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古傷と事実は=です
「声楽部のローレライ」
「そうです!近宮先輩なにかしりませんか?」
そう言ってきた若松くんを見ます。そして、「申し訳ありませんが」と言えば「そうですか」落ち込んだ彼に純粋だなぁ、と思いました。綺麗なピュアですね。いじめてはいけないタイプ。
だから、瀬尾さんとも仲がいいのでしょう。
しかし、ローレライとは。彼はローレライの神話を知っているんでしょうか。アレはいいものではありません。そこから瀬尾さんに結びついてもおかしくはない気がしますが。まぁ、人の想像力は偉大ですし、そっとしておきましょう。
そのまま若松くんと別れると、三年の男子生徒に呼び止められました。顔が怒っているのがわかります。話を聞けば、彼女が私にお熱だとかなんとか言われました。なにそれ面倒臭い。遊さんはどうやって切り抜けるのでしょうか。
話を右から左していれば、業を煮やしたらしい先輩がまた口を開きます。
「お前、あの転落事故で死んだ近宮玲子の娘なんだってな。あの事件から舞台へ上がってないらしいじゃねーか」
ぴくり、と体が反応しました。
「まぁ、お前みたいなマジシャンは舞台に立たなくて正解だよな! だからあの山神とかいうマジシャンに引き抜かれなかったんだろ?」
ダメだ、とはわかっていますが、ふつふつと怒りが登ってきます。ああ、いけない、と怒りを逃がそうとしますが、相手の口はまだ動きます。
「お前も一緒に落ちたんだろ? どんな気分だったよ、自分は助かって、母親は死んで。それでものうのうと高校生活送ってんだもんな。神経図太すぎるだろ」
ニヤニヤと笑う彼に、周りにいた友人は引いていますが、彼は気づいてないんでしょう。周りの音が静かになりました。それは、周りの音が遠くなったことも、周りにいた人が黙ったのもあるのでしょう。
「……残念な貴方にはそう見えるのでしょうね」
「っんだと!」
「周りを見渡してみなさい。貴方、友人にさえひかれてますよ」
「それはお前にひいてるだけだろ」
「そう、ですか」
クスリ、と笑い彼を見る。たじろいだ彼に、「貴方にはわからないでしょうね」と告げれば彼はなにを思ったのか手を振り上げ、私をぶちました。痛い。そのまま踏ん反り返って帰る彼を眺めて、息を吐きます。バタバタという音が聞こえます。その音にざわめきも戻ってきました。堀先輩が三年の先輩に引き攣られてやってきます。どうやら音はそれだったようです。
「大丈夫か!? 近宮!」
「これくらい大丈夫です。古傷を抉られましたが、大丈夫です」
「古傷? って、おいおい、頬腫れてんぞ。保健室、」
「一人でいけますよ。子供ではありませんから」
フルフルと首を振れば、彼はため息をつきました。私はそれを見て、同じく息を吐きます。
「遥ー!!って、うわぁ! 頬腫れちゃってるよ! 保健室行かないと!」
「鹿島、近宮連れてってくれ」
「堀先輩は?」
「ちょっとアイツしめてくるわ」
そう言って走り去った先輩をポカンと見つめます。近くにいた三年の先輩が、「堀ちゃんは近宮ちゃんの顔も大好きだからなぁ」と呟いたのが聞こえましたが、それは無視したほうが恐らくは賢明でしょう。遊さんにじゃれつくように歩けば、女子生徒から悲鳴が上がりました。気にしないでおきましょうか。
頬に大きな湿布を貼られてしまいました。とりあえず、遊さんにひっついておきます。シラナイヒトコワイ。冗談です。私の気分とは反比例し、遊さんが気分ハイですが気にしません。恐らく、私がへばりついているからでしょう。
「わ!鹿島くんと遥さんがいちゃついてる!」
千代さんの声に流石に顔を上げます。いちゃついてはいません。
「そーそー、遥のデレ期なんだよ!」
「でもどうしたの? 遥さんが堀先輩にそういう事されるの珍しいね」
「あー、これは、」
「私が堀先輩を本能のままに襲ったら返り討ちにされました」
「えっ!?」
「まぁ、嘘ですけど」
「えっ!?」
「三年の先輩に殴られました。知らないうちに彼女が私にお熱になったそうです」
遊さんにもたれるのを辞めて肩をすくめます。千代さんは眉を八の字にしました。
「大丈夫なの?」
「男なら勲章ものでしょうか。頬より古傷抉られたほうが痛いですが、まぁ、なんとかなりますよ」
そう言って笑えば、千代さんは顔を真っ赤にしました。女の子は可愛らしいですね。
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