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復讐劇、閉幕




 それは、随分昔のことに思えます。その当時の私は母に連れられ、各国を回っていました。厳しくも優しい母の元でマジックの修行もし、幼いながらもステージに立ちました。成長するにつれ、私は魔術団の花形マジシャンとなっていきました。そして、ステージに付属する二つ名も変わっていきました。
 ――ピーターパン
 ――魔法使いの弟子。
 ――ステージ上の魔法使い。
 ――夢の魔法使い
 魔法使い。それはまさしく、マジシャンである私にとっては光栄なそれでした。私は楽しく日々を送っていたのです。同い年の友人などはいません。しかし、それを気にすることもなく、忙しい毎日を過ごしていました。そして、その日々が続くと思っていたのです。あの事件が、起こるまでは。そう、ずっと。



 殺してやる。

 ぎゅっと手を握ります。皮膚に伸びた爪が食い込もうが、出血しようが、私には関係がありません。いえ、感覚がなかったのです。

 絶対に、殺してやる。

 目が覚めて『母が死んだ』とマネージャーから聞かされました。警察が来て私に事故だと告げます。私がいくらアレは事故ではないと証言しようと、警察は聞き入れませんでした。
 母がいなくなってしまえば、私はただ一人なのです。親族は他に知りません。母が、母だけが、私の世界でした。
 それは、昔、ふとした瞬間に思い出した記憶も関係があるのでしょう。その記憶でも、母は死に、私は同じように復讐に身を落としたのです。裁いてくれない警察にしびれを切らし、母を殺した犯人を。この手で。
 わかっていたはずでした。母は彼らに殺されると。しかし、いくら警戒しても起こらないそれに起こらないのだろうと安心したのは私でした。私は母を救えたはずでした。

 ――しかし、現実は。

 復讐をする、と決めました。目がさめてから、私は涙は流したことはありませんでした。医者や看護師はひそひそとそんな私を嘲笑いました。そして、言いました。

 親が死んだのになかないなんて、なんて冷徹な人間なのか、と。

 それからは単純です。毎日、リハビリをするだけです。時たま、魔術団のマネージャーが訪ねて来ることはありました。しかし、私はどう対応していたか、はっきり覚えていません。恐らく冷たくあしらっていたのでしょう。しかし、そんな私を気にすることなく、彼は数日おきに来ていました。
 


 そんなある日のことです。彼が、君に会わせたい人がいる、と告げたのは。断る私に、マネージャーは無理やり彼を連れてきました。私は彼を見て目を見開きました。

 同じ、髪の色です。
 ――日本人によくある黒なのだから当たり前でしょう。
 同じような、顔立ちでした。
 ――垂れ目の人間なんて何百万人といます。
 同じ、瞳の色でした。

 双方しばらく動きを止めていましたが、彼は私の頭をおそるおそる撫でました。

「――君が、近宮遥ちゃん、?」

彼の問いに答えず、私は病室の扉あたりを見ます。マネージャーはいなくなっていました。

「僕は、高遠遙一。君の、――兄だ」

 その言葉に、私は彼を見上げました。嘘だと疑うこともできます。彼が私を操るのでは、と思うこともできます。しかし、私の直感は、彼は兄だと、血の繋がった兄だと言います。
 私の視界がぼやけるのがわかりました。涙がポロポロと流れるのもわかります。彼はそれに目を見開きました。涙を止める術が思い浮かびません。ただひたすら涙をこぼし続ける私を見て、彼はゆっくりと私を抱きしめました。

「母さんは殺されたんだろう?」
「はい」
「君も殺されかけた。怖かっただろう。今も殺しにくるんじゃないか、と不安なんだろう?」
「っ、殺しに来たなら私は殺しに行きます」
「それはダメだ。君は近宮玲子の娘なんだから。僕が殺す。君に危害を与えないように。大丈夫、僕が守ってみせる」

 彼の言葉に首を振ります。

「いいえ、貴方は手を汚さないで」
「――遥、君は人を殺しちゃいけない。それは私の役目だ」
「嫌だ、お願いだからっ、私を一人にしないで、兄さん」

 それは、本心でした。そして、私の世界が広がる瞬間でもありました。
 彼が息を飲んだのがわかりました。彼はゆっくりと私を離すと、私を見ました。彼の目が少し潤んでいたのは気のせいでしょうか。いえ。

「わかった。遥が大人になるまで、僕は君のそばにいる。だから、遥も僕を一人にしないで」

 そう笑った彼は涙をこぼしたので、気のせいではないのでしょう。その日から、私と兄は家族になりました。それは浪漫学園に転入する、半年ほど前のことでした。

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