「山下さん、怒ってます?」

 そう苦笑いして訪ねてきたプロデューサーに、そんなことないよ、と言う。説得力が皆無のそれだろう。現に、プロデューサーは困っている。怒りを逃がそうとため息を付くけども、そんなことで怒りは逃げそうもない。そんな俺を見てるいが口を開く。

「こんなとき、ミス・柊がいればミスターやましたがアングリーな理由がわかるのになぁ」

 そうぼやいたるいに、はざまさんが「そういえばそうだな」といったのがわかる。当のその子が俺の苛立ちの原因であるのだが、二人は知る由もないだろう。
 なんで、天道さんのはなしをふってきたか、とか。なんで俺ではなく天道さんに会いに来るのか、だとか、なんで差し入れを彼にだけ渡すのだ、とか。他の人からすれば些細な事だ。そして、嫉妬でもある。
 いやというほどわかるが、柊はまだまだ子供で意図せずにやっているだけなんだろう。
 いつも、そうだ。昔から。いつの間にか化学準備室にいつくようになって、追い払うのが面倒になった頃にはちゃっかり自分のカップを準備して、それを注意すれば子供のように笑うのだ。随分と大きな子供になつかれたものだな、とおもった。
 そして、今の関係はその延長線上だ。そう、延長線だからこそ、こんなにイライラとしている。

 プロデューサーはるいをみて、「そうなんですか?」と首を傾げる。

「そうなんだよ〜。ミス・柊はfollowも上手くて、ミスターやましたの機嫌のfollowをしてたんだよ」
「それは……教えを請わないと」
「は?フォロー?」
「気づいていなかったのか」

 はざまさんのことばに、思考を巡らせる。コーヒーを零した時、確かにアイツは代わりのクッションを持ってきて俺に渡した。だから、許そうと思った。思えば、俺が別のことでイライラしているときは、手伝ってくれる量が増えている。ああ、なるほど。たしかに柊は俺を気持ち面でフォローしていたらしい。
 なら、なんで今回はそのフォローをしてこないんだろうか。

 ――先生、なんで怒ってるんですか。

 そういえば、今まで柊はなんやかんや俺の怒りのワケを聞いてこなかった。俺が怒っている理由も、ソレをカバーする方法もわからないのだろう。

「――柊といえば」

 話を逸らすように、口を開く。三人がコチラを向いた。

「この前、なんで天道さんと?」
「ああ、アレは柊さんが池に落ちたのを天道さんが助けたらしくって」
「はぁ?池に落ちた?」
「ええ、なんでも、撮影場所の公園で前にいた女性ファンに押されて池に落ちてしまったようですよ。ほら、あの自然公園」
「……なんでまた撮影場所なんかに」
「たしか、柊さんの大学はその公園の奥じゃなかったかな」
「ええ、帰り道に遭遇してしまったようです」
「……プロデューサーちゃんはなんでそんなに知ってるの」
「彼女とラインのやり取りしてますから」
「へぇ、アンタの好みってああいう子なのか。ふぅん」
「何言ってるんですか。貴方の出る番組を教えてるだけですよ」
「は?」
「貴方が教えてくれないからって」

 そう言ったプロデューサーは俺を見る。そして、「ああ、なるほど」と呟いた。俺は頭を抱える。これは。これは一方的に俺が悪いとしか言いようが無い。

「彼女、アルバイトやめたんですよね」
「……はぁ?」
「何が原因なんでしょうかねぇ。貴方から返信来ないってしょげてましたねぇ」

 どこかニヤニヤとしているプロデューサーから目をそらす。るい達は何かを察したのか俺を見た。

「まさかとは思うが学生中に手を出してないな?」
「ないない。いや、アイツ、子供だから――ほら、な?」
「ほら、の意味がわかりませんよ」
「そうだよ、ミスターやました。ミス柊は大学生だし、早くあやまらないと取られちゃうよ?」
「とられるって……」
「違うの?」
「いや、違わないけど」
「でしょ?」
「彼女と話してこい」

 そう言ってはざまさんにため息を付く。話し、といっても。視線をうろうろとさせていれば、トン、とプロデューサーが肩をたたいた。

「脈があるって実はわかってるんでしょう?」