綺麗な銀髪が見えました


「誰だテメェ……」
「お、お、お、」

お前こそ、誰だよ……!?
泣き叫ばなかったことを褒めて欲しい。そもそも、私が知りたいぐらいだっていうのに。
私は、だれ?



どのくらい経ったのだろうか。
長い銀髪を揺らす黒い服の男に銃口を向けられ、私は蛇に睨まれた蛙のようにその場に縮こまっていた。
────カチリ
あ、もうここで私の命は終わりか。グッバイマザー、私に素晴らしい人生をありがとう。
いやぁしかし、私は一体どうなってしまったというのだ。さっきまで、リビングでのんびりテレビを見ていたはずである。けれどあんまりそれがつまらないものだから、眠くなってしまって、そうして……目が覚めたら、なぜか殺されそうになっていた。
これだけでも十分ありえない話なのだが、さらに信じられないことに────── 体が小さくなってしまっているのだ。いや、意味が分からん。
けれど、足がたいそう短く靴も小さいし。手も紅葉のような可愛らしい大きさになってしまった。茶色に染めていたはずの長い髪は、すっかり真っ黒に。マニキュアはどっかに消えた。怖くない?
服まで全然違うものを着ていて、もしかして私記憶喪失?なんて思ってみる。実は私の記憶は前世のもので、転生したのに恐怖から過去の記憶がフラッシュバックした、とか。いやこの場合、過去とは言わないのか?

「意味分かんない……」
「フッ……恨むなら、お前を身代わりに置いて行ったギムレットを恨め……」
「え?どういうこと?」
「すぐにギムレットも天国に送ってやる……幸せに向こうで暮らすんだな」

キラリと銃が光ったのを見て、思わず涙がポロリと溢れた。死ぬのは、怖い。怖いよ。とても現実を直視できなくなって、私はギュッと目を閉じた。

「やめなさいよ、相手は子供じゃない」

突然聞こえた声と、コツリというヒールの音にびくりと体を震わせる。

「黙れベルモット……余計なお世話だ」
「Hi, cutie. 名前は?」
「……苗字、名前」

クスクスと柔らかく笑う声に恐る恐る目を開けた。信じられないほど震えた情けない私を優しく見つめる、綺麗な女性。
知ってる。
ふと私の中の何かがそう囁いた。知っている、けれど分からない。思い返してみれば、声だってどこか聞いたことがあるような……でも、こんな友達いたっけ。こんなに美しくて艶やかな友達、友達じゃなくて知人にしたって、忘れるわけないのに。

「この子、どうしてここにいるのよジン」
「"あの実験"を実行に移せと上からの指令でな……」
「それで?」
「フン……どうにかして、ギムレットが逃げたんだろう。
こいつをここに置いてな……」
「ならこの子、殺す必要ないんじゃないかしら」
「見られた以上……始末しねぇとな……」

ヒッと思わず息を飲んだ。私はまだ、死にたくない。少なくともお嫁さんになるまでは。

「貴女いくつ?」

何歳かなんて私が聞きたいんだけど?とは言えないので、ただ涙を流して首を横に振る。ああー男の人が顔をしかめた。すみません、泣いててウザいですよね。でもあなたがそんな怖い顔をしてる限り泣き止めませんよ、ええ。

「うぅっ……」
「分からないの?」
「……っうん」
「どこに住んでるのかしら」
「……っとう……っヒック……ううん……」

えっこれ私が覚えている住所言って良い感じなのだろうか。いや言ったところで、誰が住んでるか分からないよね。だって私、なんかちっちゃくなってるわけじゃない?
だんだん状況を理解してきて頭がガンガンと音を立て始めた。いや私って誰、まじで。

「おい、ベルモット……どけ。そいつを始末する」
「ジン!」
「なんだこんなガキに情が湧くとは……ついに頭もイかれたか?
フンッ……安心しろ。2人まとめて天国に送ってやる……天国で仲良く家族ごっこでもしてるんだな……まずはお前だ」

スッと隣にいるベルモットさんに照準を合わせた男に息を飲んだ。だめ、そんな、この女の人が死ぬの?私のせいで?

「ッダメ!」

弾かれたように体が動いた。さっきまで地面に縫い付けられたようだったのに。そうして我も忘れて、男の足元で泣き叫んだ。

「この人殺さないで!天国で……天国で家族ごっこなんてしなくていい!」

私のせいで誰かが死ぬなんて、そんな罪悪感には耐えきれない。その気持ちが男に対する恐れに勝る恐怖になって私を突き動かした。

「やだ!私はやだけど、いいから……この人は殺さないで!」
「チッ……うるせぇ。じゃあお望み通りテメェを、」
「待ってジン。黙ってれば散々言ってくれたけど……私を殺したらあの方がなんていうか」
「……チッ」
「この子は私が引き取るわ……安心して。親には返さないし、今日の記憶が残ってるようなら即……手を打つわ」
「フンッ……勝手にしろ」

身を翻して去っていく男の人を見て、ホッと地面にへたり込む。良かった、私はすんでの所で命拾いしたようだ。

「行くわよsuger」

差し出された綺麗な手を握ると、世界がぐらりと揺らいだ。