とある村から少し外れた場所に、物寂しさを感じさせる家があった。
そこに住むのは、たいそう美しい女だった。
目が合えばやさしく微笑み、手が触れ合えば照れたように顔を逸らす。彼女に出会った誰もが、彼女の赤く染まる頬から視線を外せなくなり、そして、地に足を縫い付けられたかのように動けなくなる。彼女はもはや魔物と称するべきほどの存在だった。
そうして彼女は、自分を熱く見つめる人間たちに、とろけるような声で囁く。
「どうか、わたしと、ひとつに」
熱い吐息が交差する。
じっとりとした汗が頬を伝って滴り落ちる。
指先がつたなく空をなぞる。
二つの影は、ゆっくりと混ざり合い、一つになる。
それでも足りない。
まだ、足りない。
彼女は自分の美しさも、それと同時に自分自身に潜む狂気も理解していた。
だからこそ誰にも見つからないように、その狂気を育むことができた。
彼女の本性を知る者はいない。
彼女に魅入った人間のその後を知る者もいない。
立つ噂は、どれも真実には程遠い。
深く深く、骨の髄まで貪るような口づけをやめ、顔を上げて熱のこもった溜息を漏らす。
口元の深紅をぬぐって、もはや肉塊と称すにふさわしい体に微笑みかける。
「ごちそうさまでした」
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