絶対、あそこで頭ぽんは要らんかったと思う。と、数日前のロケ車でのことを思い出す。12月上旬、8話目の撮影はなんだか久しぶりな気のする家で行われた。本日、わた婚の1話が配信されるということで、それを駿くんと見なければならないらしい。謎の苦行だ。 22時すぎ。お互いにパジャマで、私はアザくんを抱き締めながら軽い打ち合わせ。単なる流れの確認だ。当の私はというと…今日から私は批判されまくって、夫婦インスタが荒れに荒れることを危惧している。私自身のインスタは、これに備えて2ヵ月ほど前からコメント欄は閉めた。 「はぁ…。」 「眠たい?」 「ちがうよ…。」 じゃあどうしたん?と言わんばかりの駿くんに、八つ当たりMAXで可愛いパンチを肩にお見舞い。ソファの隣に座っていた彼は、大げさによろけて大げさに驚いていた。 「骨ボッキボキなった…」 「私の寿命はあと1時間だというのに…っ」 「何なん、どうしたん」 「公開がぁ…!」 「公開?あっ ア"ァ"…。と小さく頷くと、彼はよろけた体制から隣に戻ってきた。ビックリするぐらい項垂れる私を、覗き込むように見上げてくる。その気配を感じて、おちゃらけた雰囲気が消えた音がした。ぽつりぽつり、言葉を漏らす。 「駿くんが…悪いわけじゃないんだよ…。」 「、うん」 「批判されることも承知で出演したのに…。いざとなると怖くて」 「……そっか、」 あー。本当はこんなこと本人に言うべきじゃないのに。もう心のブロッカーが緩すぎてる。気付けば周りのスタッフさんも静かになっていて、やってしまったなぁと反省する。すぐにプロデューサーさんや、スタッフさんからフォローの声が飛んでくる。でもやはり、傷付くと分かっていてもしてしまうエゴサ。必ずボコボコにされるだろう。 肩に手が回ってきて、少し引き寄せられる。駿くんの鎖骨部分に私の頭が軽く当たって、また優しくされてるなぁと嬉しくなったり申し訳なくなったり、。 「…ごめんね、名前ちゃん」 「ううん私こそ弱音吐いてゴメン。演者失格だよ…」 「いや、そんなことない。俺は言ってくれて嬉しかった。夫婦なんやから何でも言ってよ」 「……ありがとね。」 事務所には、炎上女優でいいと言われた。その対処もする準備は出来ている、とマネージャーも言っていた。…足らないのは、私の覚悟だ。今更って感じだけど、目の前にすると怖くなる。まだまだ俳優なんて言えないな、私。でも、仕事は仕事だ。やり遂げなければならない。両頬をバチンと叩いた。 「重い空気にしちゃってすみません!名字、大丈夫です!」 「よっ、世界一のお嫁さん!」 「うっせー旦那!髪引っこ抜くぞ!」 「えっなんで!?怖ぁやっぱいいです…」 「返品不可じゃー!」 なんて言い合う私達に、スタッフさんもみんな笑っていた。炎上でも何でも、名前が知れ渡るだけいいじゃないか。埋もれて誰か分からなくなるぐらいなら、道枝駿佑の嫁役の…って付いても、名前が知れるなら。次に、繋がるなら。 でも、そう思えたのは。確実にこの人のおかげだ。もう否定も見て見ぬフリも出来ない。 「名前ちゃん」 「ん?」 「やっぱかっけーな。さすが。」 「はぁ?…何言ってんの」 「えぇ?照れてる?」 「照れてない!」 あーだこーだ言いながら、23時前から撮影は始まった。終了したのが0時半で、その後一緒に夫婦のインスタを見た。フォロワー数もうなぎ登りで増えてはいたが、そりゃまぁ荒れ放題で…。批評コメントはスタッフさんが削除するらしいが、量が多すぎるのでどうしたもんか…と裏でこっそり頭を抱えてる姿が見えた。 ごめんね、でも私はなんだか清々しい気持ちだった。いや、開き直ったというべきか。みんな私を知ってくれるなら、その方法は選ばない。もう、それでいいじゃないか。あー、こんな気持ちにさせてくれる君は一体何者なんだろう。やさしくて、甘い刺激物のような。 「おーい。撮るよー」 「はいはい!」 インカメで自撮り体制の駿くんに呼ばれて、隣に駆け寄る。頬をぺったりくっつけてくるものだから、君も開き直ったんだなぁと思った。なんて一生懸命、正当化することで高鳴る心臓を誤魔化している。…もうそろそろ無理だよなぁ。 「自撮りってむずない?」 「そう?盛れるやん」 「えっ盛らんでも十分かわいいやん」 「……どうしたん?」 「いや事実を「あー分かった分かったやめてー」 「今日よく照れるなぁ」 「誰のせいやと!!」 今日も仲良しでした。あと多分、あなたが好きです。ちゃんちゃん。 2022.8.4 |