Mimic what one says(2)

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 俺が子供の頃、俺の世界はゴミだらけのワンルームマンションと妹だけだった。母親は男を作っては家を空け、そうして男に振られては俺たちに八つ当たりをするようなやつだった。父親は知らない。知らないというよりは父親がわりになるような人物はころころと変わった。その中にまともな人物なんかいない。父親の中でも最低だったのは最後の男だ。抱かれたこともある。拒めば殴られて、抵抗もできないで俺はもうどうすることもできなかった。そんな吐き気がするような穢らわしい世界――掃き溜めのような世界で生きる俺は、小さな妹は心の支えだったのである。

 ――大切だった。
 世界で一番。俺の可愛い妹。俺の心の支え。妹が生きているから、俺は何をされても、穢らわしい世界でも生きていけたのに。

 夏だった。うるさいほど鳴く蝉の声が開いた窓からきこえる。いくら俺が片付けても母親や父親が帰ってくると部屋は荒れ、冷房なんてものはないその部屋は暑く生ごみのような臭いが染み付いていた。暑いと訴える妹に、俺は少しでも涼しくなるように窓を開けて、水を飲ませた。幸い、水道は止められていなかった。妹はただの水を飲んだだけなのに、にいちゃ、おいしーねと笑って見せる。夏の些細な幸せだった。
 その日は、そんな些細な幸せと地を這うような地獄は両立していた。帰ってくるなり、はやくしろ、と急かす父親に、俺は妹にすぐに帰ってくると告げた。母親は恐らく夕方まで帰ってこない。この父親はこの暑い部屋ではなく、涼しい部屋で女の格好をした俺を抱くのが好きなようだった。妹は俺の言葉にしっかりうなずいて、にいちゃ、いってらっしゃい、と笑う。それが、俺が最後に見た妹の生きている姿だった。


◇◇

 その人物はいかにも胡散臭いといえばよいのか、人の良い笑みをして現れた。俺が公園でぼうっとしていた時である。俺の名を当てて見せた彼は隣に並んだ。警戒はした。出所してからは俺は真面目に働いていたし、子供の犯罪者は名前を公表されない。週刊誌などはイニシャルで報道していたからだ。だから俺がどんな罪人かは誰もわからなかった。それが救いだろう。俺は死にものぐるいで働いていた。憎む気持ちを紛らわせるために。
 でも、無理だった。夏に入ると思い出しては憎しみを募らせていたのだ。それを認めたくなかったのだ。思えば、それが俺に最後に残っていた理性というか、良心のような者だったのだろう。
 最初はたわいの無い会話であったはずだ。しかし、彼は俺の名前をあててみせ、家族の話になり、彼は俺に問いかけた。

「その復讐、私が手をお貸しましょうか?」

 そう告げた彼に俺は言葉をつまらせる。何が、だなんてわかりきっている。殺したいほど憎いのでしょう? とこちらをまっすぐにみた彼に俺は何も言わない。

「認めてしまいなさい。貴方の憎しみを。彼らはクズだ。死んでも誰も困りませんよ」

 その言葉に俺は納得してしまった。認めてしまった。

 ――ずっと憎かった。俺や妹に暴力を振るう両親が。妹を死に追いやった奴らが。ずっとずっと。言葉を吐き出した俺に彼は微笑んだのである。まるで、全てを許す神様のように。