誰がために薔薇は咲くー6ー
とりあえず遊戯室に集まってビリヤードの練習をしてみる。ヤマトに方法をしっかり教えてくれる快斗くんは面倒見がいい。
「さて、様子を見るに皆さん何か秘密があるようでしたが……」
「そうだな、あれは何か隠してる」
「遙治くんが呼ばれていましたが、遙治くんは秘密をばらされることを恐れてという感じでもありませんでしたね」
ふむ、と頭の中で情報を整理する。快斗くんがあの人は今秘密を曝け出しているだろ、とボヤいたのでヤマトが初歩的なミスをした。顔には驚きと困惑が浮かんでいる。快斗くんはそれに気づかないふりをして口を開いた。
「もしかしたら、遠山さんの腹違いの兄だか姉さんだか弟だか妹がいるってことじゃないか?」
「そんな話は聞いたことがないのですが……もしそうならその人を殺されるわけにはいけませんね」
私は困ったように告げる。彼にもし本当に異母兄弟がいるのであれば彼に残された最後の家族ということになる。その人が殺されるのはよろしくない。快斗くんがキューでボールを弾く。ジャンプしたボールはヤマトが打ちやすい位置に移動した。
「しっかし、どういう法則で愉快犯は呼び出したんだ?」
「愉快犯……」
ヤマトが苦笑いをしながら移動する。
「今のところ何も起こってないから愉快犯だろ」
「マジシャンつながり、なら、他の人の説明はつきませんね」
「逆に薔薇業界つながりならマジックでよく薔薇をつかうアキはともかく、弟くん、薔薇を必要最低限でしか使わない真田一三と俺は含まれない。真田一三はどちらかというとカードマジックだしな」
「その二つを分けて考えるべきでは? マジシャンズセレクト」
「必然に紛れ込む偶然ね……」
「なぁ、アキ、これってどの角度で打つのが正解?」
そう言ってこちらをみたヤマトにもう少ししたから打ちましょうか、と告げる。ヤマトが打ったボールは綺麗に他のボールに当たった。それを確認してから快斗くんはヤマトに問いかける。
「弟くんはどう思う?」
「そもそも青薔薇を話題にする意味って何だよって話もない?」
「みたいんだろ、青薔薇」
「じゃあ別にこう言うふうに集めなくてもいい気がする。青薔薇って世紀の発表みたいなイメージあるし、こんな場所じゃなくて、大きい場所でこのメンバーを先行で招待するとかしそうだけど。それにしたって秘密で脅してきてるし」
それもそうである。うーむ、と三人で考えていれば時計がなった。夕食の時間である。
――私はこのすべての事を見た。また日の下に行われるもろもろのわざに心を用いた。時としてはこの人が、かの人を治めて、これに害をこうむらせることがある。また私は悪人の葬られるのを見た。彼らはいつも聖所に出入りし、それを行ったその町でほめられた。これもまた空である。悪しきわざに対する判決がすみやかに行われないために、人の子らの心はもっぱら悪を行うことに傾いている。罪びとで百度悪をなして、なお長生きするものがあるけれども、神をかしこみ、み前に恐れをいだく者には幸福があることを、私は知っている。
しかし悪人には幸福がない。またその命は影のようであって長くは続かない。
読み上げられたのは旧約聖書である。食事をする前にお祈りをする為の言葉にしては余りにも暗く、そして何か怯えさせるような文言だ。
キリスト教やユダヤ教の聖典、新約聖書よりも厳格であるとされる旧約聖書はかの有名な創世記や海を割ったモーセの話などもあるのであるが、先程帝さんの読み上げたような言葉もかかれている。コレへトの言葉、正しくは伝導書の八。さて、この言葉に周りは静まり返った。何か思うところがあるのだろう。しかし、恐らく聞いている彼彼女らも、ローゼンクロイツ自身もあまり聖書に詳しくないかもしれない。ここに書かれた悪人は悪人でも、神を畏れないもの――かしこまり敬うことができない人、という意味が強いはずである。別の章では罪人にも神を信じ畏れるものには幸福はあるとかかれているからだ。
それよりも私が気になるのはクロッシュの手前においてある黒薔薇なのであるが。月読さんが告げたように黒薔薇は不吉すぎる。ヤマトも小難しい顔をしている。
「さて、ではいただきましょうか」
そう告げた毛利さんに、重い空気のまま全員がクロッシュをあげて――叫んだ。クロッシュの中には黒薔薇とバラバラになった死体のパーツがそれぞれ入っていたからだ。私の目の前には誰かの足である。流石にコレには私も驚いて小さく悲鳴を上げてしまった。誰かが人名を呼ぶのと、私が誰かに目隠しをされるのはほぼ同時で、私はさらに緊張する。高遠さんではない。高遠さんの席は離れていたはずだ。私の目の前にあるクロッシュの蓋を閉めた誰かはそっと手を離したが。
「大丈夫か?」
「……ありがとうございます、真田さん」
「いや……ひどいイタズラだな」
彼はそう言ってパッと手を離す。快斗くんがヤマトの目の前の蓋をしめていた。私は薔薇を一輪取る。恐らく何らかの意味がある。はじめちゃんにその意味はわからない。染められた黒薔薇だ。尚且つ枝を無理やり作っている。わざと花開いた薔薇と二つの蕾を作り上げている。
「黒薔薇、の、花言葉は、素敵なものであれば永遠の愛などもありますが、この場合は違いますね……それに、用意された薔薇を無理やりこう言う形状にしている」
月読さんが同じように口を開く。
「花開いた薔薇と二つの蕾、花言葉は永遠の秘密」
高遠さんが薔薇を持ちながら口を開く。
「アキのいうとおり、この場合は違う花言葉で解釈した方がいい。黒薔薇の負の花言葉は『死ぬまで憎む』、そして」
――復讐の亡霊。