不思議の本丸の刀剣(7)
さて、長谷部さんは地図を作っつくれているが実は陸奥さんは海図を書こうと頑張ってくれている。まぁ、海図さえできてしまえば航海ができるからだろう。
「魔法で帆船は作れるとは思うのですが、他の動力となると難しいですね」
「帆船?」
「はい、かぼちゃの馬車と同じ容量です。模型などがあればもっと簡単にできるかと」
陸奥守さんに言えば彼は目をキラキラと輝かせた。ならば話が早いと言わんばかりに席を外した彼を私は浦島くんと蜂須賀さんがそれを見送った。書きかけの海図を見る。どこまでこの海が広がっているかはわからないからこそ、初航海はちょっとした冒険にはなりそうである。大包平さんが海を眺めて口を開く。
「主、帆船といえば動力源は風か」
「はい、そうですね」
「鶯丸でなんとかならないものか」
そう言った大包平さんに私は目を瞬く。どうしてそう思ったのだろうか、と首を傾げれば彼は口を開く。
「緑色の勲章は風の力を帯びるんだろう」
「ああ、確かに風の魔法を使えばある程度帆船の動力は確保できるかもしれません」
「ナマエ、この模型はどうじゃ!」
陸奥守さんはそうバタバタと模型を持ってかけてくる。大きすぎず小さすぎない船だ。
「はい、それくらいならなんとかできる気がします」
「ほんじゃあ、今から処女航海に行くぜよ!」
「まった」
ワクワクとしたような陸奥守さんにストップをかけたのは蜂須賀さんだ。
「なんじゃあ?」
「主は魔法を使わない方がいいのなら、今この模型のサイズをどうこうしても大丈夫なのかい?」
その問いは正しい。陸奥守さんがガッカリしたように肩を落とした。残念ながら処女航海はまた今度、この騒ぎが落ち着いてからになりそうである。昔ならば地下水路に浮かべればなんとなったのかもしれないが。
……そういえば、である。この本丸は昔でいう時計塔の位置にあるはずである。ということはそのうち地下ができるのでは。
そう考えていれば、また歯車が回るような音がした。わ、と肩を跳ねさせた私に代わりその場にいた刀達が窓から外を見た。私もそれに倣って外を見るが街は変わらない。いや、市場は増えたけども。それ以外はなにも変わりなさそうだ。と、いうことは。
「大包平さん、この本丸って地下がありましたっけ?」
「地下はさすがに……まさか、今の音」
「多分朝と同じ現象かと」
困ったように眉尻を下げれば彼もまた眉尻を下げた。
「どうしたの?」
「主が地下空間を広げた」
「正しくは穢れが落ち無に変わった場所が主様の記憶からまた場所として形成されたのですよぅ」
とてとてとやってきたのはこんのすけである。
「本来、本丸は広大な場所なのです。基本的には本丸の建物のみが記憶により再形成されますが、ここは多くの場所が汚れていましたが故主様の記憶から再形成されるのです」
「へぇ〜」
「ということは」
「恐らく地下空間ができたと思われます」
なるほど。ならばその地下空間にいくしかない。恐らく出入り口は変わらない……のだろうか。とりあえずあたってみるしかなさそうだ。
「陸奥守さん、模型と海図を持ってきてください」
「なんじゃあ、主、地下やったら別に……」
「私の記憶では地下にあるのは海に通じてる水路なんです」
そういえば彼らは顔を見合わせた。私はこんのすけを抱き上げる。大包平さんがため息をついた。
「確かに地下ならば人目にはつかないが、主は大丈夫なのか」
「はい、そういう魔法は疲れないんですよ」
多分こっちに行けばあると思います。そう言って部屋を後にすればそこにいた四人は後に続いた。本丸の階段を下り一度外に出れば倉庫の一部が洋風の扉に変わっていた。扉を押せば開いたその先は地下へと続く階段である。そのまま地下へ下れば少し暗い空間が現れた。波の、水の音がする。漂ってくるのは潮の匂いだ。まずは明かりか、と鍵の剣を取り出して掛かっているランタンに光を灯した。これで多少は明るくなるだろう。白く浮かび上がったその空間はとても広く、天井が高いのがわかる。こんのすけを地面に下ろしてから、陸奥さんに水に模型の船を浮かべるように告げた。彼は笑顔で頷くと水に模型を浮かべる。私はキーブレードを消してから指揮棒を振るように手を振った。一振り、二振り。キラキラとした星屑のようなものが舞う。三振り目で指をその模型にむけた。キラキラとしたものが模型に降りかかるとそれはぽんという音と共に大きな船に変化した。
