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魔法使いと二人の兄
眼の前にいるのは一葉兄さんです。ニコニコと笑っている彼と私の間にはコーヒーとパフェがあります。そうです、いつものようにいきなり現れた彼にいつもの喫茶店に連れてこられたわけです。が、周りはもしかしなくとも全員演劇部の方です。そういや、遊さんがアルバイトをすると言っていた気もします。と、いうか、奥から遊さんが出てきました。なるほど、バイト先でしたか。
「最近、一葉兄さんは何してるんですか?」
「建物巡りかな。遙一から手帳を貰ってね。そこに書かれている建物を巡ってるんだ」
「お仕事は?」
「してるよ、勿論。今日も午前中にクライアントに会ってきた」
「……お疲れなら休まれては?」
「遥に会いたかったから」
そう口端をあげた彼に、後ろにいた演劇部の先輩が少しざわめきます。彼らは私が彼を兄とよんだことを気づいていないのでしょうか。
「遥は最近どう?」
「いつも通りです。学校生活を楽しんでます」
「青春してるみたいだけど」
「……はい?」
「違ったかな? 『恋しよっ』を読んだらそういう内容だったけど」
「違います、あれはフィクションです」
「あ、堀くんだ」
「またそんな見え透いた嘘を――」
私の言葉を遮るように、ゴッという音が聞こえます。もしかしなくとも。扉の方をみれば、遊さんが堀先輩に殴られていました。隣には若松くんがいます。恐らく、アルバイト姿を見に来たんでしょう。一葉兄さんを見れば、彼はまだ笑んでいます。
「マジシャンとして復帰予定は?」
「相変わらず卒業してからですよ」
「そう、楽しみにしておこう」
「ありがとうございます」
そこからまた雑談に入ります。途中、遊さんが水を持ってきましたが、彼女は「遥のお兄さんだ〜」と笑って水をつぐとそのまままた戻っていきました。通報するかと思えばしません。店側の対応を疑いたいですね。犯罪者がいますよ。そう考えていれば、荒い足音が聞こえます。そして、その足音の主は私達のテーブルで止まると、机をたたきました。
「一葉、いい加減にしてください。遥を連れまわすな、と何度も言ってるはずですが」
そう告げたのは遙一兄さんです。眉を逆ハの字にした彼をおいて、私はパフェを食べ進めます。美味しい。現実逃避です。そのまま視線を移動させれば堀先輩と遊さんと若松くんと目が会いました。口喧嘩に発展していく二人――といっても遙一兄さんが文句を言って一葉兄さんがそれをかわしたり時々言い返しているだけですが――に息を吐きます。なんというか、デジャヴです。
とりあえず、遙一兄さんを隣に座らせて一葉兄さんの口にパフェを掬ったスプーンを運びます。それを食べた一葉兄さんに、遙一兄さんが目を見開きました。
「美味しかったよ、遥。遙一もきたことだ、僕はお暇しよう」
「はい、また」
「遥、『また』はなくていいんだ」
そう首を左右に振った遙一兄さんに、一葉兄さんは肩をすくめました。そしてそのまま伝票を持ってたちあがります。
「じゃあ、遙一、遥を任せたよ」
「貴方に言われなくとも」
「じゃあね、遥。今度は一緒に宝探ししようか」
「ええ、」
私が頷いたのを確認すると、一葉兄さんは堀先輩のテーブルに向かい、何か告げます。目を瞬いた堀先輩が頷くと、一葉兄さんは上機嫌にレジに向かいました。何を言ったんでしょうか。
遊さんが会計らしく、そこで一言二言はなします。そして会計が終わると、彼は店内を見ました。
「妹を頼むよ、浪漫学園演劇部の皆さん」
その発言に、周りの視線が私に向きました。
「近宮ちゃんの」
「お兄さん」
――。犯罪者であることは演劇部の皆さんはしらないはずです。遙一兄さんはため息を付きました。そして、立ち上がると一礼します。
「いつも妹がお世話になっています」
その発言にざわついたのは演劇部だけではありません。お店の人も、です。なんでしょうか。でも、そちらより問題なのは、この場をどう切り抜けるか、いえ、明日の部活までどう切り抜けるか、です。頭を抱えれば、兄は目の前の席に座り直します。
「遥、」
「……なんですか?」
「――いいえ、今日の夕飯は何処かに食べに行きますか」
そう緩やかに笑った兄にうなずこうとしますが、ああ、でも、と思います。
「それなら、久しぶりに一緒に料理を作りたいです。最近、御飯を食べるのもバラバラだったから」
遙一兄さんの作るハンバーグが好き。
眉尻を下げて告げれば、兄はキョトンとしてから片手で顔を隠しました。コレは照れているのでしょう。
「うん、もちろん。それを食べ終えたら、材料を買って帰ろうか」
「はい」
――その後知ったことですが。あの時一葉兄さんは演劇部の分を全部払っていたそうで。店員さんがざわついたのは、私がいつも三角関係の修羅場にいると思っていたかららしく。演劇部の先輩たちに一葉兄さんにお礼をいうよう言われたのでメールを送ります。恐らく国内にいるでしょう。
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