8
場所限定高所恐怖症



 最近、女の子にモテ始めました。どうしてでしょうか、と零せば紳士系敬語キャラがいなかったからな、と御子柴くんが言いました。紳士系キャラ、といえば、明智くんであり私は悪役なのですが……メタなことは黙っておきましょう。そう言えば、恋しよっ! に出てくる私と思しき人物も、紳士系のキャラでした。最近専ら女の子に似てる! と騒がれます。まぁ、似てるも何も、恐らくモデルですし。

 そろそろ部活に行くので、と御子柴くんに告げて、鹿島さん、基、遊さんは堀先輩が捕まえるだろうと彼女と合流することなく体育館へ向かいます。体育館の舞台へ行くと、堀先輩と遊さんが舞台上部に上がっていました。どくん、と心臓が跳ねて目を見開いたのは仕方がないでしょう。

「あ! 遥だ! おーい! みてみてー!」

 にこやかに手を振った遊さんに、舞台上部に慌てて足を運ぶのが自分でもわかりました。舞台上部に上がると、クイっと遊さんの裾を引っ張ります。ん?と首を傾げた彼女には危機感がありません。落ちたらどうする気でしょうか。もし、落ちてしまえば、死ぬということを彼女は理解しているんでしょうか。

「ん、あ!? 近宮!? お前、命綱つけてないだろ!」

 堀先輩の言葉にハッとしました。確かに、遊さんと堀先輩には腰には命綱がありました。私や母、あの魔術団員のように舞台上部に慣れていないからなのか、それとも、高校だからこそ安全管理を徹底しているのかはわかりませんが。私のはやとちりのようです。息をゆるりと吐いて、2人から視線を外します。

「遊さんが、落ちるかと思って」
「遥が私の心配!? やったー!」

 そこで、間違いに気づきました。下をむけば、あの日の光景がフラッシュバックするではありませんか。足が震えるのがわかります。顔を歪めて、とりあえず、遊さんに抱きついてしまうのは仕方がありません。今は、違うんだと言い聞かせますが、体は言うことをききません。固まった彼女に、堀先輩が首をかしげたのがわかりました。

「近宮、どうした?」
「高いところが、改めて苦手だと思っただけです」

 そう言えば、2人だけではなく周りも無言に。そして遊さんと堀先輩に下へ降ろされ、周りからめちゃくちゃ構われました。その後やはり少女漫画にも使用されました。それはまぁ、鹿島さんではなく堀先輩のキャラ(女)に対してになっていましたが。解せぬ。




「なんか意外だなぁ、遥さんが高いところがダメって」
「見事にギャップ萌えだな」

 野崎家にてその話が上がり、私は訂正を入れようとペンをおきます。

「高いところ、というか、舞台の上部が無理なだけなんですけどね」
「え、限定なの?」
「……実はというと、あそこから落ちたことがありまして」

 そう眉をハの字にすれば、堀先輩が顔をしかめました。

「よく無事だったな」
「無事は無事でしたが、三ヶ月ほど意識がなかったみたいですね」
「意識喪失……記憶喪失! そこからまた兄と一悶着……っ!」
「残念ながら、記憶喪失は起きてませんよ」
 起きたほうがよかったかもしれませんが。

 そう言って自嘲します。忘れていれば、恨みにかられることも恐怖もなかったでしょう。

「……近宮は漫画のキャラ並みに闇が濃いよな」
「それは自負してます」
「自負してるんだ」

 苦笑いした千代さんの言葉にもう一度ペンを持ちました。作業を再開させましょう。

「まぁ、周りがキャラが濃いのでこれぐらいが妥当かもしれませんね」

 そう告げれば全員が、ああ、という顔をしました。恐らく自分以外を思い浮かべているんでしょう。貴方達全員ですよ、と心の中でつぶやいておきました。

PREV BACK NEXT