誰がために薔薇は咲くー3ー
電車とバスを乗り継いでいかないといけないかと思っていたが、快斗君の知り合いの方が車で送ってくれた為に案外早く着いた。寺井さんと呼ばれたその人はビリヤード場のオーナーらしい。またヤマトと遊びに行ってもいいだろう。
「では、快斗ぼっちゃん、また迎えに参ります」
「さんきゅ、ジイちゃん」
そう言った快斗くんにヤマトと二人で「ありがとうございました」と頭を下げる。彼は気にしないでほしいと首を左右に振ったのであるが。
たどり着いた薔薇十字館は、まさに薔薇の屋敷だった。様々な種類の薔薇が咲いていて、手入れも行き届いている様だ。長い薔薇のアーチをくぐり抜けて、扉をノックする。はい、と顔を出したのは初老の男性である。リストが書かれている紙とバインダーを持った彼に私は口を開く。
「飯塚と黒羽ですが」
私が名乗れば彼は理解したらしい。まるでホテルの受付のように、飯塚様と黒羽様ですね、お待ちしておりました、と愛想が良い笑みを浮かべた。
「皆様の世話係を仰せつかっております、毛利帝と申します。どうぞこちらへ」
そう言って彼は中に通す。なるほど、ゴシック調にまとめられた可愛らしい館である。見渡してみた。内装も薔薇のイメージが多い。彼はそのまま見取り図の前に向かう。十字の要素はこの屋敷の形らしい。地上1階、地下一階。客室は1階。
「こちらが飯塚様、黒羽様のお部屋の鍵です。飯塚様のお連れ様はまだ幼いと聞いておりますので、念のために同部屋にしておりますが……」
「はい、そちらで結構です」
そうですか、と少し安堵した彼に私は首を傾げた。快斗くんがどうかしたのか? と面と向かって尋ねれば、彼は「他の方のお連れ様も来ることになりまして」と告げる。なるほど、部屋数が限られているのだろう。獄門塾の事件でどうすれば子供に見えるかを理解しているヤマトは見取り図を見て口を開く。
「じゃあ、あと……いち、にい……11人も来るの?」
「はい、もう数人は来ていらっしゃいますが」
ということは、11人のうちにローゼンクロイツのいう『異母兄弟』とやらがいることになる。ヤマトがまた子供っぽく首を傾げた。
「荷物を置いたら、探検してきていい?」
「お、そりゃいいな」
「庭も素敵そうでしたし、私もぜひ拝見したいです」
「ええ、他のお客様の迷惑にならない範囲であれば、かまいません。南端の部屋は開かずの間になっておりますのでご注意ください」
毛利さんは案内図をみてどこがどうという説明をしてくれる。快斗くんとは隣同士の部屋のため、まずは客室に荷物を置きに行くことにした。他の人の迎えもあるらしい毛利さんに頭を下げて客室に向かう。快斗くんが部屋に向かいながら小声で口を開いた。
「あの人が異母兄弟(仮)ってわけではなさそうだな」
「そうだね、父親の兄弟でも歳が結構離れてるようにみえるかな……ホテルマンみたいな方でしたね」
「確かに」
そう言いながら部屋の鍵をあける。荷物をとりあえずベッドサイドに置いて、ヤマトがいつもの手帳を取り出すのを確認してまた廊下にでた。