109
そうして魔法使いは笑った
「そういえば、堀先輩」
メールを送り終えてから、台本を握りしめた堀先輩にを見ます。今回も私は演出組です。
「なんだ?」
「あの時、一葉兄さんに何を言われたんですか?」
私の質問に堀先輩は目を見開きました。そして、目を泳がせます。
「あー」
「?」
「そのうち教えてやるよ」
堀先輩はそう言って私の頭を台本でコツンと叩きます。秘密にされると気になりますね。秘密主義の私が言えたことではありませんが。とりあえず、「ではそのうちに」と答えて舞台を見ます。何か堀先輩がつぶやきましたが、遊さんが私に抱きついてきたため聞こえませんでした。
「そういや、この前の近宮のマジックすごかったな」
「ありがとうございます。でも、まだまだですよ」
そう言って肩をすくめます。
「あれで!? 充分凄かったよ!」
「ありがとう、遊さん。でも、目指すは兄や母みたいなマジシャンですから」
「えー、いいなぁ、二人共また近宮ちゃんのマジック見たの?」
そう尋ねた先輩に堀先輩と遊さんが顔を見合わせます。そして、遊さんがほうきを持ってきました。
「またですか」
「うん」
「え。なになに?」
よってきた部員に息をはきます。箒に座り、軽くジャンプしました。そのまま浮いた体に、部員だけでなく、体育館にいた他の部の方々も止まりました。調子に乗りましょう。指を鳴らせば、ハラリとバラの花弁が周りにまいます。歓声を上げた周りに、地面に降りて一礼をします。やはり気分がいいですね。
「いっつも思うけど、タネどうなってんだ」
そう告げた堀先輩に肩をすくめます。
「タネはないかもしれませんよ?」
「は?」
「堀先輩はごぞんじでしょう? 私の二つ名」
「遥の二つ名?」
「ええ」
遊さんの言葉に相槌を打って、箒で周りをはきます。花弁を集めて上着を落とし指を鳴らせばそれは鳩に変わり、鳩達は窓の外へ飛んでいきました。
「私は幸せと驚きをはこぶ『魔法使い』ですので」
そう振り返って笑えば、二人は顔を見合わせました。その表情がとてもおもしろかった、とだけ言っておきましょうか。
――ちなみに、『そのうち』が来るのは、だいぶ先のことだとはこの時の私は知りませんし、内容も全く知りません。しかし、彼が告げてくれたので良かったとだけ言っておきましょう。内容は私と堀先輩、一葉兄さんだけの秘密です。
月刊マジック 近宮さん (終)
PREV BACK NEXT