2年前位だったか。ハンターライセンスは殺し屋業にとってかなり重要なアイテムで、それを聞いた私は試験を受けに行った。生温いものでは無かったけれど、まあそれなりに楽しむことが出来たし、なにより情報もかなり集めることも出来た。
そんな私は今、とある屋敷の頭首の首を狩るという仕事を引き受け、その屋敷にいるのである。中は思っていたよりも広く、置いてあるものはかなりお高めな品ばかりだった。まあ、こういう豪邸は見慣れているからあまり驚かないけれど。
「…意外にセキュリティーが弱いわね」
ホールの裏口からこっそりと忍び寄り、円を使ってセキュリティーを確かめる。セキュリティーを軽々と避け、足音を立てないように慎重に、かつ足早に進む。
今日、この豪邸では契約会社とのパーティーを行っているらしい。まさか命を狙われているとはつい知らず、招待された客は呑気に酒を飲み、娯楽に呑まれている。真昼間から酒だなんて、憎たらしいったらありゃしない。
標的はホールの中のステージの上。真正面から突撃して逃げ道を無くすような馬鹿な真似は避けるべく、人目を避けるように部屋の端を通る。目立たない服装、かつちゃんとしたドレスコードで来たため、知り合いが居なければバレないだろう。
「…よし」
「何が“よし”なんだ?」
ふと後ろから聞こえた声にフリーズする。1年ほど前だけれど、どこか聞き覚えのある声。恐る恐る後ろを振り向くと、そこには黒髪の青年が微笑を浮かべて立っていた。額の十字架は包帯で隠れているが、やはり。
「…背後から迫らないでちょうだい。心臓に悪いのよ」
「悪い悪い」
全く悪いと思っていなさそうな顔で平謝りするクロロに軽く殺意が湧いたため、怒りを抑えるためにも彼に腹パンをかましてやる。
「ところで、なんで貴方がここにいる訳?」
「ああ、今日はあるものを盗みに来たんだ」
「ふぅん、あるもの?」
含み笑いをする彼に少し警戒心を持つ。この笑みは、絶対に何か企んでいる証拠だ。せめて、私と関係ないモノだといいのだが。
「エルザ。俺と一緒に来ないか?」
「……は?」
なんだか私と関係が大あり…いや、むしろ私の問題らしい。何故こうもクロロと会うと災いが私の元へ来るのだろうか。本当に、御免被りたい。
「どういうこと?」
「お前も、俺が“幻影旅団”だってことは知ってるんだろ?」
「まあね。あれだけ派手に暴れていれば知りたくなくとも耳に入ってくるわよ」
クロロに出会ったあの日から1ヶ月後程に、その噂はやってきた。“幻影旅団”という盗賊が悪さをしていると。と言っても、“悪さ”と表現できるほど可愛らしいものでもないが。
「なら話は簡単だ。幻影旅団に入れ」
「……はぁ。貴方、自分がどれだけ滅茶苦茶な事を言っているか理解しているの?」
「いや、理解していないな。これが俺の“普通”だ」
表情はひとつ変わらず、余裕そうに受け答えをするクロロ。むしろ潔い…いや、潔すぎるその回答に頭が痛くなってくる。
「で?旅団に入って、私にメリットはあるの?」
「今の仕事よりももっと自由に活動できる。有能な仲間もいるから、情報量も多くなる」
まあ、自由に活動出来るのはすごくありがたい。それに言われずとも団員一人一人が強いのはよく知っている。そこを考えると、作業効率も成功率も格段にアップするかもしれない。情報収集に関しても、手間が省けて良さそうだ。
…だが、そう簡単に誘いに乗ってもいいものか?今まで私に災いをもたらしてきた大悪魔からの誘いだぞ?ここは自分の中で慎重に審議をしなくては。
「それだけ?それが欲しいのならとっくのとうに仲間なんて作ってるわよ」
「はは、厳しいな」
「当然よ。で、後は何もメリットはないの?ないのなら断るしか無いのだけれど」
少し目を細め、急かすように睨みを効かせる。興味が無いことは無いのだけれど、現時点で入りたいとも思わない。だからこそ、クロロが私に興味を持たせることが出来るかどうかが楽しみで仕方が無いのだ。
「そうだな……。俺と来れば、今までより広い世界を見せてやる。きっと、退屈しない日々になると思うんだがな?」
広い、世界。
その短い単語を耳にして、少しだけ自分の過去を思い出す。小さい箱庭に閉じ込められていた私は、今こうしてフリーランスで殺し屋をする事が出来ている。それだけでも広い世界になったと言うのに、彼はもっと広い世界を見せてくれると断言した。その言葉の魅力と、私の微量の興味が私を動かした。気づいたら、私は口を開いていたのだ。
「……まあ、悪くないかもしれないわね」
「それは、OKということで?」
「そう捉えて構わないわ」
ふっと笑みを零し、先程までの警戒心を徐々に解いていく。
簡単に許すものなのだな、と嘲笑われそうな返事だけれど、他人が思うより私は単純だ。こうしてこっちにプラスがあるのなら私はそれを受け入れるつもりである。
まあそれに、つまらなくなったら抜ければいい。人に気づかれないようにして行動するのは昔から慣れている。
「じゃあ、精々楽しませて頂戴よ?リーダーさん」
「ああ、善処するよ」
どんなに歳をとっても何があるかなんて分からない。昔、友人がそのような事を言っていたのを思い出した。今、まさにその言葉がぴったりな気がしてならないのだ。
空っぽの私に、少しずつ存在意義を注いでくれる彼は、悪魔なんかじゃなくて。神様、なんて言い過ぎだけれど。
(楽しませてくれそうな事に変わりはないから)