「う、うおおお!」
「わぁぁぁ!!」
興奮したように陸奥守さんと浦島くんが声を上げる。
「船じゃ!!」
「船だ!!!」
「これは見事な西洋の船だね」
わぁわぁと興奮を隠しきれない陸奥守さんと浦島くんに、蜂須賀さんが感心するように告げた。階段から聞こえた足音に振り返れば、堀川くんと今剣くん、岩融さん、大倶利伽羅さんがいる。わぁ、と飛び跳ねながらやってきた今剣くんは「大きな船ですね!」と船を見上げた。
「見事な船よ……」
「地下があったことも驚きなのに、こんな船があったなんて……」
堀川くんの発言に、陸奥守さんが「違う違う」と首を振った。唖然とみていた大倶利伽羅さんが陸奥守さんをみた。
「……これ、」
「そうじゃ!ワシがお給料で買った模型ぜよ!」
「えっ模型!?」
「主の魔法じゃ!」
はっきりと断言した陸奥守さんに、堀川くんが目を瞬いた。大倶利伽羅さんが「どうなってるんだ」と聞いてくるので私は首を傾げる。
「かぼちゃを馬車にする要領で、ですかね」
「12時で解けないだろうな」
「あぁそれは大丈夫です」
「どうやって乗り込むんだ、これ」
大包平さんの発言に私は首をかしげる。
「普通は中に板があると思うのですが……模型ですもんね」
「この距離の板は流石にすぐに見当たりませんね」
堀川くんはそう言って苦笑いする。陸奥守さんが肩を落とした。
「誰かー、いるのかー?」
顔をひょこりと覗かせたのは御手杵さんと加州くんである。
「主、なにして……って、なにこの船」
「むつのかみのもけいだそうですよ!それをあるじさまのまほうで……みてみたかったです!」
「ははぁ、でっかい船だな。今から乗るのか」
「と思ったんだがなぁ、船に渡す板がないときた」
岩融さんがそう言う。私は御手杵さんの胸にひかる勲章を見てからなるほど、と思う。その手があったか。
「そういえば御手杵さん、氷の使い方はどんなものがあるか気にしてましたけど」
「うん?あぁ、ああやって使うんだなってわかった」
「あれは一例です。こういう使い方もあるんですよ」
そう言って私はキーブレードを取り出し、試しに水面を凍らせる。あぁ、なるほどという表情をした周りに私は続ける。
「水面を凍らせる、これは初級なんですが」
「うん、」
「扱いに慣れるとこういうことができます」
空中の水分を凍らせて氷の階段を作りあげる。そのまま船の端にかければ「おお」と目を瞬いた。
「氷じゃ、氷の階段ぜよ!」
「壊れないの?」
「はい。登るくらいなら大丈夫です」
「川ばさみの戦場なら近道が作れそうですね」
「奇襲にも使えそうだなぁ」
陸奥守さんが船に登ったらしい。興奮したような声が聞こえる。続いて浦島くんや今剣くん、岩融さん達が登っていく。
「ははぁ、結構使いようなんだな。この前みたいに凍らせて足留くらいかと思ってた」
「そうですね、結構使いようです」
「でも俺も大包平みたいなのやりたい」
「できると思いますよ」
そんな会話をしつつ階段を上る。船の上はなかなかに広い。陸奥守さんは舵を触っている。動きそうですか?と聞けば彼は「おん!」と返事をした。ここがこうで、ああで、と彼は装置を触る。これが錨じゃな!と告げた彼は何か装置を動かした。カラカラと綱が巻き上がる音がする。風よ、と告げれば帆の後ろからの風に船は動き出す。すいすいと船は前に進む。明るい光をくぐり抜ければ、それは海へと辿り着いた。潮の香りがする。魔法で作り出した風ではなく、本物の風が頬をかすめていく。蜂須賀さんが周りを見て口を開く。
「うん、釣りや漁をするにもちょうどいいね。これで本格的に漁や釣りができそうだ」
「でも、船の扱い方がわからなければ難しいかもしれませんね」
「よし、俺も頑張って覚えてみるよ。陸奥守と……まぁ刀が増えたらもう一人くらい増やしてくれるかい?」
「それはもちろん。ありがとうございます」
私が頷けば彼もまた「こちらこそありがとう」と笑ったのだけれど。
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