…こうなることは何となく想像出来ていた。 「懐かしいなぁー」 「……デスネ。」 「アハハ。確かあの時はホラー映画見たよな」 「あー…そだったね。うん思い出してきた」 駿くんの足の間にちょこんと座る。罰ゲームというか、なんだろうある意味ご褒美…だが、恥じらいが大優勝。思い出すフリをした言葉も、何の嘘か。忘れるはずがない、幸せだったあの頃の記憶。あの時と同じように、背中なんて預けられない私を知ってか、腕を引かれて彼の胸板に背中が飛び込む。驚いて顔を上げると、至近距離過ぎて離れる前に綺麗な顔が降ってくる。 「え、……」 言葉をやさしく遮るように、唇から伝わる一瞬の温もり。驚いてすぐ顎を引くも彼の左手がそれを防ぐように私の頬に添えられて、また重なる。啄むように、軽く触れられるそれが心臓に悪い。拒もうとしているわけじゃないのに、片手は駿くんの胸を押し返そうとしてしまって。でも、その手は彼の右手に絡められてしまう。 「…ん、……」 勝手に漏れる声が引き金だったのか、雰囲気の色が濃くなった気がした。途端に前のめりの駿くんに腰が引けて、知らぬ間に私の後頭部に手を当ててくれていた彼にそのまま押し倒される。その間も唇は離れなくて、この甘ったるい雰囲気に理性が食べられる音がした。首筋を、彼の指が這う。 「……っ、…駿く……」 指で触れられていた箇所に口付けられて、身体の中の筋がキュッと縮まる。このまましちゃうんだろうか。…全然良いのだけれど、緊張しすぎて後に記憶喪失になるに違いない。でもしたい気持ちもあって、支離滅裂だ。そんな思いが身体から出ていたのだろうか、駿くんの動きがピタリと止まった。 「…あ……、」 「……、?…」 「………ごめん、俺……。」 すくっと正座すると顔を俯ける駿くんが、あざとい通り越して正義に見える。……いやいやそうではないのだけれど。別に止めなくても良かったのに、とは身体が粉々になっても言えない。私もサッと正座の体勢になる。 「……嫌…とかじゃなくて。あの頃と違うくって驚いただけで」 「違う?」 「…その、雰囲気とか……男の子感?っていうんかな」 「…あー……。」 頭をポリポリ掻く姿は、まるでドラマから出てきた人のようだ。泳いだ目は、終点の私にまもなく行き着いた。ちょっと悪いことをしたかのような、オドオドしたような、少し上目遣いの目が私を見る。 「それは……あの頃も、思ってた。」 「え…?」 「名前ちゃんに…その…、こう……。なんか、うん…触りたい、的な……」 「!」 「でももちろんそんなんあかんって分かってたから!…っでも抑えきれへんくて何回かチューしちゃったりしたけど……、〜〜…」 ……な、にを言っているのだろうか?必死に誤魔化そうと言い訳を並べる姿は、あの頃本当に私のことを好きだと言っているみたいにしか聞こえなくて。私もつられてテンパってしまいそうだ。だ、だってわた婚のときは全力ビジネスライクだったんじゃ……!?瞬き多めすぎる私に気付いた彼と目が合う。 「ま、待って。それじゃ駿くんがあの時本当に……、…えっ?」 「えっ?俺ほんまに結婚したいなって思ってたで?」 「えええええっ!?う…嘘やん。めっちゃビジネスライクやったやん!」 「あんだけ出してたのに!?」 どこがよ!!と突っ込むと、あぐらをかいて座り直す駿くん。ご機嫌斜め感を演出しようとしてるのか(もはやそれすら愛おしく感じる)。手持ち無沙汰だったのか、倒されたジェンガの破片を持って机の上で遊んでいる。いじけてる感がすごい……。 「"このままほんまに結婚する?"って聞いたら聞こえへんフリされたし……」 「…………えっ!どこで!?」 「海辺で。」 海、辺……!?と一瞬であの頃の記憶を捜索。あれだけ思い出したくなかったのに、こうも状況が変わると自ら思い出しに行くところ。と客観的誰かが嘲笑っている気がした。 一生懸命記憶検索した結果、もしかして…。と思われるシーンが該当した。 「駿くんの良いところ、もっといっぱいある。だから全人類に自慢したい!私の夫ですって」 「名前ちゃん、…」 「妻になれて嬉しかった。」 微笑みながらそう言うと、駿くんの足が止まる。繋がれた手がそれを教えてくれて、振り向く。さざ波の音が、彼の言葉と重なって消えていった。 「−−……、…」 「…?ごめん聞こえなくて」 「……」 「、駿くん?」 「…−−もしかして波ザーザー言ってて聞き取れなかったところ……、?」 「アハハ!ほんまに聞こえてなかったんかい。早とちり格好悪。」 嘲笑うかのように小さく笑って、やさしく腕を引かれる。駿くんの足の間に再度入出だ。後ろからお腹に控えめに回ってくる手を感じると、肩に小さな重みを感じる。耳元で聞こえる彼の声と相まって、ただの幸せな空間だ。 「……でもさ」 「ん?」 「それ、今聞いたらなんて答えてくれるんやろなぁ。」 「!、なんだろうね…」 「アハハ。なんか身体熱いけど」 「き、気のせいでは!」 「気のせいかぁ。」 寒いからあっためて貰おっと。と耳元で聞こえたそれと、余計に抱き締められてゼロ距離のバックハグ。…幸せすぎる。緩む口元が止められない。 「…駿くん。もっかいジェンガしよ」 「えぇ?また罰ゲーム受けたいん?」 「なんで私が負ける設定なんよ…。勝つから!ね?」 「あ、じゃあハンデとして俺この(体制の)ままやるわ。」 「のっ…望むところだ!」 「アハハ。俺の手が勝手に悪さしたらごめんな」 「えっ」 サワリタイホウダイ/2022.12.27 |