Out Case:After
小さなガラスの小瓶の中にあるのは、もとは一輪の薔薇だ。生花の美しさを長く保つため、特別な処理をされた薔薇の花であったが、その代わり壊れることを知ってしまった薔薇である。壊された花びら、その残骸をこの小さなガラス瓶に閉じ込めたのはいつだったか。それを元に戻すことなどできない。魔法使いであるまいし。いや、それでも思い出の中の彼女であればできるのではないかと考えてしまう。
彼女は魔女のようだった。糸のないマリオネットを操り、声を七色にあやつり、烏が彼女のアシスタントをしたかと思えば、鳩をカバンの中から取り出す。そんな中で、一際美しかったのは薔薇の花を扱ったマジックである。違う花だと見るからにわかるマジシャンもいる。しかしながら、彼女は丁寧に仕込んでいたのだろう。どこからどう見てもおなじ色、同じ形の薔薇。
押収したものの中にひとつだけ粉がある。ガラスの小瓶に入った赤い粉だ。何かの薬物かと思ったが――それはただの薔薇を乾燥させたものだろうという結論に至る。正しくは、薬品反応からして恐らくはプリザーブドフラワーであるのだが、どうしてそれを持っているかなんて押収した側にはわからないだろう。現に怪しい薬ではないかと思われていたわけであるし。
「なんでヘマして捕まって休暇とってるお前のために潜入してる俺が危険を冒してんだ」
そう言って小瓶を投げ渡す。なんで俺がコイツのために危険を冒してとってきてるんだ、と思う。まぁ、師匠同じく働いているのでそこに潜伏していることになっているのは確かだし、別に下手はしないが。
「自分で取り返そうにも、キングからバカンスに行くようにというご命令でね」
「どうせ、バカンス目的じゃなくてそこに滞在してる奇術団目的の旅行だろ」
そう言って俺は助手席に置かれたパンフレットをみた。そいつは悪びれもなく「まあね」と告げた。
「君も来るかと思った」
「いかねえよ」
俺は頬杖をつく。
「最後に行ったのは?」
「覚えてねえな。あいにく俺は仕事に忙しいもんで」
「二つ顔があるヤヌスにぴったりな任務と思うけど」
「そうかい……もうヘマすんじゃねえぞ。できることは限られてるんだからな」
俺はそう言って車のエンジンをふかす。
「では、また、ヤヌス」
「ああ、またなケルベロス」
デコピン一つお見舞いして俺は車を発進させる。俺的には三つ顔がある
(outcase:xx年後にありうるかもしれない未来)