魔女集会にて
-オールドタイム:小さな魔法使いと迷い込んだ少女-
昔のお話です。とある大きな国の華やかな町で、魔女や魔法使い達の集会が開かれていました。集会にはさまざまな魔法使いが参加しています。たとえば、とある魔法使いはどこからともなく現れる魔法を使ったり、とある魔女は魔法で水中から脱出してみたり、とある人は空を飛んだり、また違う人は一人でに動く人形と話してみたり。魔法を使うことができない少女にはどうなっているかわからないものばかりで、魔法を見ては目を輝かせるばかりです。
少女は魔法が使えませんでした。それに加え、父親が魔法を使うところを見たこともありません。どうして魔法使い達が集まるこの場所に父親と一緒に参加できているのか、少女にはさっぱりわかりませんでした。
少女は父親に尋ねます。ここには魔法使いばかりいるけれど実はお父さんも魔法使いなの? と。父親はクツクツと笑いました。
「俺は違う。知り合いに招待されたんだ。それに、まわりに本当に魔法使いか聞いてみたらどうだ?」
少女はその言葉に恐る恐る廊下や広場にいる魔法使いや魔女に近づきました。みな少女に気付けば何もないところから花やコインを取り出して見せます。少女はそれをみてからこっそりと問いかけました。
――こんなことができるなんて、あなたは魔女? 魔法使い?
その問いかけにみな、笑ったり、ウィンクしてみたり、人差し指を立てながらこう答えます。
――そうだよ、お嬢さん。だから隣のパパには秘密にしておいてね。
少女はその言葉に刻々とうなずくのでした。
しかしながら、少女は魔法使い達に話を聞くのにすっかり夢中になってしまい、父親と逸れてしまいました。周りは知らない人ばかりです。不安になった少女はあたりを見渡しますがどこにも父親はいません。父親を探すために少女は集会の中を歩き回ることにしました。
途中に目の前でとまった鳩に父親の居場所を尋ねてみたり、魔法使いの元から飛び出した兎を追ってみたりしてみましたが、どうにも父親が見つかりません。くたびれた少女は噴水の縁に腰掛けるとメソメソと泣き出してしまいました。
「なぁ、みてて」
日本語で話しかけられて少女は顔を上げました。そこにいたのは同い年くらいの少年です。少年はコインを持つと、ハンカチで隠しました。そうしてハンカチを外せば、コインはいつのまにか薔薇の花へと変わっています。少女は目をパチパチと瞬きました。まさか、同い年くらいの子どもが魔法を使えるなどと思ったことがなかったからです。
「あげる」
差し出された薔薇の花に、少女は泣き止んでありがとうとお礼を告げます。しかし、その瞬間、少年の逆の手からは薔薇に変わったはずのコインが落ちました。
「あ、やべっ……!」
少年がコインを拾い上げる前に、男性がコインを拾い上げます。そうして彼がそのコインを小さな布で隠せば瞬く間に鳩に変わりました。わぁ、と歓声をあげた少女に少年は男性を見上げます。男性は少年にウィンクをして口を開きました。
「可愛らしいお嬢さんじゃないか」
「ここで泣いてたんだよ」
そう言った少年に、男性はふむと考えます。周りに少女の親らしき人はいません。この少女は恐らくは迷子です。しかしながら、この集会で数多にいそうな迷子とは違い、男性はこの少女をみたことがあることに気づきました。少女に声をかけようと男性が屈めば、少女は他の魔法使いや魔女と同じように、男性にこっそりと尋ねます。
「おじさんも魔法使いですか?」
その問いかけに男性は不敵に笑うと、人差し指をくちびるに当てて口を開きました。
「それは、秘密です」
男性の答えに、少女は男性が魔法使いであると思ったのでしょう。
「じゃあ、あの子は魔法使いのお弟子さんですか。コインを薔薇に変えてくれましたが、なぜかコインが増えました」
女の子の問いかけが聞こえていた少年は驚き、男性は笑いました。
「弟子ではなく、あの子は私の息子ですよ」
「うーん……魔法使いの子供だから魔法を使えるなら、私は魔女にはなれませんかね……」
少女はがっくしと肩を落とします。魔女になりたいのですか? と尋ねた男性に、少女は頷きました。
「魔法が使えたらパパが事件に巻き込まれないかも……」
その答えに、男性は少女の父親に確信をもちました。少女の父親は男性の友人で間違いありません。
「さぁ、お嬢さん。貴方のお父さんが探しています。闇雲に歩くのはあまりよくありませんよ」
そう言って少女の父親のもとへ連れて行こうとした男性に、盗一、と男性に声がかかります。そこにいたのは少女の父親と、女性――いえ、先程ちゃめっ気たっぷりにウィンクして、少女の問いかけに「そうかもね」と答えた魔女でした。
「パパ! どこに行ってたの! どうせ、また、じけんがおこったんでしょ!」
少女が告げたその言葉に、父親は頭を抱えます。少女が目を離したすきにいなくなった、というのが正しい話です。魔法使いと魔女は頭を抱えた父親を見て、笑い出しました。少年はそんな様子をみて首を傾げます。どうやら彼らは仲が良さそうです。そんなこんな話しているとこんどこそ叫び声が聞こえて父親は少女を見ました。少女は父親を不安そうに見上げます。
「すぐ戻るからこの魔法使い達といろ」
そう言って人混みに消えた父親を見送り、少女は肩を落としました。父親とでかけるといつもこうです。事件が起こって、少女は一人で時間をつぶさなければなりません。さみしそうな少女を見て少年が口を開きます。
「じゃあ、俺と遊ぼうぜ!」
な、いいだろ! と魔法使いの男性を見上げた少年に、魔法使いは頷きました。迷子にならないように、と告げて。そのあと、少女と少年が魔女集会でちょっとした大冒険を繰り広げるのですが、それはまたいつかどこかで。