目を開けたら全く知らない場所に居たとか、そんなおかしな話があってたまるか。と、前にヘンテコな本を読んでいて思ったものだ。だがしかしそんなおかしな話が今現在私の目の前で起こってしまっていては信じざるを得ない。……まあ要するに、私はいつの間にか知らない場所に立っていたということだ。理由は何となく検討がついている。先程まで戦っていた敵の術によって飛ばされたのだろう。私が記憶を飛ばす直前、敵が不敵な笑みを浮かべて私に向かって何か術を唱えていたのを思い出して、思わずため息を吐く。
「あー……どうせならナツを盾にすれば良かった……」
あいつなら誰よりも丈夫だしこんな術でさえ食べて自分の力にしてしまいそうなものだ。確かに私はナツと同じく滅龍魔道士で第1世代だが、もう…ナツは別物だろう。あいつと他の滅龍魔道士を比べてはいけない。うん、これは世の中の掟だ。
まあそれはともかく、ここが何処なのかを調べなくては。もしも敵が作った「世界」に誘導されたのなら罠が何処かに潜んでいるかもしれないし、慎重に行動をするべきだろう。キョロキョロと辺りを見回してみる。……が、周りは一面砂漠で、はるか遠くに街と思わしき影が見えるだけ。ウーン………人影も無いし………人影………。
「……み……ず」
「ってウオアアア!!?」
突然下から声がしたかと思えばガシリと私の足首を掴まれて思わず女とは思えない声が出てしまう。いや本当にびっくりした。私の足首を掴んだその人は私と歳があまり変わらなさそうな普通の少年で、こんな大きな砂漠に一人でいるなんて一体何があったのだろうか。……あ、そう言えば「みず」って言ってたよな?
「ねえ少年、水が欲しいの?」
「み、ず………くれ…」
途切れ途切れだがどうにかその言葉を読み取り、私は一言「分かった」と返事をする。私は屈んで少年の身体を仰向けにしてから、少年の顔に手を翳して「行くよー」と合図をする。と、私の手から滲み出るようにして大量の水がドバッと少年の顔を襲った。……あちゃー、流石に出しすぎだったかなぁ。心配になって少年の肩を揺さぶりながら声を掛ける。
「おーい、大丈」
「うおーー!生き返ったー!!」
「うっわ何この人回復早!!ナツかよ!!」
誰よりも回復が化け物並みに早かったナツと目の前の少年の姿が何となく似ている気がして、どこにでもこういう元気の塊!って感じの人はいるんだなあと思わず苦笑する。少年はそんな私なんて眼中に無いと言わんばかりにキョロキョロと辺りを見回し始める。何か捜し物でもあるのだろうか?
「なあ、おれの麦わら帽子知らないか?」
「え、麦わら帽子?見てないけど」
というかこの場所から一歩も動いてないんだから見てるわけ無いよね!なんて流石に言わないが。しかしこんな一面砂漠の中で麦わら帽子を見つけるなんて中々ハードな技なのでは…?と心配になって私も探すよと声を掛けると、おう、ありがとな!と満面の笑みを浮かべた少年を見て、ついこちらが小っ恥ずかしくなってしまう。そんな純粋な笑顔を浮かべる人が世の中にいたのか……すごいな……世の中捨てたもんじゃないな……。
それはともかく帽子探しを始めよう。そう思って少年に心当たりを聞いたら「知らん!」の一点張り。いや変なところで意地を張るなよ。
「あ、そう言えばゾロ達はどこ行った?」
「誰かと一緒だったの?」
「おう、おれの仲間だ!」
ニカッと効果音が付きそうなくらいの自慢げな笑顔でそう言う少年を見ていると、またナツと姿が重なって見えた。こんな光属性がナツ以外にもいたんだなあと、何度でも変に関心してしまう。…うーん、ナツ達元気にしてるかなあ。またグレイと喧嘩したり、ルーシィに迷惑を掛けたり……、おっと。いけないいけない。物思いに耽っている場合では無かった。どうにか頭を切り換えて帽子探しを再開する。一言、仲間が好きなんだねと声を掛けると、もちろんだ!と元気よく返事をする少年に思わず私も笑みを浮かべてしまう。
「……あ、もしかしてあれ?」
「?……あ!!おれの帽子!!」
よく目を凝らして遠くを探していると、見にくくはあるが赤いリボンが一巻きされた帽子のような物が見えて少年の肩をツンツンとつっつくと、少年は嬉しそうに帽子に駆け寄り片手で帽子をそっと掴むと、手慣れたように自らの頭にぽさっと被せた。初対面なのだけれど、妙にその帽子……麦わら帽子の似合う少年だなあと、何となく思った。何でかは分からないけど。あんな所で死にかけていたにも関わらずあの麦わら帽子を一生懸命探すのはきっと、相当大事な物なのだろう。…なら、見つかって良かった。
「見つけてくれてありがとな!これ、友達に貰った大切な帽子なんだ」
「いえいえ。大事な物なら私も探して良かったよ」
帽子を片手で押えながらくるりとこちらを振り返ってにっこりと笑いながら御礼を言う少年に、私も同じ笑顔を返す。大切な物を無くして不安になる気持ちは良く分かるから、捜し物をしている人を見つけるとどうしても放っておけなくなるのだ。そんなお節介な性格で、よくクエストを無駄にして帰って来てはルーシィやルーシィに怒られていたけど。……あれ?今思えばルーシィ怒りすぎでは?次いつ会えるかは分からないけど、会ったときは怒るのを辞めるように説得してみよう。うん、きっと分かってくれるよ!多分!…恐らく!
「じゃああとは仲間を探すだけだね」
「おう!」
彼の仲間を探した後、私も仲間の元へ戻る方法を探さなければ。しかしそこでふと気づいた。………私、この少年の名前聞いてないのでは?
「そう、そうだよ。名前!」
「名前?」
「そう、名前!君の名前聞いてなかったなと思って。ちなみに私はアリアだよ」
「そうか、アリアか。おれの名前はルフィ。よろしくな!」
不思議そうな顔をしながらも自己紹介をしてくれたルフィの名前を心の中で復唱して覚える。うん、ルフィ。よしルフィ。覚えたぞ。それを繰り返していると、何をしているのかと疑問に思ったのか私の顔を覗いて「だいじょぶか?」と私の目の前でぶんぶんと手を振ってきた。ハッとした私は慌てて「大丈夫!さ、行こっか」と言って、適当に前を指さしてみる。
「アリア!おれの仲間の居場所知ってたのか!?」
「え!?知らないよまずここがどこだかも分かってないもん!」
「アラバスタだ!」
「なにそれアラバスタ!?料理の名前!?」
「そんな食いもんあったのか!?美味いのか!?」
「えっ食べ物だったの!?美味しいなら食べてみたい!」
そんな頭の弱いマシンガントークをルフィの仲間達がずっと見ていたとは知らない私達は、止められるまで延々と喋り続けていたのだった。