それから2ヶ月程経った。
ひとりで育てると決めた直後、警察を辞め、隣町へと引越しをした。

降谷さんには何ひとつ言っていない。
人事に伝え、理由を聞かれたけれど申し訳ないながらにも適当な嘘をつき、退職という形になったのだ。

退職も、引越しも全て降谷さんにばれないように。

これまでも、そしてこれからもそう過ごしていく予定だ。



「はあ…」

「…お前さ、ほんとにひとりで育てんの?」


そんな今日は婦人科の定期検診を終え、会計待ちのためソファに座っている。
それなりに大きくなってきたお腹を撫でながら付き添いに来てくれている幼馴染と会話をする。
彼は私が妊娠が発覚し、全てを話したらいろいろと協力してくれているのだ。


「…うん、決めたからさ」

「はー…俺にはその相手も理解出来ねぇ…。だいたいなまえも言えばよかったんだよ。迷惑かけたくないったって男の責任だってあるんだから」

「……それでも迷惑かけたくなかったんだもん…」

「あー…ったく」


幼馴染が言いたいこともわかる。
おそらく逆の立場なら私も彼と同じことを言っていただろう。
だけどいざ自分がその立場になってみるとそうも言ってられないのだ。


「悪い、なまえが決めたことだもんな。とにかく元気な子産めよ!いつでも協力するからな!」

「…うん、ありがとう!」


そんな私に協力してくれてる幼馴染にはほんとに助けられている。彼には本当に感謝でしかない。

会計を済ませたあとは車で彼に送ってもらい、帰宅したんだ。


ーそのとき、後ろにいた白い車が私達のあとを付いてきているなんて…思ってもいなかった。












ーーーピンポーン


幼馴染に送ってもらい、帰宅してから10分くらい経った時、インターホンが鳴った。

「はーい」
「宅急便ですー」

ガチャっと訪問相手の確認の電話をとると宅急便の人が来たようだ。
アパートの構造上、訪問相手の顔は見えないため音声の確認となる。


「はーい、今行きますねー!」

宅配など頼んだ記憶はないが実家からなにかが届いたのだろう。
そう思いオートロック、玄関の鍵、ドアと順番に開け、宅配人だと思っていた相手を見て私は絶句した。


「っ!?」

「久しぶりだな、みょうじ」


そこにいたのは、今後会わないように、事実を悟られないようにと決めた………降谷さんだったんだ。


「な、んで」


私は驚きと絶望と、様々な思いから頭が真っ白になってしまう。
なんで降谷さんがここにいるんだ。

逃げるようにすぐにドアを閉めようとしたけれど、外側から降谷さんはドアノブを引いているためそれはできなかった。
男女の力の関係上、ドアを閉めることはできずに私は降谷さんの顔をただ見つめることしかできない。

そんな降谷さんの表情は若干怒っているのか、睨みつけながら私を見下ろしている。

そして「失礼する」と一言言って足を玄関に踏み入れた。
ガチャンとドアの閉まる音が嫌に響いたのだ。


「僕に何か言うことはないのか」

「………」


降谷さんの質問に答えることが出来ない。
これまで聞いてきた中で初めて聞く冷たい声だ。

…怖い。顔を見ることが出来ず、私は俯いてしまう。
降谷さんが聞きたいのは警察を黙ってやめたことだろう。それはわかっている。

ほら、頑張って言え私。
家の都合で辞めてしまいました、と。黙っていてすみませんでした、と。そう言えばそれで済むはずなのに。

でも子どものことはなんて言う?
どうしよう、どうすればいい。

この状況に体が震え、声が出ない。


「ないのかと聞いている!」

「…!」


しかしそんな私の何も言えずに黙り続けているのが引き金となったようで、降谷さんはダンっと乱暴に私を壁に押し付け、声を荒らげた。
そして言葉を続ける。


「はっ、何も言えないのか」
「黙って警察を辞めたと思ったらなんだ、子どもができていたとはな」
「相手は今日一緒にいた奴なんだろ?僕とやったことで気まずくなってやめたのか!?」

「、ちが…!」

「みょうじは俺を弄んでたって言うのか…!」


なに、どういうこと。

今日のことを降谷さんに見られていたと。
そして子どもがいるということもばれてしまったと。
それは理解した。どう説明すればいいのか悩む。

…だけどその前に

なぜ降谷さんはそんな苦しそうに言うの。
どうして眉をひそめて切なげな表情で言うの。

降谷さん、そんな風に言うなんて…もしかしたらと勘違いしてしまいます。


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