Mimic what one says(7)
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最初、医者に対する印象はあの中で一番まともで優しい人だった。彼は少し変わった――所謂露出が激しい写真を撮るくらいで、暴力的なことは何もしない人だったからである。一番優しかったから、俺は彼に本来なら親に向けるような感情を向けた。それが間違いとは知らずに。
医者の要求は段々とエスカレートした。そのうち裸になるように言われ拒めば妹に手を出すと脅され、彼の出したジュースを飲むと意識を失うことが増えたのに気がついた。そうして、ある日、言うことを聞かない悪い子はお薬を飲まないとね、と彼は無理矢理俺に薬を飲ませたのである。俺は拒んで暴れる日もあった。しかし、医者は俺を押さえつけて注射器を取り出すと何かをいれた。俺が気がついた時、医者は繰り返し映像をみていた。吐き気をもよおすような映像を、空気の濁った部屋の中で。
妹が死んだ時、医者と二人っきりになった。もう恐らくは触れられないからと、気持ちが悪い手で触られるなか、彼は俺の耳元で告げた。
「君が殺していないのはわかっているよ。死因が熱中症でないこともね。でもこうするしかなかったんだ、ごめんね? でも、君は許してくれるよね? 気持ち悪い僕の性癖を受け入れてくれた君なら」
◇◇
五人目。最後に残った医者である。医者のために用意したトリックは使わず、父親を殺すために仕掛けていたトリックで彼を殺すことにする。喉が渇いたので、医者の分も飲み物を持ってくると嘘をついて扉を閉める。そうして小さなはめ込みをしてしまえばその部屋が開くことはない。
彼は父親達を恨んでいた。彼らのいうとおりに今までは動くしかなかったのだと。どの口がそれをいうのだろうか。写真を手に脅すなんてことは医者のアイツにはよくあることだった。
俺はキッチンで水を飲む。冷たい水道水。それで十分だった。あの頃と変わらない味だ。とりあえず、医者に水を渡すふりをしなければ怪しまれる。俺はグラスに水を入れて、父親の部屋を尋ねる。ノックしても開かない部屋に、医者に声をかけた。
「扉が開かないんですが、鍵をしめてます?」
「いや、閉めていないよ」
彼はそう言って扉の近くにくる。ガチャガチャとドアノブを彼は回す。
「開かない……? なんで……」
「窓の方に回りますね」
俺はそう言って窓の方に回った。当たり前だが窓も開かない。そもそも、割れない。段々と医者の顔色が悪くなっていく。それもそうだ。あの部屋の暖炉、そこに準備された練炭に気がついたからだろう。通常煙は煙突をつたって外へ逃げるが、その部屋の暖炉は壊れている。扉は開かない。窓も開かない。密室だ。俺は困ったような顔をして、心配そうな顔をして声をかけた。
「麓まで降りれば誰か連れて来れるかも! 降りてみます!」
そう言って善意のふりをして医者の制止を聞かずに外に出るふりをする。
屋敷から離れたところで高遠遙一にとりあえず現状を報告をすれば、彼は少しだけ考えて、助けましょうかと告げた。どうしてと告げれば、彼は言葉を返す。安堵させておけば犯行はやりやすいでしょう? と。それもそうだ。医者を殺す用のトリックはある。近くを歩き回った結果誰もいなかったけど、一か八か警官の車の中に入ってみたらフロントガラス割るやつがあった、そんな軽い説明をして、窓を割った。
ようやく外に出てへたり込んだ医者に俺は準備していた水を飲ませた。油断している彼はそれを口に含んで、計画通りに意識を飛ばした。幸いなことに彼の服には血がついていた。彼の部屋に移動させ準備していた毒薬を彼に刺す。医者はそのまま生き絶えたようだった。手に注射器を持って。元々医者は薬をたくさん持っている。誰かをだく時に使うからか、睡眠薬も持っている。当然俺が使った毒も彼の隠し持っているポーチの中だ。
俺は医者であった男を見下ろした。他人を薬漬けにして興奮するわりに、自分が薬漬けになって死ぬとは思わなかったのだろうか。まぁ、恐らく、彼は許してくれるだろう。だって、医者はあの中で唯一優しい大人だったからだ。