景色でしょう?」と微笑んでみる。
「私の大切な場所なんです。案内したのは貴方が初めて」
「そうか」
 彼は満更でもない笑みを浮かべると私の隣に座る。しばらくは景色を見ていたけれど、話を切り出すために彼を見た。
「答えは出ましたか?」
 私の言葉に彼はちらりとこちらをみると、また景色をみる。
「俺は今までいくつもの刀を折った」
「折った?」
「あぁ、前の主の命令でな。天下五剣が誰もいない、そんな状況の本丸で一番の刀。それが俺だった。刀のほとんどが俺に願った。兄弟刀を守って欲しいと。だから、俺はそうであろうとした。刀の横綱と称される自分に相応しくあろうと。だが、この手からこぼれ落ちるように、一振り、また一振りと」
 彼はそう言って掌をみる。想像するだけでぞっとする。
「そのうち、前の主は俺の様子を面白がった。俺が守れなくて足掻く様を、掌からこぼれ落ちる様を、ただ嗤ってみていたんだ。それに怒る余裕さえも、俺からは抜けていた。ただあったのは自責の念だけだ」
 彼はそこで言葉をとぎらせる。そうしてまた少しの沈黙があり、彼は口を開く。
「鶯丸が言っていた。お前があの時、苦手だとついた嘘は俺たちの様子をみて感じだからとっさにいったのだろうと。……俺ははっきり言って、怖い」
「怖い?」
「これ以上増えては俺の手は届かなくなる。守れなくなる。だが、拒んだら最後、刀も主も守れない」
 彼はそう言って私を瞳にうつす。
「俺は守りたい。お前も、この本丸の皆も!どうすればいい!どちらに転んだって俺は守れない!」
 その言葉に私は彼をゆっくりと抱き寄せた。子供をあやすように、トントンと背を叩く。
「大丈夫」
 私はその言葉を繰り返す。呪文のように。彼の中の恐怖を溶かすように魔力をおくりこむ。しばし動きを止めていた彼は、そっと私の服を握った。
「……何が、大丈夫なんだ」
「大丈夫です。もう、何も貴方の手からこぼれ落ちたりなんかしない」
 そう少し体を離す。彼は私をみた。
「なぜそんなことが言える?」
「もう、貴方は一人じゃないから」
 私はただ彼を真っ直ぐにみる。彼は目を見開いて私をみた。
「私がいます。それに、みんなもいます。貴方がもう全てを背負う必要はない。私が貴方達を守ります。どちらに転ぼうと、必ず。だから、私を信じてください。だから、一人で全てを抱えようとしないで」
 そっともう一度彼を抱きしめる。ポツリ、と私の肩が濡れる。その背中を撫でれば彼は私の服を握った。大丈夫、大丈夫ともう一度繰り返す。小さくくぐもった声が聞こえた。




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