朧
夜、ひどく明るい満月の光が眩しくなまえは寝苦しさを覚えた。早く眠りたいのに、それをさせないのは月灯りのせいだけではないことが、余計になまえを苛立たせる。
なまえの心を乱すのは数時間前、突如下された色を伴う暗殺の指令故である。汚い狸爺共にこの身体を穢されるのか、と考えるだけで嫌悪感が甚だしい。それにこのような組織に身を置いても尚、恋い焦がれるヒトがいるから尚のこと、なまえは心苦しかった。
そっと下腹部に手を置く。幼い頃から身寄りが無く、この組織に何の選択肢もなく身を置かざるを得なかった自分。そして、その自分を人生を変えた先代首領、そして何よりあの人に忠を尽くすと誓った、兄弟子。彼らを思い浮かべながら、焦がれる人の妻になることも、子を孕むことすら望めぬ己のさだめに、なまえはほとほと嫌気がさし、辟易としてしまった。
ふう、となまえが浅い息を吐くと、月灯り照らされる部屋の障子に、人型の影が出来ている。その見慣れた影に、なまえは居住いを正した。それを見計らったように、その影の正体ーーー兄弟子、朧が障子を開ける。
「頭、かような時間にどうかなさいましたか」
そう問いかけるなまえであったが、朧は返事をせず、後ろ手で障子を閉めた。なまえはその様子に違和感を覚えたが、彼の装束は、いつも朧が寝間着として来ている白い着物で、これが奈落の首領としての訪問ではなく、朧個人としての訪問であることが想像できた。故に、なまえは表情を緩め、朧を見つめて言葉を待つ。
その様子を見た朧は、なまえの正座する布団の上におもむろに座り、口を開いた。
「お前の、次の任務の話を聞いた」
どくん、となまえの心臓が跳ねた。一番、触れて欲しくない男にそう尋ねられ、彼女は動揺する。目を泳がせたなまえを見て、朧は浅く息を吐き出した。
「お前は、男を知っているのか」
「知りませんよ、こんな生活していて、男と遊ぶ暇なんてありませんでしたから」