SQUELCH!!


白い魔女と黄色い勇者(1)




 窓を開ける。心地よい風が入ってくる。晴れやかな空には雲ひとつなく、穏やかな日が降り注ぐ。清々しい朝には違いはない。短刀達が広場をかけていくのが見えて、彼はクツリと笑った。身嗜みを整えて、今日も頑張るかと気合を入れる。短刀の急かす声に返事をして――彼は階段を駆け下りた。

 この街はいつも晴れなのだという。日本とはまた少し違う気候にも感じるとはこの本丸の地図作りを任されている長谷部が告げた昨日の言葉だ。器用に紙にペンを走らせて短刀からの情報を書き込んでいた彼は事細かにそれを記録しているようだった。確かに、この本丸の雰囲気は日本とはまた少し違う。それは建物に立って現れている。坂を上り切った先にある本丸は一応和風の物件にはなっているが、自分たちの武家屋敷のようなそれと比べればモダンな建物であるし、なにより他の建物はまるで外国の御伽話に出てくるような建物ばかりだ。海に沿った道を歩いていても、それがどうも自分達の本丸にある同じ海であるようには思えなかったのである。
あまりにも穏やかな日だった。あの白い審神者も穏やかなのだろう。だから彼女の周りは穏やかな刀剣が多いのかもしれない。このままずっと。そう言いかけた言葉を飲み込む。自分達の運が良かっただけなのである。そう、あのまま折れる覚悟だってできていた。誰もがそうであったからだ。だから。
「おはようございます、獅子王さん」
 後ろから声をかけられて彼――獅子王は慌てて振り返る。そこにいたのは件の審神者である。真っ白な髪に赤い瞳。最初は白い洋服を着ていたが、今日は色のついた袴を身につけていた。おはよう、と返せば彼女はにこりと笑って「よく眠れましたか?」と尋ねてくる。
「あぁ、そりゃもうぐっすり!」
「それはよかったです。今日は獅子王さん達は陸奥守さんの手伝いを頼んでもいいですか?」
 そう告げた彼女の背後からは自分の隊にいる短刀達が大包平の後ろで期待したようにこちらを見ているのが見えた。そういや、昨日は海に浮かんだその船とそこにいた審神者と刀剣達をみて短刀達が騒いでいたのを獅子王は思い出す。
「船に乗るのか?」
「苦手ですか?」
「いや、苦手というかはじめてだなぁ、船は流石に。でもいいのか?」
「可愛くお願いされちゃいましたから」
 彼女は苦笑いにも似た笑みで答える。きっと短刀達が詰め寄ったのだろう。気を悪くしなかっただろうか。獅子王はさっと顔色を悪くする。
「悪い」
「?何故謝るんですか?大丈夫です。ただ、陸奥守さんや子ども達だけだと心配なので獅子王さんにも一緒に行って欲しいのですが……」
 困ったように告げた彼女はどうやら怒ってはいないらしい。ホッと息を吐いた獅子王は「それなら」と了承してみせる。それを聞いて審神者は短刀達の方を向いて丸印をつくる。短刀たちはその合図に飛び跳ねて喜んで見せた。それは今まで獅子王が見たことがないような喜びかただった。




- 30 -

*前次#


ページ: