誰がために薔薇は咲くー5ー




 さて、彼との関係性及び名前の呼び方は。高遠さんは素顔を晒しているのをみると、はじめちゃんは高遠さんだと理解した状態で一緒にいるのがわかる。まぁ、都合が良かったのは私たちが口を開くよりも、見知らぬ誰かが尋ねるよりも早く、真田さんが知り合いか? と尋ねてきてくれたからだ。私が小さくうなずけば、それに応えるために高遠さんは彼を見て口を開く。

「あなたはマジシャンの真田一三さんですね。……私は遠山遙治と申します。フラワーアレンジメントをしています」
「遠山……?」
「何か?」
「アキにマジックを教えてる奴か」
「――……いえ、『教えていた』、過去形ですよ」

 高遠さんはそう言って目を伏せた。言葉を続ける。

「私も仕事が忙しいですし、彼女とは滅多に顔を合わせられませんから」

 ね、と幾分か優しい口調で告げた彼に私はもう一度頷く。さて、砕けた様な言葉だ。ならば私もそれに乗っかるべきだ。

「……遙治くんやはじめちゃん達もローゼンクロイツに招待されて?」

 私の言葉にはじめちゃんが言い淀んで、高遠さんが口を開く。

「私が招待されてね、彼は付き添いだよ」

 付き添い、と繰り返して私は三人を見る。はじめちゃんは少し真面目な顔で口を開いた。

「アキ達は? また快斗がアキの付き添いか?」

 そう尋ねた快斗くんが口を開く。

「いーや、今度は俺が付き添い頼もうとしたら、アキとヤマト宛にも招待状が来てたんだよ」
「三人ともに?」
「おー、俺とアキは連名だったけど。住所も名前も知られてるってことは生活圏内を把握されてるってことだし……」
「行かないことで危害が及ぶ可能性があると考えたわけだ。君はやっぱり賢いね」

 そう言った高遠さんに、ヤマトはまーな! となんともいえない顔をしたが。さて、私は周りの反応を探るとしよう。

「――でも、秘密をばらす、なんて言葉を書かれてしまったら来るしかない気もするなぁ」

 困った顔でそう告げる。周りはピクリと反応した。はじめちゃんは知らない、恐らく高遠さんも一瞬違う反応をしたのでその文言を知らない。高遠さんもまた伺う様に告げる。

「私達はローゼンクロイツ氏を恐れているということですね」

 さて、他の方をみる。知らない方と知っている方は半分半分と言ったところだろうか。

「飯塚さんは青薔薇に興味があるわけじゃないの?」
「ん……? 白樹先生?」

 目をぱちりと瞬いて彼女をみる。アキの知り合い? と尋ねたヤマトに私は頷いた。

「生物の先生なの。たまに家で育てている薔薇の相談に乗ってもらったり……去年はヤマトが幼稚園でそだてることになったプチトマトの相談をしたり」

 そういえばヤマトはサッと目を逸らした。枯らしかけた覚えがあるのだろう。白樹先生はふふふと笑ったけれど。美雪ちゃんがヤマトを見下ろす。

「枯らしちゃったの?」
「いやあれはトマトへの善意というか……」
「トマトが暑くて可哀想だから昼間に水をあげてしまったのよね? 飯塚さんから聞いているわ」

 それを聞いたはじめちゃんと快斗くんがふはっと息を吐き、先程の緊張感が随分緩んだ。私はヤマトに睨まれている。でもあの時のヤマトの話を要約するとそういうことだ。

「白樹先生からの問いの答えとしては、私個人としては興味があります。青色が濃い薔薇を掛け合わしてみたりして様子を見ていますが、真っ青な色にはなりませんし……ローゼンクロイツさんがただの愉快犯なら、薔薇のお手入れ方法などをお尋ねしたいところですが……」

 苦笑いを浮かべてそう告げる。

「愉快犯でなくともわかりますよ。掛け合わせるだけでは青い薔薇は作れない。遺伝子的に操作しないとね」

 そう言ったスーツ着て眼鏡をかけた男性に首を傾げる。どこかで見たことがある、とおもっていれば、白樹先生がバイオ・フェスという会社の社長である祭沢さん、と教えてくれた。どうやら花の改良や遺伝子研究を行っている会社の社長らしい。ふーむ、それは残念だ。空の色の薔薇よりも濃い青、深海のように深い青の薔薇は作れないらしい。ヤマトがこちらを見上げて、コソッと告げる。

「今年の薔薇、結構いい線いってなかった?」
「うーん、私的にもそう思ってたんですが……あれ以上は無理ということですね。箱に入っていた青薔薇くらいが目標だったのですが」

 もう一人の壮年の男性――薔薇園を経営している小金井さんが薔薇の世話の方法を教えてあげようと私に近寄ってきた。伸びた手は高遠さんに制されたが。

「何するんだ」
「ああ、申し訳ありません。彼女、貴方の様な知らない男性に近づかれるのが苦手なもので。……大丈夫かい? アキ」
「はい、ありがとうございます、遙治くん」

 そうお礼をつげる。事実であるし、本当にああいうタイプは苦手だ。あとは、薔薇の写真を専門に撮る佐久羅京さん、薔薇の模様が描かれた着物をきた友禅絵師の禅田みるくさん、プリザーブドフラワーアーティストの冬野八重姫さんと花詠み歌人の月読ジゼルさん。何か秘密を抱えてやってきたらしい彼彼女の簡単な紹介をきき、私も一応名乗っておいた。その様子を見守っていた毛利さんが、ダイニングでの夕食の予定時間をつげ、案内を始める。私たちは先程自分達で回っていたので、快斗くんやヤマト達と後方に陣取っていれば月読さんが首を傾げた。

「飯塚さんは、御趣味で薔薇を?」
「はい、皆さんバラを扱うプロの方ばかりなので私は違和感がしますね」

 そう苦笑いをする。近くにいた真田さんが、「でも、アキはマジックに薔薇を中心に生花を使うだろう?」と私に問いかける。

「それは遙治君に教わったから……」
「フラワーアレジメントをしてる人ね」

 冬野さんがそう告げる。ご関係は? と尋ねた彼彼女らに、ヤマトが私たちが引っ越す前に近所に住んでいたとバッサリ告げた。うん、それが正しい。ふぅん、へぇ、と納得した彼彼女らに、冬野さんが口を開く。

「貴方も青い薔薇を作ってるんでしょう?」
「作っているというよりは、昔の自由研究をそのまま続けているようなものですよ」
「今年は空色ができた」

 ヤマトは子供っぽくそう告げる。空色、と繰り返した周りにヤマトは画像をみせる。快斗くんも同じように覗き込んで、おお、空色、と声をあげる。

「加工じゃないの?」
「違う」
「元はアプローズ……ですか?」

 月読さんは薔薇の形状を見て察したのだろう。元の品種はそうなので私は頷いた。

「はい、アプローズの青みが強いもの同士を交配させていったんですが……趣味程度なので、もしかしたら近くにたくさん薔薇があるし、白い薔薇や何かと混ざってしまった可能性はありますね」

 苦笑いをしながらそう告げる。目標は、箱の中にあるような青薔薇だったのですが、祭沢さんのいう通り難しそうです、と肩をすくめておいた。

「でも、こちらの薔薇も綺麗ですよ、貴方達の瞳の色みたい」

 月読さんの言葉にありがとうございます、とお礼を告げておく。冬野さんが同じく口を開いた。

「ほんと、プリザーブドフラワーの作品に使ってみたいわ」
「お渡ししようにも今年は摘んでしまったので、また来年になってしまいますね」

 そう困ったようにして告げる。まだ咲いているが、綺麗な色のものは同じようにプリザーブドフラワーに変えてしまったし、一輪は近所の人にあげてしまっている。
 部屋の前で彼彼女達と別れて、一度部屋に戻ってから快斗くん達と合流する。夕食の時間まで時間はもう少しある。高遠さんに話を伺いたいところだけれど、三人とも部屋に戻ってしまった。高遠さんも何か考えているようだったので邪魔しない方がいいだろう。