とあるところに貧しい少女がいた。
他人の目を盗むようにして生き、ゴミ山を漁り、泥水をすすって、死なぬよう、生きぬよう、細く、細く、生きてきた。

浮けば殺される。沈めば死ぬ。
その事実を、少女は聞いて、見て、感じて、脳の随まで刻み込んでいた。

年の近い少女が美しいドレスを身にまとうその姿を影から見つめながら継ぎ接ぎだらけの布切れを着て、華やかな貴族が胸を張って歩くその道を路地から眺めながら背中を丸めて歩く。
物だけではなく、恋も愛も友情も、神は少女にはなに一つ与えなかった。

それでも彼女が生きると決めたのはただ一つの思いからだった。

他の人の幸せを一つずつ手に入れる。それだけで私は幸せになることができる。

多くは望まない。一つずつ奪うだけ。ただそれだけでいい。
少女は、他者を踏み躙ることこそが、この地獄から這い上がる一番の近道だと知っていた。
かつて貴族が自分のテリトリーを荒らし尽くしたように。華やかな少年少女が自分の幸せを食い潰したように。

恨みも妬みも嫉みもない。ただ、引きずり落とすと決めただけ。

彼女ですら知らない異常なまでの熱は、確実に彼女の胸を焦がしていった。



そうしてただひとつの思いを育み、幾年もの時を重ね、少女はついに大人になった。

ぴんと伸びた背筋は自信の現れ。
頭を飾る黄金は勝者の証。
束ねた髪は美の象徴。
強気な笑みは絶対王者の嗜み。

恋に恋する馬鹿な女どもからきらびやかなドレスを強奪し、他者を見下す貴族からプライドを奪い取る。恋する少女から少年の熱い視線を横取りし、友も家族も金で買う。

何一つとして不満も不自由はなかった。
自分の一言で全てが変わる。
自分の一挙一動で国が傾く。
これほどに愉快なことがあるものか!


嘘と虚実に満ちた生涯だった。それでも女は満足だった。誰に問われても、何度問われても、幸せだったと言うだろう。


そうして今、再び国を作り上げる。
欲望が渦巻く、強奪が蔓延る、悲喜が交じり合う、国という名の地獄を。



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